要らないボクと彼女との出会い
ボクは、いじめられていた。
理由はいろいろあるが、一番はたぶん『陰気だから』。
クラスカーストは最底辺で、最上位の女生徒からはずいぶんと詰られる。
家でもある理由から家族からいない者扱いされている。
もう嫌だ。
いつしかボクは、自殺することばかり考えるようになっていた。
「ちょっと、大丈夫?」
どれくらいぼんやりしていたのか、気がつくとスーツ姿の女性が覗き込んでいた。
「うわっ?!」
「あ、気がついたんだ。ずいぶんぼんやりしてたから心配したんだよ?」
辺りを見回すと、そこはいつも利用していた駅だった。
時刻は、夜の九時。
人影はあまりない。
「さっきからブツブツと何か言っていたみたいだけど、大丈夫?」
「あ、いえ・・・」
久しぶりに他人と話すためか、なかなか声が出てこない。
そんな様子にその女性は、何か察したようで何も聞いてこなかった。
「・・・まあ、何かあったらいつでも話してくれればいいから。私はいつもこれくらいの時間にここにいるから」
そういって彼女は何処かへ立ち去った。
ボクは久しぶりの他人との会話に、ほんの少しだけうれしく思った。
女性と出会ってから二ヶ月半が経った。
あれから女性とは何度も話をした。
いつもの駅、夜九時。
あまり多くを話すわけじゃないけど、それだけでボクはうれしかった。
そんな中、彼女のことが少しずつわかってきた。
彼女の名前はミコト、OLだそうだ。
「それじゃ、またね晶」
「あ、うん・・・」
そういいながらミコトと別れたボクは、いつものように駅のホームに佇む。
「そろそろ・・・」
ボクのつぶやいた声は、電車の到着アナウンスにかき消された。
ミコトと出会ってから三ヶ月、
「ねえ、私のところに来ない?」
彼女は唐突にそんなことを言い始めた。
「え・・・?」
いきなりそんなことを言われて、ボクは言葉に詰まる。
「いっつもこんな時間で少ししか話せないし。ちょっとくらい長めに話でもしないかなって」
「でも・・・」
戸惑うボクに、ミコトはさらに言い募る。
「いいじゃん。いこうよ」
「・・・ごめん、できない」
そう断ると、彼女の雰囲気が変わる。
「なんでよ、断るなんてひどいじゃない!」
「でも・・・」
さらに断ろうとすると、ミコトは私の腕を痛いほどに握り締めてくる。
「ねえ、イイデショ。逝コウヨ一緒ニ・・・」
すでに彼女の姿は変わり果てていた。
パリッとしていたスーツはズタズタになり、手足は血に塗れていた。
そして頭からは中身がこぼれだしており、やさしかった顔は恐ろしい憤怒に変わっていた。
「やっぱり、死んでいたんだねミコト・・・」
「ソウヨ。私ガ以前振ッタ男ニツ突キ落トサレテネ。ソレ以来私ココニ縛ラレタ。誰モ私ニ気ヅイテクレナイ。ソレガタマラナクサミシイノヨ・・・」
「そうだったんだ。ボクもみんなからいないもの扱いされて寂しかったんだ。こんな、普通じゃない力があったから・・・」
そういいながら、ボクは右手に力をこめる。
「ソレハ・・・」
「『霊力』なんだと思う。ボクはこれのせいで周りから拒絶されるようになった」
「私ヲ除霊スルノ・・・?」
ボクは頷く。
「このままだとミコトは悪霊になる。ボクは友達にそうなって欲しくない、だから・・・」
下を向いたとき、思わず涙が零れ落ちる。
「優しいね、晶は」
その言葉に顔を上げると、そこにはいつものミコトがいた。
「最初は、不思議な気配がしたから声をかけたの。そうしたら私が見えるんだもの。うれしくなって、晶と話すのが楽しくって・・・」
ミコトの顔が、後悔に歪む。
「そのうち晶が妬ましくなって、私は死んでいるのにどうしてって。それならいっその事晶もおんなじになればって・・・」
そういいながら震える彼女を、ボクは抱きしめる。
「ありがとう、ボクはミコトに救われたよ。ボクを見てくれた、友達になってくれたミコトに」
ゆっくりとミコトに霊力を送り込む。
「だから、またね。いつか向こうでミコトに会いに行くから。もっといっぱいお話しようね」
「ええ、絶対よ?あっちで待ってるから。そのときはお互いの彼氏の話でもしましょう。またね、晶」
そういい残して、ミコトは向こうへと旅立っていった。
「お互いの彼氏、か。できるかな、ボクに」
ううん、違う。
できるように頑張るんだ。
「まもなく電車が参ります」
ボクは、数年ぶりに晴れ晴れとした顔で電車に乗り込む。
「またね、ミコト」
(ええ、またね。晶)
~オチ~
「ああ言ったけど大丈夫かな?晶って可愛いとか綺麗よりもカッコいい顔立ちだし。案外彼氏じゃなくて彼女ができたりして」
「ハックシュン!うう、ミコトが噂でもしてるかな?」
「ハアハア、明るくなった晶お姉さまステキ・・・、お持ち帰りしたい・・・」