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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
7章 栄光は誰の手に?
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売り上げアップのヒントはすぐ側に⑥

 ニーナはリュックサックからレシピブックを取り出すと、たったいま閃いたアイデアをそこへ書き出していく。手ごろな机がなかったので、ニーナは白い石畳の上に膝をついて、長椅子を机の代わりとした。隣りにいた子供たちを始め、周囲にいた人たちはニーナのその行動を不思議そうに見ていたが、ニーナ自身はまったく気づいていなかった。


「容器はあれにして、となるとレシピはまた考え直しだけど、液体状にするには……」


 これまで最初の完成品の形に囚われていた。さらにいえば、高めの値段設定では売れないと決めつけていた。けれど上位を狙うなら、いまの形ではダメなんだ。


 ニーナは新たな形をイメージし、それを実現するために必要な素材を知識のなかから引っ張り出して、一から手順を再構築していく。そしてすらすらと書き終えると、一度冷静になって創作したばかりのレシピを読み返しながら、うんうんと一人で何度も頷いた。


 ──いける。このレシピならきっといまよりもっと売れるはずだよ!


 あとはこれをどう売るか。それが問題である。

 ニーナはここまで学んだことを箇条書きにしてみることにした。


 ・ついで買いをしてもらうためにも、主力商品に関連する商品もおこう。

 ・選べる種類が多いと楽しいし、色々と試したくなっちゃう。

 ・大きいは正義。もっとド派手なことをして、もっと目立っちゃおう。

 ・見るだけでなく、香りや音で人を惹きつけよう。

 ・ポーション以外にも試してもらったり、実演して性能を知ってもらおう。

 ・炎が赤いと誰が決めた? カラフルなほうが面白いよね。


 思いつくままに書き出してみたが、もちろんこれらすべてをすぐに取り入れることはできない。準備する時間は限られているのである。


 ──色も香りも、いろんな種類を用意してお客さんを喜ばせたい気持ちはあるけれど、それをいまから開発して、商品化するのは時間的に無理。それは今後の課題として、とにかくいまは目立つ方法と、商品の良さを知ってもらう工夫を考えよう。私の発明品のなかで売上が取れそうな商品はあれとあれだから……あれを用意して、ロブさんにも協力してもらって……あっ、後ろに植木鉢を並べて、捨てずにとっておいた植物栄養剤の試作品も使って、賑やかな感じに装飾したら面白いかも! ……シャンテちゃんには怒られちゃうかもしれないけど。


 あれもこれも、思いついたアイデアはなんでも試してみよう。どうせなにか行動しないと上位入賞なんて夢のまた夢。それにニーナは販売に関しては素人同然で、結局どうすれば売れるのかは、いまになってもわからない。正しい選択ができないのなら、もういっそのこと時間の許す限り全部試してみようと思うのだ。


 ──でも、これだけじゃ足りないよね。もっとこう、人がわぁーっと集まってくるような、そんなアイデアが転がってないかなぁ。


 そのときちょうどステージが始まって、ニーナは後ろを振り返った。登場したのは司会進行を務める二人組。タキシードを着た年配の男性と、華やかなドレスに身を包む若い女性である。どうやらこれから骨とう品のオークションを始めるらしい。


「えー、つまんない」


 そういったのは隣に座っていた男の子である。そりゃそうだよね、とニーナは苦笑した。かく言うニーナも、歌とか踊りとか、そういうのを期待していたのだが。


「そうね。このあとビンゴ大会みたいだから、あとでまた来よっか?」


 母親が子供たちをなだめている。田舎者であるニーナはビンゴ大会がなにか知らなかったが、子供たちはそれを聞いて大はしゃぎだ。


 ──ビンゴ大会ってなんだろう? それにどうしてこのお母さんは、このあとビンゴ大会が行われるってわかったのかな?


 ニーナは視線をあちこちに向けてみる。するとステージの舞台近くに看板が立てられていて、そこに進行のスケジュールが記されてあるのを見つけた。よく見ると、確かにオークションのあとにビンゴ大会が開かれるようである。また隣にもう一枚看板が立てられてあって、そこには明日のステージの流れが順番に記されてあった。


 ──そっか。ミスコンテストは明日なんだ。たしか当日に飛び入り参加もできるって話だけど。


 以前シャンテに参加を勧めたら、ものの見事に断られてしまったことを思い出す。優勝したら賞金が出るんだよと説明しても、断固拒否されてしまったのだ。


 ──でも、これってチャンスかも。私みたいなちっちゃな子がステージに参加したら笑われちゃうかもしれないけれど、<大人顔負けグラマラスチョコレート>で華麗に変身したら、みんなすごいと思ってくれるかな?


 そしたら自作の発明品の良い宣伝になって、飛ぶように売れてはくれないだろうか。ニーナは近くに青空色のポロシャツを着るスタッフを見つけて、話を訊いてみることにした。


「あの、すみません。明日のミスコンテストのことでちょっと話を訊いてみたいんですけど?」


「あら、参加希望者かしら?」


 愛想のよさそうな女性はにこりと笑った。


「えっと、検討してみたいと言いますか……」


 ニーナはステージ上で自作の発明品を持ち込んで、それを利用して美人に変身してもいいのか、それは卑怯な行為に当たらないのかをスタッフに訊ねた。すると女性は笑顔で、全然問題ないですよ、と言う。


「むしろこの街のミスコンテストのテーマは<変身>なんです。綺麗な人はより美しく、そうでない人も錬金術の力で大変身。ミスコン参加者と錬金術師が二人三脚で挑む、これはそういう大会なんです」


「なるほど。ちなみに錬金術師本人が参加するというのは……?」


「もちろん構いませんよ。例年そういうかたもいらっしゃいますし」


 ──これだ。これに参加すれば<大人顔負けグラマラスチョコレート>を思いっきり宣伝できる。ついでに<携帯用蚕ちゃん>で華麗にドレスアップすれば、一気に二つも商品を宣伝できちゃうんじゃない?


 ニーナは一筋の光明を見つけた気がした。たとえコンテストで優勝できなくても大々的に宣伝することができれば、明日は今日よりもずっと商品が売れるかもしれない。そうなれば無理だと思っていた三位入賞にも手が届くかも。強がりではなく、いまたしかに逆転までの道筋が見えたような気がした。


 ──こうしちゃいられない。早くお店に戻って、思い浮かんだアイデアをシャンテちゃんたちと話し合わなくちゃ!


 ニーナはスタッフにお礼を述べると、急いでシャンテたちのもとへと駆け出した。

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