表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
5章 ロゼッタお嬢様のわがままな依頼
47/262

ライバル登場!? 鋼線の錬金術師の息子②

 ──この人も優勝を目指しているんだ。そうだよね、当然だけど一番を目指すということは、この街のすごい錬金術師たちと競い合うことになるんだよね。


 ニーナがそのことをはっきりと意識したとき、青年もまた視線をこちらへと向けてきた。そして低い声で静かに問いかけてくる。


「君のことは知っている。先日の事件で話題となった、期待の新人錬金術師。それが君なんだろ?」


 向けられた青年の眼差しは、いまははっきりとニーナの瞳を正面から見据えている。彼もまた、ニーナのことをライバル視しているのだ。


「その様子だと<青空マーケット>のことは知っているな?」

 

「うん」


「出るのか?」


「うん。私たちも一番を狙うよ」


 青年の鋭い目に力がこもる。物言わぬ威圧感に肌がひりつくようだ。


「事件のあと、君の発明品に関する記事を読んだ。<七曲がりサンダーワンド>と<ハネウマブーツ>について書かれたものだったが、あの欠陥だらけの発明品で優勝を狙おうとは訊いて呆れるよ」


「なっ……!?」


「また別のインタビュー記事によれば、君は村人からガラクタ発明家と呼ばれていたそうじゃないか。君はそれを嫌がったらしいだが、僕はまさにピッタリの名前だと思ったよ」


「その名を気安く呼ぶな!」


 ニーナが叫んでも、青年は止まらない。


「一番を目指すと軽々しく口にするけれど、君が有名になれたのは事件の解決に一役買ったからに過ぎないんだ。決して発明品が優れていたわけじゃない。そんなことも分からずに勘違いするなんて、見ていてあまり気分のいいものでは無いな」


 両手をぎゅっと握りしめて小さな握りこぶしを作る。悔しいけれど、青年の言ったことは事実。それはニーナも痛いほどよく分かっていた。

 でもだからこそ黙ってなんていられない。ここではっきりと宣言しなくてはいけないのだ。


「……そうだよ。私の発明品は欠陥だらけのガラクタ品で、ガラクタ発明家は私にピッタリの名前だ。そんなこと、わざわざ指摘されなくても分かってるんだ。でもだからって一番を諦める理由にはならない。目指す理由があるんだ。夢のためにも、叶えたい願いのためにも、あなたにだって負けられないんだ!」


「……理由がある、か。一番を目指すのは君の自由。勝手にすればいいさ。とはいえ、僕にだって負けられない理由ぐらいある。賞金にも副賞にも興味がないけれど、それでも君には負けられない。この世界は気持ちだけで結果を残せるほど甘くはないということを、僕が証明してあげるよ。……行くぞ、レックス」


 斜めがけかばんを背負い、そのまま一瞥くれることなく青年は店をあとにしようとする。そんな兄の後ろを、レックスと呼ばれた弟が慌てて追いかける。


 そこへ、待って、とニーナは後ろから声をかけた。


「あなたの名前、訊かせてよ」


 青年は立ち止まる。そしてほんのわずかだけ振り返って、こう答えた。


「僕の名はアルベル。鋼線の錬金術師マクスウェルの息子、アルベルだ」







「それにしても激しい口論だったね。見ててひやひやしたよ」


「すみません、お店のなかだというのに……」


「そこは気にしなくていいよ。他にお客さんもいなかったしさ」


 アルベルが去ったあとも、店内には舌戦の余韻が漂っていた。ニーナの頬はまだほんのりと赤みを帯びており、シャンテの表情もいつもより険しい。強力なライバルが現れたということは、それだけ入賞の可能性が低くなってしまったからだ。


「それにしても珍しくアルベル君が熱くなってたね。ニーナさんたちのことをかなり意識してる証拠じゃないかな」


「そうなんですか?」


「ああ。普段の彼はとても穏やかで、父親に似て寡黙な人だよ。職人気質とでもいうのかな、もくもくと依頼をこなすタイプの錬金術師で、そのぶんこだわりも強いんだ。調合に使う素材も自分で採取できるものは直接目で見て選びたいと、よく探索に出かけては、今日みたいに使わない素材を売りに来てくれるんだ」


 確かにニーナの作品を欠陥だらけと酷評したことを考えても、こだわりは相当強そうだ。錬金術師としての実力が伴っていないのに有名になったことで、必要以上に敵視されているのかもしれない。お前の発明品なんかには負けないと、ある種の宣戦布告だったのかも。


