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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
13章 マボロシキノコ争奪戦
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この勝負もらったぁ!②

「美食……ですか?」


「そう、テーマは美食! この島の食材を使って、私が満足するような自慢の逸品を作ってほしいの!」


 赤レンガ造りの宿泊施設の、その一階部分に位置する食堂。昨日の夕食時にはパーティー会場を思わせるほど豪華な食事が並べられたこの場所で、参加者たちに提示したテーマは<美食>だった。しかもただ料理をすればいいというものではなく、食材集めから始めなくてはいけないらしい。資産家の娘であるルチルは美食家でも知られており、そんな彼女の舌を満足させるメニューを生み出さなくては次への道は開かれない。


 三回戦へと進んだのは全部で十チーム。ニーナたちの他に、フラウが話してくれた美しき女性たちや、ニーナたちを執拗に狙う少年少女たち。それに仮面をかぶった正体不明の三人組も順調に勝ち進んでいた。


 どのチームもここまで勝ち抜いてきた強者揃いであることは間違いない。

 しかし今回のテーマは美食。ルール次第だが、料理上手のシャンテが味方というのは心強い。


 詳細を説明する前に係りの者から島の地図が配られる。なんでもこれは冒険者の協力のもと、モノリス島で採れる食材を調査し、それをマップ化したものだそうだ。地図はとてもポップでカラフル。これもルチルの好みを反映した結果なのだろうか。とにかく地図を見れば食材の調達は意外と簡単かもしれない。


 ──ウサギ、シカ、イノシシ、ウシ、訊きなれない名前の鳥たちと、それから木の実や果実なんかも豊富なんだね。錬金術の素材として有名な野草も自生してるみたい。ハーブも採れるなら香りづけにいいかも。あとやっぱり周りが海に囲まれてるから、釣りの道具を借りられるなら魚をメインにするってのもありだよね。


 さて、と軽く手を叩いて、ルチルは参加者たちの注目を自分に集める。


「みんな地図が気になっているようだけど、いまから大事なルールの説明をするからよく訊いてね。これから行う<ルチルお嬢様の美食会>と題した三回戦では、みんなには島で採れる食材を生かして自慢の一皿を作り上げてもらうよ。どんな料理でも構わない。なんならデザートでもいい。とにかく島で採れる食材をメインにメニューを考案して欲しいの。でね、ここで一つルールを設けさせてもらうんだけど、メイン食材は早いもの勝ち。どこかのチームが先に提出した食材は、他のチームは使うことができなくなるの。どう、面白そうでしょ?」


 つまり極端な話、食材を総取りすれば他のチームはなにも作れなくなるってことか、と参加者の一人が訊ねた。大柄でやたらと毛深い腕が目立つ男だ。


「いいえ、優先権を得るのは一つのみ。どれだけ食材をかき集めても、独占できるのは一つだけだよ。だからなにをメインとして選ぶかはよく考えてね」


 一つだろうと相手が使いたい食材を先に確保できれば大きくリードが取れる。メイン食材の選択は作戦を決める際に重要となるかもしれない。


「そのほかにもいくつか知っておいてもらいたいルールがあるんだけど、まず先に言っておかないといけないことがあってね。いまからこの食堂に簡易のキッチンを準備するんだけど、この場に十チームもいるのに、キッチンは九つしか用意できてないんだよね。つまりどうしてもキッチンが使えないチームが出てきちゃうってわけ。困るよね? どうしよう? どうすればいいと思う?」


 唇に人差し指を当てながら、ルチルはわざとらしく首を傾げる。その動きに合わせて揺れる緋色の髪。あざとい仕草も彼女が行えば可愛らしく思えて、なるほど、こうやって男性を虜にするのかとニーナは感心してしまった。もちろんロブもデレデレだ。


「うん、じゃあこうしよう。メインの食材を持ってくるのが一番遅かったチームは残念ながらそこで失格とします」


 周囲が少しだけざわついたが、これも争奪戦におけるルールだと思えば、特別おかしなことでもないとみんな思ったのだろう。特に誰も異議を唱えなかった。ニーナも、これから食堂に並べられるという簡易のキッチンとはどのようなものなのか、そちらのほうが気になっていた。


「キッチンを確保できたチームから料理開始。制限時間は二時間とさせてもらうけど、これは食材採取の時間も含めてだよ。料理が完成したチームから実食に移り、順位を付けさせてもらいます。準決勝に進めるのは上位四組のみ。審査基準は味と、見た目と、香りと、それからサプライズ! とにかく私を喜ばせてくれたら、そのぶん高く点数を付けちゃうから頑張ってねー」


