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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
13章 マボロシキノコ争奪戦
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夢で逢えたら①

「ほう、これはまた奇妙な夢だな」


 見覚えのあるここはルチルの部屋。なぜか子供の頃の姿でレオナルドは部屋の中心に立つ。ルチルは首までしっかりと布団にくるまって、とても幸せそうに眠っている。


 そんな彼女の頭を包むのは、この世にまだ一組しかない<夢枕ペアセット>の片割れだ。

 見慣れた懐かしい光景のなかで、夢枕だけが真新しく感じられた。


「おい、起きろルチル」


「んん、あと少しだけ……」


「まったく朝が苦手なのは相変わらずだな。まあ現実世界では深夜の真っただ中なのだから起きろと言うのも若干気が引けるのだが、しかし時間があまりないかもしれんのだ。さあ、起きるんだ」


「ん……しつこいなぁ……」


 目をごしごしとこすりながら、ルチルはこちらを見上げる。

 その仕草がまたなんとも言えないぐらい可愛いくて、真面目な話をするために会いに来たというのに、気を緩めるとニヤケてしまいそうだ。


「……あれ、レオナルドじゃん。背縮んだ?」


「縮んだのではなく若返ったと表現する方が適切だろうな。……って、おい! すぐに寝ようとするな!」


「うーん、レオナルドは夢のなかでもうるさいなぁ。良い夢見ろよ、なんてカッコつけたくせに」


 この一瞬の間にこれは夢だと判断できるルチルの理解力には驚かされるが、冷静すぎるのも困りものである。


「そうだ、ルチル。これは夢だ。だからこそ誰も見張られていないこの場所なら、君の<助けて>の理由を訊くことができるんだ」


 ぐわっと跳ね上がるようにルチルは上体を起こし、レオナルドの顔を穴が開くほどまじまじと見つめる。

 こちらを見つめる瞳の色はエメラルドグリーン。こんなときだというのに、胸の鼓動は早鐘を打つ。


「あなたは私の夢のなかの存在なの? それとも──」


「魔法の枕の力を借りて夢のなかの君に会いに来た、意思を持った存在だ」


「嘘、だよね? だって……」


 ルチルは右の手でレオナルドの頬をつねり、左の手で自分のほっぺたをつねる。


「い、痛いじゃないか。せっかく眠りについたというのに目覚めてしまったらどうするんだ?」


「いや、ついね。というかここは本当に夢のなかなのかい?」


「僕も確証はないが、枕を作成した錬金術師のニーナは、これは互いの夢を共有できる魔法の道具だと言っていた。なぜか若返っているのが気になるが、こうして会えて話せているのだから、ここは夢の世界なのだろう」


「え、待って。ニーナってお遊戯会に参加してくれている、あの小さな女の子のこと?」


「そうだ。僕と同じく準決勝まで進んだ<ひよっこチーム>のニーナに協力をお願いして作ってもらった。今回のための特注品であり、この世に生まれたばかりの発明品だ。光栄だろう?」


「まあ、うん。……でもほんとに不思議だね。たぶん十歳ぐらいの体に戻ってるんだと思うけど」


 ルチルは小さくなった自分の手のひらを見つて、それからふくらみの無い胸を服の上からそっと押さえた。


「でもなんでこの姿なんだろう? もしかしてあのスープを食べたあとだからかな?」


「そういえば君が僕に初めてスープを作ってくれたのも、ちょうどこのぐらいの歳だったか。当時の思い出に影響を受けている可能性はあり得るな」


 そんなことより、とレオナルドは本来の目的を果たそうとする。


「あのサインの意味を教えて欲しい。君はいまどういう状況にあるんだ?」


「秘密のサインを覚えてくれていて嬉しいよ。ただ正直どこから話初めてばいいか私もわからないんだ。こんな形で会いに来てくれるとも思ってなかったから、頭の中が整理できていなくてね」


「もしや家族の誰かが人質に取られているのか?」


「……よくわかったね」


 ルチルは目を瞬いた。


「なんでわかったの?」


「いや、<助けて>のハンドサインを受けて僕なりに考えてみた、ただの推測だ。こんなお遊戯会を君の父が黙認するなんておかしいからな。なにか理由があるのだと考えて、誰かの命が握られているのではという結論に至った」


「わずかなヒントでそこまで辿り着くなんて驚きだよ。うん、レオナルドの言う通り、私の家族が人質に取られてしまっているんだ」


「誰がそんなことを?」


「魔女リムステラと、今日も私の側にいたリオンっていう錬金術師」


 アイツが首謀者なのか、とレオナルドは怒りに任せてこぶしを握る。ルチルを監視する敵の一人だとは予想していたが、まさか黒幕の一人だったとは。


「しかし、魔女リムステラとはどんな奴なんだ? なんの恨みがあってエストレア家を狙う?」


「えっとね、ここが少しややこしいところなんだけど、リムステラとリオンは利害が一致しているから手を組んでいるだけであって、ターゲットは別みたいなんだ。その、ちょっと言いづらいんだけど……」


