第二章 龍神の剣の世界へ(四)
学校で不良の金寺と喧嘩した後、うちに帰ってゲームの続きをやる進。だんだんとゲームにのめり込んでゆく…
うちに帰ると、かばんをベッドに放り投げてから、ゆっくり私服に着替えた。そして、テレビをつけて、床の上のゲーム機の電源を入れる。学校であんなことがあったのでちょっと億劫だったが、気を取り直していたので何とかやれそうだ。
「龍神の剣」のタイトル画面が現れて、俺は画面上のコンティニューを選択する。
前回の続きが始まった。
今「すすむ」はレベル5の状態だ。
長老の話で、クワホコ村にいる教祖「アッジ」を倒しに行くことになった。黒い大蛇を祭る宗教の教祖だ。
敵を倒し続けてレベルをさらに上げ、8になった。山んばも6になって新しい呪文も覚えた。武器も 「銅の剣」に買い替えた。
その後もオレは近くの森でレベルを上げることにした。
【「金助があらわれた!」】
ん。何だ、こいつは。見たことがない敵キャラだった。
着ている服は腹掛けのようで、髪型もおかっぱ頭であり、まさかりのような物を持っている。
オレは仲間になるように持ち掛けてみた。
【「すすむは仲間になれともちかけた」
「金助は100銭を要求してきた」
「すすむは100銭を払った」
「金助は銭を受け取った。200銭を要求してきた」】
また要求してきたな…。
こんな敵は初めてだった。仲間にならないと金は受け取らず、攻撃してくるのが普通だ。
【「すすむは200銭を払った」
「金助は銭を受け取った。300銭を要求してきた」】
またか。これはどんどん取られるパターンかな。どうしよう。これから新しい防具も買いたいのだが…。
【「すすむは300銭を払った」
「金助は銭を受け取った。金助はよろいを要求してきた」】
はあ?まずいな
しかし、この防具は買いかえれば要らなくなる…。いいや。
【「すすむはよろいをやった」
「金助は900銭を要求してきた」】
オレは思わず独り言をもらしていた。
「お前マジいい加減にしろよ」
さらに金だと?しかし、断ったら、今まで払った金と鎧はどうなるんだ。倒したら取り返せるシステムになっているのかな…なっていないような気がするんだが…。
これは…苦渋の決断だ。
【「すすむは900銭を払った」」
「金助は逃げ出した!」】
「ああー!」
リセットボタンを押したい衝動にかられたが、ゲームを始めてから一度もセーブをしていなかった。
「くううう…」
顔を覆うオレ。
何ということだ…あの強欲め。あ、そうか。だから金助って名前なのか……くうう。騙された。ぬすっとじゃん。金寺よりひでえ。
その後、地道に魔物を倒し、レベルを上げ、鎧を買い、これからクワホコ村に行くところでゲームを一時中断することにした。電源を切る。その直前、心地よい疲労がオレを襲った。
鎧と金はとられたものの、レベルも上げたし、金も貯め直した。適度な満足感があった。
何だか耳元で風を感じる。
次の瞬間ぐるぐると何かが近くで渦巻く感じがした。空気が揺れて回っているような気配を感じたのだ。
一瞬何が起きたのかわからず、渦巻く気配がした方向に目をやったが、別段そこには何もなく、いつもの天井があるだけだった。さっきの風も感じない。ゲームに熱中し過ぎて思いのほか、疲れたのかもしれない。その後は天井の木目を見つめながらしばらくぼうっとしていた。あまりやり過ぎない方がいいのかもしれない。そういえばもう三時間近くやっていた。今日までの進行をメモ帳に記録する。
それからオレは窓を開けて外の景色を眺めることにした。目を休めた方がいいだろう。これは小学生の頃、「テレビゲームをやったあとは目を休めなさい」と母に何度もしつこいくらい言われてきたからだ。習慣である。
ベランダに出て、遠くの山でも見ながら、頭の中でゲームの内容をリフレインする。
当面の目標はアッジという人物を倒すことだ。だが、この手の話はアッジだけ倒せば済むとは思えない。どうせ祭っているという黒い大蛇もボスキャラとして出てきて戦闘になるんだろう。アッジは魔法使いキャラで、大蛇のサポートをするという展開になることもあり得る。レベルを上げたが、山んばの他にも強い魔物を味方にしていったほうがいいかもしれない。赤鬼とか青鬼とかがそこそこ強いので、そのへんがいい。強い敵と会うのは楽しみだ。
春の光に照らされて遠くの山の葉の新緑が生き生きと目に映っていた。四月の植物の匂いがほのかに風の中に漂っている。木々が生きているという証だろう。レベルを上げた満足感からか、その匂いを感じ取れるオレも今この世界で生きているという気がするなどと思った。
今日は宿題はやらなくていいや。そう、夏までは遊んでしまえ…。
オレは目を休めると、また部屋に戻り、コントローラーを手に取った。
その後、オレはレベル上げにまい進した。レベルは瞬く間に十七にまで上がり、途中、オオタカも仲間にした。茶色と白のまだら模様の体に尖ったくちばしをした鳥だ。目は、黄色い中に黒い瞳がある。パーティの一番最後尾にいても敵へ向かって飛んで行けるので、最前列にいるのと変わらない攻撃力でダメージを与えられるという能力を持っている。
途中で母に呼ばれたので、ゲームを中断して、一階で夕飯を食べて、歯を磨いて、風呂に入った。いや、これは冒険とは関係ないか…。
そして、ついにオレは教祖「アッジ」のいるクワホコ村の外れにある洞窟の地下四階まで行き、そこのセーブポイントでセーブした。もうすぐでアッジに会えるだろう。
時計を見るともう夜の十時だ。そこでオレはゲームをやめることにした。電源を切ると、布団にもぐる。
明日またこのゲームをするのが楽しみだ。ゲームの世界にどっぷり浸かっていた。




