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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
5章 ロゼッタお嬢様のわがままな依頼
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失敗作よ、よみがえれっ!

 家に戻ってきたニーナたちは椅子を並べて隣り同士に座ると、テーブルの上にレシピブックを広げた。それは、これまでニーナが挑戦してきた発明品の調合法が書かれたものであり、成功も失敗も、そのすべてが記録された大切な手帳である。


 ──本来は人に見せるものじゃないけど、シャンテちゃんが相手ならいいよね。


 見てもらう目的は店内で話した通り、<青空マーケット>で販売する商品を選ぶため。ニーナの発明品はそのままでは売れない欠陥品も多いと自覚しているからこそ、改良が必要なわけだが、残念ながらそのすべてのレシピを見直すには時間が足りない。そのため、シャンテと一緒に改良に取り掛かる商品を選ぼうと思っていた。


 ちなみに、出店するにあたっていくつかルールがある。一つは販売時の上限価格が1万ベリルまでと定められていること。もう一つは、過度な安売りはしてはいけないということ。具体的には、原価を下回るような価格設定をしてはいけないということだ。ただし、どうしても売れ残りそうで困るという場合に限り、イベント終了三時間前から、最大半額まで値下げをしても良いという決まりになっている。


 参加者はこれらのルールの枠組みに従って商品を揃えることになるが、基本的にニーナの発明品は安価な素材を使用している(というより、リンド村では安価な素材しか手に入らなかった)ため、枠組みからはみ出す心配はなさそうだ。唯一<ハネウマブーツ>を販売するなら上限価格を超えることになるが、もともとあれは安全面の課題をクリアしない限り売らないと決めていた。


「とりあえず順番にページをめくっていくから、これは売れる、と思うものがあったら教えてね」


「りょーかい」


 ページをはらりとめくる。

 記念すべき最初の調合品は<羽付きもこもこ帽子>だ。おばあちゃんに作ってもらった<天使のリュックサック>に憧れて、帽子に羽をつけようとしたのが調合のきっかけだった。結局は上手くいかなかったけど、その数年後に、いまも愛用している朱色のベレー帽へと形を変えて調合に成功している。羽はないけれど、朱色のジャケットと色をそろえたお気に入りだ。


 またページをめくる。

 次へ、次へ。


「あっ」


 ニーナが小さく声を漏らすと、どうしたの、とシャンテは不思議そうに首を傾げた。


「ううん、何でもないんだけど、この<ぽかぽかホットレモネード>にはちょっと思い入れがあって」


「へー、どんな思い出?」


「えっとね、これは私が初めて調合に成功した発明品なの。といってもわざわざ錬金術で作り出す必要もなかったものなんだけどさ。でもお姉ちゃんがある日風邪をひいて、ずっと寒い寒いって布団のなかで震えてて、その年の冬は特に寒かったから、なおさらで。だから何かしてあげたくって、それで調合したのがこのレモネードだったんだ。初めて成功した発明品で、お姉ちゃんにも喜んでもらえて、だからとっても思い入れがあるの」


「そうだったんだ。いい話じゃない」


「いやぁ、それが今度は体が熱くなりすぎて、汗かきすぎて脱水症状になりかけたんだよね。お母さんが異変に気付いてくれなかったら危なかったよ」


 ニーナたちは苦笑しながらも、次のページへと手を伸ばす。

 どれもこれも少なからず思い入れがあって、そのときのエピソードをシャンテが面白がってくれるので、ついニーナも楽しくなって語りだす。たまにこうしてお姉ちゃんとレシピ帳を見返しながら笑いあったっけ、なんて思い出しながら。


「あれ、この<つむじ風の卵>って、なんだかこの前使った<バケツ雨の卵>に名前が似てるわね」


「そうなの。もともとはこっちが先なんだ。村に住む同い年ぐらいの男の子から依頼されて作ってみたの」


 <つむじ風の卵>は、小麦農家の息子であるダンの「ロマナさんのスカートのなかをどうしても覗いてみたい!」という強い願いを叶えるために、ニーナが錬金術で編み出した魔法の道具だ。使用した素材は<コカ鳥の卵><コカ鳥の羽><熱したマグマストーン>の三つ。ニーナの発明品にしては珍しく、ただただそよ風を発生させるだけで、竜巻や突風とは無縁である。


 これにはダンも大喜びで、実際に企みは見事成功。ダンとテッドの前で純白のパンティがあらわとなった。

 しかし、ロマナからは当然のごとく大不評。すぐにニーナの錬金術の仕業だとバレて、頭上に雷が落ちたことは言うまでもない。


「あはは、なにそれっ! そんな依頼も叶えちゃったの!?」


「だって、レシピが思い浮かんじゃったんだもん。試してみたくなるじゃない」


「いや、気持ちはわかるけど、そりゃあお姉さんも怒るわ。けど、案外こういうくだらないけど試してみたくなるような発明品が<青空マーケット>では売れたりするかもね」


「あっ、そうかも。家族連れとか、地元の子たちも来るから、子供向けの商品も売れたりするってメイリィさんも言ってたもんね」


 よし、これは販売してみることにしよう。調合も簡単で時間もかからないし。それにニーナたちを有名にした巨大ゴーレム事件で<バケツ雨の卵>の名前は知られているから、こっちにも興味を持ってくれる人はいてもおかしくない。


