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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
第16章 世界をあっと言わせる大発明を
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魔術結社ウロボロス①

 本当に情けない。アデリーナはぎりりと奥歯を噛みしめる。

 錬金術師たちを称える華やかな式典は、一転してテロリストたちが恐怖で支配する凄惨な場へと変わってしまった。


 それはちょうど主催者であり財団の理事を務めるモーゼスが壇上にて、開会のあいさつを述べているときに起こった。パーティー会場の隅に置かれていた植木鉢が爆発。参加者たちが悲鳴を上げるなか、突然現れたテロリストたちがモーゼスを人質に取ってしまったのである。揃いの白い仮面に黒いロングコート。コートの背中側には、自らの尻尾を咥えこんで輪っかとなる赤い蛇が描かれている。


 魔術結社ウロボロス。

 それがテロを起こしたグループの名前だった。


 さらにテロリストたちは怪しげな術でもって、会場内に黒いヘドロのようなものを撒き散らす。それはスライムのようにうねうねと動き、参加者たちの口から体内へと、次々と侵入していった。


 これは呪いだ。対象を体内より蝕み、遅くても十二時間以内に呪われた者を殺す。特別な聖水でもってヘドロを体の中から追い出さない限り命はない。これはそういう呪いなのだとテロリストは言う。アデリーナ自身も呪いを受けてしまい、いまは武装を取り上げられた状態で式典会場の隅に追いやられてしまっている。


 呪いを受けたものはみな腕や頬に黒いシミのようなものが浮かび上がっていた。いまも体の中をスライムが動き回っているような、そんな気持ちの悪さが体中を支配している。なんとも気味が悪いし、頭痛と吐き気もする。状況は最悪だ。至る所で女性や子供たちのすすり泣く声が聞こえてくるが、アデリーナにはどうすることもできなかった。


 どうしてこうなってしまったのだろう?

 もちろん、会場内にいたアデリーナたちも抵抗は試みた。しかしモーゼスを人質に取られ、<武雷刀>や魔法では対処が難しい液体状の呪いを前に、国家騎士たちは無力だった。


 警備は万全だったはずだ。国家騎士とモーゼスの私兵、合わせて三百名を超える厳戒態勢を敷いていた。参列者たちの身元確認も行い、外部から侵入できないように結界も張った。それなのにどうしてこうも易々とテロリストたちの侵入を許してしまったのか。冷静になって考えてみたところで、わからないことだらけだ。


 しかし敵の目的だけはハッキリしていた。彼らが要求してきたのは魔女リムステラの解放。人質の解放および呪いを解くための聖水と、魔女との交換を要求してきたのである。期限はこれより四時間。それが、アデリーナたちに残された猶予だった。


「せめて子供たちだけでも先に開放してやってくれませんか?」


 そう声を上げたのはモーゼスだった。勇敢とも無謀ともとれる彼の提案に対し、テロリストのリーダーは意外にもこれをあっさりと受け入れた。我々の要求を外の者に伝える必要がある。そう言ってリーダーは騎士のなかから一人を選び、十二歳以下のすべての子供たちと共に解放した。人数分の聖水も持たせて。


 我々は魔女を引き渡してさえくれれば人質を解放するし、解呪も行う。このことを伝えるのがテロリストたちの目的だった。

 裏を返せば、魔女の引き渡しを拒めば人質全員の命は保証しないということなのだろうが、何はともあれ子供たちだけでも解放してもらえたことにアデリーナは安堵した。


 内部からでは現状を変えることができない。会場となっている時計台の周囲にも多くの人員を配置しているが、人質を大勢取られてしまっている以上、強行突入も難しいだろう。となれば、国が取れる選択肢は二つ。要求通り魔女を引き渡すか、人質を見捨ててでもテロに屈しない姿勢を取るか。


 もしも国が魔女の引き渡しに応じた場合、鍵となるのは魔女と人質との交換するタイミングだ。彼らは魔女を引き取ったあとのこと、つまり<逃走>についても考えなくてはならない。相手の立場になって考えてみたとき、人質をすんなりと解放するとは思えない。少なくとも何名かは連れたまま逃走する気なのではないか。


 もし世の中に魔法がなければ、立てこもり事件の犯人を捕らえることなど、そう難しいことでは無い。周囲を取り囲んでしまえば、それだけで相手は逃げられなくなるからだ。


 しかし、現実はそう上手くいかない。過去にも、立てこもりからの逃走を成功させた事例が少なからずある。奴らがどんな手段を使うつもりなのか分からないが、ここから確実に逃げ出せる方法を隠し持っているのであろう。そうなる前に、なんとかして彼らの手から人質全員を救い出さなくてはならない。


 希望があるとすれば、これまで数々の悪事を阻止してきた魔法使いのロブだろうか。民間人を頼るなど騎士として情けない話だが、目には目を歯には歯を、そして魔法には魔法を、である。あるいは、彼とよく行動を共にしている錬金術師のニーナが魔法の道具で奇跡を起こしてくれるのを待つか……


 そこまで考えて、アデリーナは数日前にニーナと交わした会話を思い出した。たしか彼女たち三人は、数日前から世界樹攻略に乗り出しているはず。彼女たちはいまどの辺りなのか、もう攻略を終えたのか。ここからでは知る由もないが、彼女らの力を当てにすることはできないのだ。


 なんとタイミングの悪いことだろう。それとも、これも誰かが仕組んだことなのだろうか。いともたやすくテロリストの侵入を許したことといい、なにか見えない力が働いているのではないか。アデリーナはそう感じずにはいられなかった。

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