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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
15章 世界樹の頂へ
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なにを作ろうかな?

「いやあ、よう話した。お嬢ちゃんが目を輝かせて訊いてくれるから、こっちまで楽しくなってきて、つい喋りすぎでしまったよ」


「いえいえ、とっても面白いお話をありがとうございます。いまから一緒に冒険できる日が楽しみです!」


「わしもじゃよ。一緒に行ける日を楽しみにしとるから、くれぐれも体調管理だけはしっかりな」


 自然と差し出された手をニーナは握り返す。

 ごつごつとした大きな手は、けれどもとても温かかった。







 アレクと別れたときには、すでに窓から西日が差し込んでいた。シャンテが夕食の準備に取り掛かる傍らで、ニーナはテーブルの上にレシピブックを広げた。


「あら、いまから調合? それともアレクさんとの会話でなにかアイデアでも閃いた?」


「うーん、そういう訳じゃないんだけどね。そろそろ本気で<輝く世界樹の葉>を使ったレシピを考えなくちゃなーって」


 <輝く世界樹の葉>はこの世の中でもっとも優秀な素材と言っても過言ではないほど、優れた素材である。一緒に混ぜる素材の能力を最大限に引き出すという特性があり、どれほど難しい調合も、この素材を加えればたちまち成功してしまうと言われている。不可能を可能にする、まさに夢のような素材なのだ。


 そうしたこともあって、この素材は非常に高値で取引されている。それこそニーナたちがマーレ諸島の海底洞窟で見つけた<ゼノクリスタル>以上の価格と言われている。すべての錬金術師が喉から手が出るほど欲する素材なのだから、常に需要があるので当然と言えば当然。なのだけれど、理由はそれだけではない。入手難度が問題なのである。世界樹の頂上まで辿り着けなければ得られないばかりか、一人につき一枚しか与えられない。しかも自力で手に入れられるのは生涯につき一枚だけ。あのアレクも最初に到達したときの一枚限りしか受け取ることができなかったそうだ。


 さらに保存の難しさが価格高騰に拍車をかけている。どういうわけか魔法の瓶に入れて蓋をしても、手に入れてから三日を経過すると例外なく枯れてしまうのだ。だから常に希少で、市場には滅多に出回らない。


 幸い、帰りは<お呼び出し名刺>を使ってフラウの箒に乗せてもらえるよう、すでにお願いしてある。不思議なことに自分の足で世界樹を登らなくては<輝く世界樹の葉>は手に入れられないが、帰りはどんな方法をとってもいいのである。


 そんなわけで、その気になれば登頂から一時間と経たずに家に戻ることができるのだけれども。

 さすがにそこからレシピ作りを始めたのでは、せっかくの極上素材を使う前に枯らしてしまうかもしれない。だからあらかじめいくつか候補を考えておく必要があるのである。


 いつもなら<とりあえずやってみよう>の精神で、色々調合しながら考えるニーナも、今回ばかりはそれができない。村でお金がなかったときと同じように、いやそれ以上に、大切に素材を扱わなくては。しっかりと、時間の許す限り考えに考え抜いて、自分の代表作と言えるような、そんな素晴らしい発明品を作り上げたい。


 そしてできれば使い切りの道具ではなく、これからの人生の相棒となってくれるような、そんな魔法の品を作り上げることができればいいなと思うのだけれども──


「うー、ビビっとくるものが思い浮かばないー!」


「珍しいわね。ニーナがアイデアの段階で躓くなんて」


「自分でもそう思う。いやでもね、まったく思い付いて無いわけじゃないんだよ? むしろ作ってみたいものはたくさんあるんだけどさ。一生に一度の発明だと思うと、<輝く世界樹の葉>を使う価値のある発明をしなくちゃなーと思って」


「もったいないと感じちゃうんだ?」


「まあ、そういうことなのかも」


「それで、いまのところ一番の候補ななんなのよ」


「自由自在に空を飛ぶことができる<大天使のリュックサック>かな。私が錬金術師を志すきっかけになった思い入れのある道具だし、この際自分流にアレンジしてみても良いかなぁって思ってるんだ」


「へー、いいじゃない。もう悩む必要なくない?」


「うん。でもさ、私とシャンテちゃんとロブさんの三人で世界樹の頂上まで辿り着けたなら、手に入れられる素材は三つになるでしょ? 一つは解呪薬の材料に使ったとして、もう一つは<大天使のリュックサック>の素材になるとしたら、あと一つ余ると思わない?」


「……アンタ、それを自分のものにしようとしてるの?」


「シャンテちゃんたちなら快く譲ってくれるかなぁって。ダメかな?」


 と、ニーナは期待の眼差しを向けてみたのだけれど。


「たしかそれ、売ったらそこそこ立派な家が建つぐらいのお金になるのよね」


「え?」


「まあこれでも友達だし? 友情価格ってことで一千万ベリルってことでいいわよ。もちろんいきなりそんな大金は用意できないでしょうけれど、最近売り上げも好調みたいだから、毎月五十万ベリルずつ返してくれればいいわ」


「そ、そんなぁ」


 ロブさぁん、とニーナはすぐそばで会話を訊いていたロブに助けを求めた。

 けれどロブは、そんな目で見られてもなー、と困り顔で言う。


「家計の財布を握っているのはシャンテだから、俺に決定権はないんだな」


「そもそも<輝く世界樹の葉>が三枚きっちり手に入るとも限らないしね」


 え、なんで?

 ニーナは思わず訊き返す。


「だって兄さんはブタじゃん。人間としてカウントされなかったら二枚しか手に入れられないと思わない? 人の姿に戻れたあと、兄さんだけもう一度登ってもらうなら話は別だけど」


「そりゃめんどくさいな」


 いたずらっぽく笑うシャンテと、めんどくさいの一言で片づけようとするロブ。

 そんな二人に、そこをなんとか、とニーナは手のひらを合わせてお願いするのであった。

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