「ねぇ、アルベルは有名人の息子って話だけど、彼自身どんな発明をしてるの?」


 シャンテがフレッドに訊ねる。


「彼も普段は父を手伝って<ワイヤーバングル>の調合に取り掛かってるよ。幼いころから父親に錬金術を仕込まれていたみたいだから、かれこれもう十年以上前からになるんじゃないかな。毎年の<青空マーケット>にも親子で参加してて、今年こそはと意気込んでるはずさ」


「今年こそは、ということは、去年はあまり順位が良くなかったんですか?」


「悪くはなかったはずだけど、三位入賞は逃してたんじゃないかな」


「あれだけ便利な発明をしても入賞すらできないんですか……」


 ニーナは今になって商売の難しさをあらためて思い知る。わかってはいたけれど、ここクノッフェンで成功するには生半可な発明ではダメみたいだ。厳しい現実を前に、ニーナとシャンテは二人して俯いてしまった。そこへフレッドが明るい声で、そう難しい顔しないで、と言ってくれる。


「<ワイヤーバングル>の売り上げが伸び悩んでいるのは、ある意味で人気商品の宿命みたいなものだから、二人が気にすることじゃないよ」


「えっと、それってどういう意味ですか?」


「つまり、これまでの売れ行きが良すぎたってこと。そもそもだけど、初代<青空マーケット>のチャンピオンが、アルベル君のお父さんであるマクスウェルさんなんだ。で、そこで初めてお披露目された商品こそが<ワイヤーバングル>だったんだよ」


「へー、そうなんですね!」


 意外な歴史である。今年でちょうど十回目のイベントだから、<ワイヤーバングル>が世に出たのは十年前ということか。いまでこそ国家騎士団を始め、多くの冒険者に愛された商品だけど、結構最近の話なんだなと思う。でもこれで、アルベルが今回のイベントにこだわる理由がちょっとわかった気がした。


「魔法のワイヤーもすごく好評だったらしいけど、なにより<ポインタ>と呼ばれる先端部分が絶賛されてね。そのあとも改良を続けた結果、三年続けて入賞を果たしたんだ。ただそれ以降は苦戦続きみたいでさ。というのも、<ワイヤーバングル>は消耗品でもないから一度買ったらそれっきり。買い替える人が少なくて、多少性能が良くなった程度では見向きもされなくなってしまったんだよ。それにこの街の若者は新しいもの好きが多いからね」


 なるほど、だからここ最近は入賞が難しくなったのか。フレッドが売れなくなった理由を「人気商品の宿命みたいなもの」と表現したのも頷ける。


「それじゃあアルベルさんは、今年は別の商品で勝負に出るんですか?」


「いや、彼は父親の発明に誇りを持っているからね。あくまでも<ワイヤーバングル>の改良品を売り込むつもりのようだよ。今年は特にワイヤー部分を大きく改良したみたいだから自信あるんじゃないかな。それになんだかんだ言っても人気商品であることに変わりはないし、新作を待ち望むファンも多いから、優勝を狙うニーナさんたちにとってはかなりの強敵だと思うよ」


 アルベルにも負けられない理由があると知った。だからこそ強敵になる予感がした。一番を目指すなら避けては通れない難敵だ。

 とはいえ、やるべきことは変わらないわけで。


「そうなんですね。でも誰が立ちはだかろうと私は、私の発明品に全力で向き合うだけです。というわけでこのお店に<魔イワシ>は置いてありますか?」


 そうしてニーナは栄養剤の原料として<魔イワシの干物>と<月光草><太陽の石の欠片><マーレ海産の昆布>の四つを買い求めた。それからロゼッタの願いを叶える発明品を作り上げるため店内の商品を隅々まで眺めた。ロゼッタはどのような形の発明品でも構わないと言ったけれど、ある程度の効果を持続させる必要があることを考えると、やっぱり体内に摂取するタイプの方が効き目がありそうだ。となると薬か、あるいは飲み物か……


 ──でも、苦いのも酸っぱいのも辛いのも苦手だって言ってたよね……


 なんともわがままなお嬢様だ。思い返してはつい苦笑いを浮かべてしまう。


 ──よし、こうなったら、うんと甘いお菓子を作ってみようか!


 ニーナは商品棚から<カカオマス><カカオバター><マジカルシュガー><デカメロン><リンゴ三個ぶんのリンゴ>の五つを選んでみた。そう、作るのは魔法のチョコレート。一欠けら食べるだけで痩せられる、名付けて<ダイエットチョコレート>である。これで完璧だという自信はないが、ひとまずはこの五つの素材を原料に試作品を作ってみることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