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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
14章 魔女の謀略を超えて
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ルチルお嬢様を探せ!

 魔女との決戦を控えた当日の朝。食堂には準決勝に進んだチームの他に、ここまでに敗退したすべての参加者たちが集められていた。そのなかに混じるニーナは緊張の面持ちでルチルからの言葉を待っていたのだが。


「……かくれんぼ?」


 準決勝という舞台で選ばれたゲームはまさかのかくれんぼ。なんとも拍子抜けする発表に、思わず表情も緩む。もちろん普通とは一風変わったルールなのだろうけれど。


「これから私がこの施設のどこかに隠れるから、みんなには私のことを探してほしいの。どう、面白そうでしょ?」


 ルチルの声色は何事もなかったように明るかった。とても大事な人が人質に取られているようには見えない。まるで心からこのひと時を楽しむかのように、無邪気な笑みを浮かべている。


 けれどニーナたちは知っている。笑顔の仮面の下でルチルはいまも泣いていることを。一人戦う彼女の頑張りに応えるためにも、まずは順調に勝ち進むことが目標だ。ここで敗退してもニーナたちが狙われることに変わりはないが、計画では、ルチルの護衛役として洞窟の奥地まで付き添うことになっている。そこで襲撃されるということはすなわち、ルチルを戦いに巻き込んでしまうことを意味する。そうはさせないためにも、決勝へは自分たちの力で勝ち進みたい。


 そうやって決意を新たにしていると、肩を並べるシャンテから軽くわき腹を小突かれた。


「なにを考えているかはだいたいわかるけれど、あんまり険しい表情をしてたら怪しまれるわよ」


 そうだった。ルチルがその本心を隠して演技しているのは、家族が人質に取られているから。それなのに、いまから自分が緊張していたら魔女に怪しまれてしまうかもしれない。そうなればルチルの頑張りを無駄にしてしまうかもしれないのだ。魔女のたくらみに気付いていないふりをしなくては。


 ──いつもの私なら<かくれんぼ>と訊いてワクワクしてるはずだよね。だってこんなに広くて豪華な舞台で行うんだよ? 絶対楽しいに決まってるもの!


 気合十分。やる気満々。

 ニーナは胸の前で両手のこぶしをぎゅっと握って期待感をあらわにする。

 ふと目が合ったルチルはニーナへ向けてふわりと微笑んだ。


「さて、みんなのやる気が伝わってきたところでルールを説明しちゃおうか。基本的には普通のかくれんぼと一緒。私を見つけて、そして私の肩に触れながら<みーつけたっ>と言ってくれたらいいよ。一番早く私を探し当てることができたチームが決勝進出。時間制限はないけど、早い者勝ちだから頑張って」


 それから、とルチルはニーナたちとは少し離れた場所に立つ、昨日までに敗退した参加者たちへと視線を投げかける。


「今回のゲームでは副賞を用意していてね。その副賞をかけて、ここまで惜しくも負けてしまったチームのみんなにもゲームに参加してもらおうと思うんだ」


 おぉ、というどよめきが会場中に広がる。その一方で準決勝に進んでいたチームからは困惑が伝わってきた。


「みんなは決勝には進めない代わりに、私を見つけることができれば賞金をプレゼントするよ。ただし参加できるのはゲーム開始から一時間が経過したあと。それまでの時間も私を探してもらっていいけれど、仮に見つけても<みーつけたっ>とコールすることは禁止です。それと残る四チームの誰かが私を見つけるまでゲームは続くから、コールするときはこっそりと、誰にもバレないように小さな声でコールしてね」


 あくまでも決勝へ進む権利を得るのは、ここまで勝ち進んできた四チームのみということか。それに最初の一時間は他のチームに邪魔される心配がないのはいいことだ。


 そのほかに細かいルールとして、ルチルが隠れるのはこの敷地内のみと範囲が指定された。ただしこれはホテルの外も含まれる。舗装された地面とそうでないところの境目が境界線となるようだ。また参加者たちが寝泊まりする部屋に隠れるようなことはしない。別館の中にも隠れない。けれども二回戦の会場となった地下迷宮には隠れているかも、とのことだ。


「チームを超えた情報共有は禁止。魔法の道具の使用は許可するけれど、参加者同士で傷つけあう行為も禁止です。ゲーム終了のお知らせを伝えるためにも腕時計の装着は忘れないでね。もしも忘れてしまっているようなら、ゲーム参加前に必ず身につけておくこと」


 ニーナは左手の時計に視線をやる。小さな丸い文字盤に三つの針が狂いなく時を刻む、シンプルな黄金色の時計。この中に仕組まれた悪意はすでに取り除いてある。なにも問題は無い。


「ちなみに、これから隠れる私も魔法の道具を三つ使わせてもらいます。簡単には見つからないと思うから頑張って私を探してね。途中で飽きちゃったら嫌だよ?」


 いたずらな笑みを残して、ルチルはこれから身を潜めるために参加者たちより先に食堂を後にする。

 それから数分後、待ち焦がれる参加者たちに向けてリオンがゲームの始まりを宣言した。

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