第十九話……軍神の死
「第六天魔王おそるるに足らず!」
謙信の織田方に対する手取川の圧勝に際し、反織田の毛利や本願寺などは勢いを増し、織田方の勢いを圧倒すかに見えた。
――天正6年(1578年)春。
突然、上杉謙信が宴の席で体調を崩し、居城春日山にて死去。
享年49歳。
軍神と恐れられた男のあっけない最後であった。
「それは誠か!?」
上杉謙信の訃報は全国を駆け巡った。
北陸での上杉方の優勢は確定的であり、それは反織田同盟の優位を現していた。
それが突如消えたのである。
上杉氏は後継問題で内乱が勃発し、反織田どころではなくなった。
地方の有力な豪族は次々に織田信長への恭順へと傾いた。
雪崩れを打つように、反織田同盟は瓦解。
毛利や本願寺といった西国の反織田勢力は一転、窮地に追い詰められた。
反織田ということでは、武田家もそうであったが、勝頼にはもっと切実な問題が訪れたのであった。
武田領北部に隣接する上杉家の後継問題であった。
実子を持たぬ謙信の養子は二人。
景勝と景虎である。
この景虎は北条氏政の弟であり、勝頼は先日、北条氏政の妹を娶っているのである。
「勝頼殿! 是非景虎に御援軍を!」
北条家の依頼に際し、勝頼は真田昌幸に助言を求めた。
「どちら側に付くべきであろうか?」
「様子を窺い、有利な方に付くべきです!」
「……ふむう」
勝頼はとりあえず氏政の要請を入れ、一万五千の兵を率い上杉領境まで北上。
昌幸の言も入れ、とりあえず様子を見ることにしたのであった。