 ──というよりさっそく一人、いや一匹のブタが興味を示してるね。でも絶対にあげないよ? だってこれを渡したらシャンテちゃんが怒るの目に見えてるし。


 ニーナはロブの熱い視線に気が付かないふりをして、次のページをめくる。


「それにしても結構細かく記入してるのね。赤ペンを使った訂正の書き込みもすごいし。いくつかのレシピは何度もやり直してるようだけど、この手帳のなかのどれぐらいのレシピが実際に形になったの?」


 うーん、どうだろう。

 ニーナは首を傾ける。


「三割ぐらい……かな。形にはなったけど欠点だらけで、それこそ<ガラクタ品>と呼ばれても反論できないような作品も多かったよ。ほんとは改良案が浮かんで、今度こそ見返してやるって思っても、それを実現するための素材が手に入らなくて。だから馬鹿にされたまま何もできないことも多かったんだ。いまは近くに素材屋さんがあって、何度でも挑戦できる環境で暮らせるから幸せだよ。素材採取を頼める冒険者さんともお友達になれたしね」


「それはどうも。でもそっか。改良案が浮かんでも素材がないと調合できないから、レシピだけを記したまま実行できていない発明品も多いんだね。つまりこのレシピブックにはお宝が眠っている可能性があって、アタシたちはそのお宝を掘り当てようとしているわけだ」


「おぉ、お宝が眠るレシピブックかぁ。その表現は嬉しいなぁ!」


 そんなわくわくするような例えをしてもらったことがなかった。ニーナは嬉しくて頬がゆるゆるになる。今度から私もその表現を使わせてもらおうと思った。


「あれ、そういえば」


 シャンテがレシピブックに視線を落としたまま呟く。

 手を止めたページには<魔イワシ入り植物栄養剤>の調合法が書かれてあった。


「<激辛レッドポーション>の試飲販売は結局どうするつもりなの?」


「えっと、私はやってみたいなと思ってるんだけど。でも私ひとりじゃ販売しながら配るのは手が回らないから、シャンテちゃんにも協力して欲しいなぁって。だめかな?」


「もちろんお願いされなくてもそれぐらいは協力するわ。アタシたちのためでもあるんだし。ただそういうことじゃなくて、水薬の原料ってたしか庭に植えているミニトマトなんだよね?」


「そうだよ」


「あれって、他では売ってないのよね?」


「うん、あれはオリジナルの野菜だからどこにも売ってないよ」


 庭に植えられた<スロジョアトマト>はニーナが<激辛レッドポーション>を制作するために編み出した野菜で、ミニトマトと唐辛子を掛け合わせている。正真正銘のオリジナル野菜で販売もしていないので、この家の庭と、あとは実家に残してきた苗木からしか手に入れられない。


 でも、それがどうしたんだろう?


「試飲販売って結構な数を配らなくちゃ意味ないけど、それだけポーションを作る必要があるってことよね。で、あのミニトマトは素材屋でも売っていないと」


「あっ、そっか。たくさん配ろうと思ったら、それだけトマトの実が必要なんだ」


 シャンテの言いたいことがようやくわかった。調合には素材が欠かせないけれど、ポーションの作成に必要な<スロジョアトマト>はニーナが育てている分しかない。つまりこれから当日の三週間までのあいだに実ったトマトしか利用することができないのだ。これは大問題である。


 ただ、この問題を解決するための鍵を、既にニーナはレシピ帳のなかから見つけていた。

 そう、シャンテが手を止めたページに書かれてある<魔イワシ入り植物栄養剤>を調合すればいいのである。


「改良すべき商品の一つ目はこれで決まりね。植物栄養剤なら家庭菜園を楽しむ人たちにも人気出るでしょうし、効き目次第ではきっとメイリィの店でも取り扱ってもらえるでしょ」


 そうしてニーナたちはまたページをめくっていく。あれやこれやと笑顔で意見を交わし合った。

 そうして残りのページも少なくなってきたところで、ふとニーナの手が止まった。そこに書かれた文字をシャンテが読み上げる。


「<ヤギミルクたっぷりヌルテカ泡ぶろ入浴剤>……って、長ったらしい名前ね。どういうものか名前だけで想像がつくのは良いところだけど」


「ねぇ、シャンテちゃん。私、これの改良にも挑戦したい!」


「それはニーナが決めればいいと思うけど、でもどうして?」


「あのね、私、家を出る前にお姉ちゃんと約束したんだ。待ってるから、いつかこの入浴剤を完成させてよって、そう言ってもらったの。だからこの機会に完成させて、私は頑張ってるよって手紙も添えて、完成品を実家のお姉ちゃんに送りたい」


「いい目標ね。それじゃあこの入浴剤と、栄養剤と、それからポーションの味の三つを改良していく。もちろん最優先はロゼッタからの依頼品の完成だけど、この三つも同時並行する。特に栄養剤は早めに完成させて、ポーションの材料となるミニトマトをたくさん実らせる。そういう流れでいい?」


「うん!」


「調合時間の確保が一番だから、アタシにできそうなことは遠慮なく言いなさい。使いっ走りでも、森での素材採取でもなんでも、ニーナが行く必要はないんだから……って、ちょっと、なに急に抱き着いてんのよ!?」


 だって、むぎゅーってしたくなったんだもん。

 頑張ろう。もとから頑張るつもりだったけど、もっともっと頑張ろう。だってこれだけシャンテが張り切っているのだ。忙しくたって、全部やりきるぐらい頑張って、結果も残してみせる。気負うつもりはないけれど、ロゼッタからの依頼も、<青空マーケット>も、どちらも必ず成功させよう。そうニーナは思うのだった。


 そして翌日。使用人を介してロゼッタから前金を受け取ったニーナは、シャンテたちと共に今度こそ素材屋を目指すのだった。

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