「遠慮なんかするな」


「別にレオナルドに遠慮してないよ。そのね、リムステラの狙いはニーナさんたちなんだ」


「……はぁ?」


 レオナルドははっきりと眉間にしわを寄せた。


「どうしてここで彼女の名前が出るのだ?」


「だからややこしいって言ったじゃん。えっとね、リムステラはニーナさんたち、特に大魔法使いのロブさんに恨みがあるみたいでさ」


「ちょっと待て。あのブタが大魔法使いだと?」


「そうらしいよ。私もよくわからないけど。で、話を戻すけど、リムステラは普通に戦ってもロブさんに勝てないからと、罠を張り巡らせた場所におびき寄せたいらしいんだよ」


「まさかとは思うが、そのための舞台として用意されたのが今回のお遊戯会なのか?」


 ご名答、とルチルはあっけらかんとした口調で言う。


「どうしてまたこんな手の込んだことを……」


「ほんと迷惑だよね。でもお父様を始めとした家族のみんなを人質に取られて、私に選択肢はなかった。言われるがままに無人島を買い上げてホテルを建設し、ニーナさんたちが探し求める<マボロシキノコ>を景品としてお遊戯会を開催することとなったんだ。で、なぜこんなにも無茶な要求をされたかというと、それはたぶんリオンが関わっているんだ」


「あの色白のひょろりとした男が?」


「そう。さっきも言った通り彼は錬金術師なんだけど、実は過去に資金援助をお願いされたことがあってね、でもお父様はそのお願いを断っていたんだ」


「ん、どういうことだ? ムジカ殿は困っている若者には誰彼構わず手を差し伸べる寛大なお方。そんな君の父がどうして資金援助の願いを断ったのだ?」


「彼の研究テーマが<人口悪魔の生成>という危険なものだったから」


「んなっ、悪魔だと!?」


「うん、驚きだよね。でも彼は本気でその理論を構築していて、実用化も目指していた。断られるなんて夢にも思わなかったんじゃないかな」


 まったく、逆恨みもいいところじゃないか。


「それで断ったあとはどうなったんだ?」


「お父様も彼を放置するのは危険だと思ったんだろうね。すぐに国家騎士にこのことを伝えたんだけど、あと一歩のところで彼は行方をくらましてしまった。そして次に私たちの前に姿を見せたときには彼はもう敵で、リムステラと手を組み、家族のみんなを人質に取ってしまった。ちなみにウサギ狩りゲームでみんなが追いかけた金のウサギは、実はリムステラに魔法をかけられた私の兄なんだよね」


「エギル殿があのウサギだった……?」


 そうなんだよ、ほんと困っちゃうよね、とルチルは眉尻を下げて微かに笑う。

 あまりにやりたい放題の鬼畜な行いを耳にして、レオナルドは顔を赤くしながら怒りに震える。許せない。いますぐあの男の頬を一発ぶんなぐってやりたい。そしていますぐ魔女を捕らえてルチルの前で土下座させてやりたかった。


「リムステラはいまどこに?」


「宿泊施設の別館」


「すぐ近くじゃないか! ならば眠っている隙にいますぐ捕らえて……」


「無理だよ。あの女はエストレア家の警備網をいとも容易く破ってみんなを人質にしたんだ。たとえ国家騎士が束になったってあの魔女には勝てないよ。それぐらいあの女の強さは規格外なんだ。もしも彼女に対抗できるとしたら、彼女自身が自分よりも強いと言うロブさんだけだと思う」


「あのブタが……。わかった。僕がこれから彼らを説得して協力を要請する」


「それはダメ」


「どうして!?」


「下手に動いたら私の家族の命が危ないから」


 うっ、とレオナルドは言葉を詰まらせる。

 怒りのあまり大事なことを忘れてしまっていた自分を恥じた。


「黒幕であるリオンとリムステラは二人ともこの島にいる。でもね、お父様たちはエストレア家の屋敷に幽閉されているんだ。しかも魔法の首輪を取り付けられてしまっているから、奴らがその気になれば遠く離れた場所にいるお父様たちの首をいつだって絞め殺せるんだよ」


「クソッ。なんと非道な。何か手はないのか?」


「まずリオンの手元から首輪の魔法を発動させるスイッチを奪い取らなくちゃいけない。そのうえで、屋敷を占拠するリムステラの手下たちも排除する必要がある。まあ数としては十人程度だし、手下の実力は底が知れていると思うけれど、でもここから屋敷までが遠すぎるからどうすることもできないよね」

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