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第二十一話……新府城築城

――天正七年(1579年)

 甲斐国・躑躅が崎館。

 とある吉日。


 穴山信君が勝頼の元を訪れた。



「ご陣代様、実は私の嫡男の婚礼を考えておりまして……」


「左様か、目出度いことだな。祝いの席には是非顔を出させてもらうぞ!」


「有難き幸せ! なれど未だに嫁の成り手がおりませぬ……」


「……ほぉ?」


 勝頼は不思議に思って尋ねると、なんと自分の嫡子の嫁に、勝頼の娘を所望したいとのことだった。

 

 ……なんて奴だ!

 その場の席にいた家臣たちも顔をしかめる。


 なぜならば、勝頼の娘はまだ赤子だったのだ。

 赤子を嫁に出せとは、子の親としては受け入れがたい話であり、ましてや相手は自分の主家なのだ。

 厚顔無恥にもほどがあった。



「いやいや、まだ我が娘は赤子ではないか?」


「いやいや、そこを何とか……」


 食い下がる穴山信君ではあったが、勝頼はなんとか諦めてもらうよう腐心する。

 そのやり取りは、主が臣下に過剰に気を遣う不思議な光景であった。



「穴山殿! いい加減になされぃ!」


 目に余る情景に、勝頼の側近である長坂長閑斎が苦言を呈したところで、流石の信君も諦めた。

 家臣たちの冷ややかな目線がこの話を押しとどめたのである。



 ……諏訪勝頼め!

 よくも、この御親類衆筆頭の穴山に恥をかかせおって。


 この話には、信君のみならず、彼の妻も大いに憤った。

 その要因は、彼の妻は信玄の次女であり、さらに彼の母は信玄の姉であった。

 よって、勝頼は信君の義理の弟にあたり、その血筋は勝頼よりも、武田宗家に近しいものだったのである。


 信君の頭の中では、自分こそが武田の統領たる自負があったのである。

 また、それを認める武田親類衆も少なくなかった。




――数日後。


 穴山信君は再び勝頼のもとを訪れる。

 勝頼は胃が痛かったが、話は婚姻の話では無かった。



「ご陣代様! かつてない大勢力である織田家に備えて、韮崎の要害に城を築いては如何でしょう?」


「……ふむぅ」


 武田家は信玄以来、甲斐本国には城を築かない方針であった。

 しかし、東に北条を敵に回した現在。

 織田と戦っている間に、北条が甲斐に攻め込んでくる可能性もあった。


 ……それより、先日の件もある。

 御親類衆筆頭の穴山信君の意見を断りにくい感情が、陣代でしかない勝頼にはあったのだ。

 それにより、この時の勝頼の思考は明らかに曇っていた。



「よかろう、城普請は真田昌幸に命じる!」


「有難き幸せ!」


 こうして、韮崎に城を築くことが決定した。

 城の名は新府城。

 勝頼の名のもとに、多くの国人や領民が動員された。


 なかでも、最も重い材木の負担を担わされたのは、木材産地である木曽谷を治める木曽義昌であった。

 この木曽谷は貧しく、人も少ない。

 この負担はとても堪えたのだ……。



「……なに故に、我々にかような苦役を!?」


 彼もまた、妻が信玄の三女である武田御親類衆の重鎮であった。

 同格だと思っている陣代の勝頼の為に、このような辛い負担をするのは、度し難い事だった。 





今回は意外といい話になったと自負 (ノ∀`)

比較的作者の頭が冴えた回かも!? (←うぬぼれw

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― 新着の感想 ―
[良い点] 陣代=<主君の留守を守る役。地方の代官。> これで謎が解けた! <中継後継者>より<陣代>というのが「枷」か! そりゃ<家臣団>より下ですわなぁ。 これは<信玄>最大の落ち度だった可能…
[一言] やっぱりどこの勢力も、一枚岩とはいかないんですねえ( ˘ω˘ ) いわんや戦国時代をや( ˘ω˘ )
[良い点] 頭が冴えているのはいつもじゃないですか。 [一言] うーん。ここまで来ましたか。 終末が見えてきたような。
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