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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
13章 マボロシキノコ争奪戦
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金のウサギを捕まえろ!

 すでに半数近くのチームが二回戦進出を決めるなか、まだ一点しか獲得できていないニーナたちは、標的を金のウサギへと定める。その場には他に三つのチームが同じ獲物を追いかけており、まさに争奪戦の様相を呈していた。


「周りの奴らが邪魔だ。どうにかしてこっちにおびき寄せられない?」


「やってみる!」


 先ほどと同じく地を這うように、雷撃をぐるっと先回りさせてウサギの進路を妨害できるよう、ニーナは魔法を放つ。青白い雷撃は不規則に揺れながら、他のチームの間を縫うように進み、金のウサギの真横を通り過ぎて……


「あっ」


 一人の男がウサギに覆いかぶさるように接近する。雷撃が男の陰に隠れて行方を追えなくなる。それでもなんとかしようと、見えない部分をイメージで補いつつ咄嗟に雷撃を捻じ曲げてみたのだが。


「ぐあっ!?」


 びくりと、男の体が不自然に強張る。その脇を金のウサギがすり抜ける。

 あぁ、やってしまった。恐らくだけど魔法はウサギではなくて男に当ててしまったのだろう。威力はかなり抑えめなので体がマヒする程度だと思うけれど、それでもなんだか申し訳なくなってくる。


「ナイスよ、ニーナ!」


「良かったのかなぁ」


「あれぐらいの妨害は別にいいでしょ。いまはなにより他のチームに奪われないことが一番よ」


 そう言っているあいだにも、ロブは他のチームに混じって金のウサギを追い回している。二回戦進出と、さらにはVIPルームに美女のご奉仕がかかっているだけあって、いつになく張り切っているのだ。


「そこっ!」


 シャンテがワイヤーを伸ばす。けれども金のウサギはその先端をぴょんと、小さく跳んで躱した。他のウサギと違ってぽっちゃりとしているから、見つけさえすれば簡単に捕まえられそうだと思っていたのに、予想外に逃げ足が素早い。


 ただ、ここまでずっと他のチームに追い回されていたからか、金のウサギは明らかに疲れていた。しかもこの場に集まったチームはライバル同士でありながらも妙な連帯感が生まれており、包囲網に穴が開かないよう互いにカバーし合っていた。そのため金のウサギはこの場から逃げることも隠れることもできないでいた。


 それでも隙を見て立ち止まり、なんとか息を整えようとする金のウサギだったが、それもロブの参戦により、少しの余裕もなくなっていた。


「あ、惜しい!」


 ロブの短い前足が金のウサギに触れるも、すんでのところで逃してしまった。あと少しで捕まえられそうだったのにと落胆するものの、けれど獲物を捕らえるのも時間の問題だと思えた。そこでニーナとシャンテは他の参加者の邪魔をすることに徹する。相手チームもロブの進路を塞ぐような動きを先ほどから何度も見せていたので、ニーナも遠慮なく雷撃をぶっ放す。


「いっけぇ!」


 遠距離から、まさにやりたい放題。しつこいぐらいに妨害を続ける。こんなことをしていると普通なら敵意を向けられかねないが、それでも相手チームは金のウサギを奪われまいと必死で、ニーナではなくウサギを追い続けている。シャンテもワイヤーで参加者の足引っかけて転ばせるなどして、とにかくロブをアシストした。


 そしてついに──


「よっしゃー! 金のウサギ、ゲットだぜ!」


 狙いを定めて、ダイブからののしかかり。

 体全身を使ったロブが見事に金のウサギを捕まえたのだ。

 そこへ他の参加者たちが「奪われてなるものか!」と一斉に殺到するが、シャンテが素早くワイヤーの伸ばしてウサギを引き取ると、横取りしようと突撃してきた相手チームを巨大化したロブがぼよんと跳ね返す。


「これ以上俺の邪魔をするようなら、お前たち全員丸呑みして、骨まで噛み砕いてやろうぞ」


 ──あれはいったいなんの真似なんだろうか? それに丸呑みにしたあと骨を噛み砕くとか、色々と言ってることがおかしい。


 なにはともあれロブの脅しが効いたのか、それとも突如として巨大化したロブに恐怖を感じたのか。ともかく相手チームは明らかにたじろいでいた。いまのうちにこの場を抜け出して、主催者のもとに戻らなくては。


「ニーナ。リュックの中に金のウサギを詰められる?」


 このまま抱えて逃げるとなると、相手チームに横取りされてしまうかもしれない。だから目立たないようにウサギを隠す必要があった。


「えっと、魔法瓶なら。少しの間このなかで我慢してもらおう」


 ニーナはリュックから<拡縮自在の魔法瓶>を取り出してふたを開ける。素材採取に欠かせないこの魔法の道具は、人間以外の、瓶の入り口に近づいた対象を小さくして吸い込んでしまう力がある。この中に入れて持ち運べば誰かに奪われる恐れもまずなくなる。シャンテはワイヤーを解除して、ウサギを瓶の入り口まで持っていった。


 ところがそのとき、金のウサギが最後の抵抗を見せる。

 鋭い前歯でシャンテの手に噛みついたのだ。


「いたっ!?」


「あっ、待って!」


 さらにウサギは器用にも後ろ脚で瓶の口を蹴り飛ばすと、慌てふためくニーナを尻目に一目散に駆け出す。逃げられたことに気付いたロブがすぐさま変身を解除して追おうとしたが、走り回ったことに加えて巨大化したことで、もうエネルギーを使い果たしていた。少し走っただけで、ぎゅるるるるぅ、と腹の虫を鳴らしながら倒れてしまったのだ。


 兄さんに頼れないならアタシが、とシャンテも追いかけようとするが、そこへ他の参加者がワイヤーをシャンテの足に引っ掛けて妨害してきた。なにも<ワイヤーバングル>は自分たち専用の道具ではないのだ。これまで散々邪魔をしてくれたな。お前たちに奪われるぐらいなら逃げられる方がましだ。そんな恨み言をぶつぶつと言いながら近づいてきたのだ。


「えっと、これは正直まずい展開ね」


「そ、そうだね……」


 ひとまず倒れているロブを抱きかかえて、シャンテの背中におんぶされて。


「ごめんなさいっ!」


 <ハネウマブーツ>に力を込めて、シャンテは強く強く地面を蹴った。あっ、とみんなが空を見上げたときにはもう遅い。ニーナたちは一瞬にしてその場を離脱していた。


 そう、なんとか逃げ出すことはできたのだけれど。

 結局のところ金のウサギを捕まえることはできなかった。

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