 ここでまた先ほどの男性が手を挙げる。実食の順番は審査に影響するのか、という質問だった。たしかに九チームも審査するとなると、最初に食べてもらったチームの料理は記憶に残らないかもしれない。かといって最後のほうだとお腹いっぱいで、どんな料理もおいしく感じてもらえない恐れがある。どのタイミングで料理を提供するかも、勝ち抜くために必要な駆け引きなんだろうか。


 しかし、ルチルはこれを即座に否定した。


「自分の舌には絶対の自信があるの。だから順番に左右されることはあり得ない。それに自分でいうのもなんだけど、私って見た目からは想像もつかないほどよく食べるの。食べることが大好きなんだ。だから例えテーブルいっぱいに料理を並べられたって全部食べ切る自信があるよ」


 有無を言わさぬ強気な笑み。

 舌にも胃袋にも、相当自信がおありのようだ。


「説明が途中になっちゃったね。食材についてだけど、さすがにこの島で採れるものだけで料理を作るのは難しいだろうから、各種調味料も含めて、ある程度はこちらで用意しているよ」


 今日もルチルの斜め後ろに控えるリオンが、参加者たちの目の前に置かれた長机の、その上を覆うように被せられた布を剥ぎ取る。

 現れたのは、色とりどりの野菜たちを始めとした食材たちだ。足りないものはこれで補えということなのだろうが、ここにあるものだけでもご馳走が作れてしまいそうなほど豊富に用意されている。


「食材の他に調理器具やオーブンなんかも用意してるよ。もしも追加で必要なものがあるなら遠慮なく言ってね。なるべく希望に添えるようにするから。あと一回戦のときにも話した通り、今日も腕時計は身につけたままで。島で迷子になられても困るからね。あ、今回は道具の持ち込みも大丈夫だよ」


 それから最後に重要なルールを。

 ここでルチルは一旦言葉を区切り、参加者全体を見渡した。


「今回はあくまでも料理対決です。だから対戦相手を傷つける行為は禁止とします。もしもルールを破ったり、疑わしい行動をとったチームはすぐに失格とするから、よく覚えておくように」


 ルチルは約束を覚えてくれていた。きちんとルールで戦いを禁じてくれたのだ。これで少しは安心して食材集めに集中できそうである。


「さて、それではいまからゲームを始めようと思うけど、なにか質問はないかな? ……なさそうだね。それじゃあ──」


「フフッ、フハハハハハっ!」


 唐突に奇妙な笑い声を上げたのはレオナルドだった。なにが面白くて笑っているのだろうか。その理由は幼馴染であるルチルにもわからないらしい。ただ怪訝そうに彼のことを見ている。


「この勝負、君の好みを知り尽くしている僕が断然有利! 準決勝進出一番乗りはこの僕で決まりだ!」


「ええっと……まさかとは思うけど、それを言いたいがためだけに高笑いをしたのかい?」


「その通り! さあ、早くゲームを始めようじゃないか!」


「う、うん、そうだね。なんか変な空気になっちゃったけど気を取り直して。それじゃあ今度こそゲームスタート! みんな頑張ってねー」


 あっさりと告げられたゲームの始まり。会場に設置された大きな大きな砂時計より、砂金のように煌めく粒たちがさらさらとこぼれ落ちていく。早くも食材を巡る争いが始まったわけだが、しかし焦ってもいけない。ルールの説明を受けたばかりで、チームで確認しなくてはいけないことがたくさんあった。


 ニーナたちは近くのテーブルを確保して、そこに先ほど受け取った島の地図を広げる。


「まずなにを作るか決めないことには始まらないわよね」


「メイン食材が相手チームと被らないようにしないとだね」


「あえて被らせるって手もあるけど、そんなリスクを負って自滅したら元も子もないか」


「私もそう思う。でね、さっき眺めているときに良い食材を見つけちゃったんだよねぇ」


 なによ、もったいぶってないで教えなさいよ。

 急かされたニーナが指さしたのはモノリス島のなかでも最南端……よりもさらに南の、他の参加者たちが手出しできない様な場所に生息する極上素材。ニーナの狙いを理解したシャンテとロブは顔を見合わせニヤリと笑う。


 ──この勝負もらったかもっ!

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