大魔王は、封印の力を持つ聖女を殺す為画策する
「クロード! 祭ですよ、祭! 明後日、一緒に行きましょう」
隣町で配られていたチラシを片手に聖女は嬉しそうに俺の元へ駆け寄って来る。一人野原でのんびりと昼寝をしようとしていたのに。やかましい事この上ない。
「ああ。それ俺も行きたいと思ってたんだ」
嘘だ。祭なら油断しきったお前を楽に始末出来そうだから行くんだ。
角を消し人間に擬態した俺は、クロードと名を偽り数年前からこの静かな村に人間として住み着いていた。それもこれも聖女であるこの女を亡き者にするためである。聖女の能力は恐ろしくこのままでは俺の命さえ危うい。隙を見せたその時がお前の最後だ。やられる前にやらねば。
「楽しみですね。私、大きな綿あめが食べたいです」
「おまっ。この間太ったって言ってたじゃねぇか」
「いいんです! お祭りの時は別なんですよ。すぐクロードは意地悪言って」
「いや、そんなことないだろ。俺は常に優しい」
敵にこんな親切にしてやっているのなんて俺くらいなものだ。
「自分で言います? 優しいと思うなら治療院で暴れるのはよして下さい。この間も治療にきた貴族様追い返しちゃうし」
「あんなかすり傷。お前の力を使ってやる必要もないだろう?」
「その位ならすぐ治してあげられるのに」
聖女とはいえその力は有限だ。力を使えばしんどいし疲れる。この前なんて無理しすぎて鼻血出してぶっ倒れたじゃないか。もう忘れたのか? 他の人間の望むまま力を使っていたらいつか本当に倒れてしまう。
いや、俺にとってはそれはそれで好都合なんだがな。どうしてかこいつを見ているとつい口を出してしまう。
「クロードは本当に心配性です」
「お前が考え無しなんだ。俺が居なくなったらどうするんだ」
「あら、困るわ。そうしたらまた求婚者が増えてしまうもの。仕事が滞ってしまうわ」
「俺を番犬の代わりにするな」
「見た目だけは素敵なんですもの。いい男よけになります。……あら? 顔が赤いですよ。照れてます?」
「んなわけ」
この女は本当に。気を抜いていると意表を突くことを言う。油断ならない女だ。
「まぁ、いいや。俺はもう寝る。少ししたら起こして」
「もう。いつも昼寝ばっかりして」
麗らかな陽気に心地のいい風。俺はすぐ様眠りに落ちた。
「そうやってまた油断する……。角が出ていますよ。隠すならちゃんと隠して下さい」
夢の中、遠くでかすかに聖女の声が聞こえた気がした。