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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
13章 マボロシキノコ争奪戦
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ウサギ狩りゲーム!②

 我先にと一斉に散っていく参加者たち。その波に乗り遅れないように、ニーナたちもとりあえず駆け出す。


「それじゃあまたあとで!」


 フラウたちともいったんここでお別れ。同じ獲物を追い回しても効率が悪いだろうということで、ここからは二手に別れつつ二回戦進出に向けて全力を尽くすことにした。


「ねえ、どのあたりから探せばいいと思う?」


「ルチルさんはケージから一匹取り出すときに、追いかけてもらうのはノウサギだって言ってた。対象がアナウサギじゃないなら穴の中で生活してるってことはなさそうだよね。でもってウサギは見晴らしの良いところで暮らしていることが多いから、見つけること自体はそう難しくないと思うんだよね」


「なるほど、問題は見つけたあとってことか」


 ウサギは長い耳と、草食動物特有の視野の広い両目を駆使して、いち早く敵を察知して逃げてしまう。あえて見晴らしの良い場所で暮らしているのも、身に迫る危険に一秒でも早く気付いて逃げるためだ。そのとき発揮される脚力は凄まじく、普通に追いかけまわしたのではとてもじゃないが触れることすら難しいだろう。囲うように先回りして追い詰めるか、罠を仕掛けてじっくりと待つか、それとも魔法の道具に頼るのか。


 こんなこともあろうかと。

 ニーナはありったけの道具をリュックに詰めて持ってきて来ていた。


「つまり兄さんの脚力に期待ってわけね」


「うん。カレービスケットはたくさん持ってきたから全力で走っても大丈夫だよ」


「えー、マジかー。どうしよっかなー」


「みんなが兄さんのために協力してくれてるんだから、今日ぐらい本気出しなさいよ」


「へーい」


 そんな感じで軽快に走っていると……いた!

 予想通り平原の、見晴らしの良いところでウサギの姿が見えた。長い耳をピンと立てて、キョロキョロと周囲を警戒している。その首元には赤い首輪が。他に人影が見えないことから、邪魔をされる前にまずここで一点をものにしたいところだ。


「それじゃあ気付かれる前に……」


 シャンテがロブを持ち上げる。

 へっ、と間の抜けた表情を見せるロブに対し、シャンテは不敵な笑みを浮かべている。


 ──あっ、これは悪いことを考えている顔だ!


 え、おいおい、とロブがうろたえるのも無視して振りかぶったシャンテが、えいっ、とばかりに投げつける。矢のような送球、ならぬ送ブタ。細い腕のいったいどこにそんな力があるんだろう。やっぱり相手が実の兄だから加減しなくて良いというのが、この力投に繋がっているんだろうか。


「アタシたちも行くわよ!」


「あ、うん!」


 ロブに続いてニーナたちも距離を詰めにかかる。空からの奇襲が功を奏したのか、ウサギの反応が若干遅れた。そこから慌てて逃げようとするものの、そのウサギを追い越すような様な形で着地したロブがとんとこと追い始める。うまく挟み撃ちにできたみたいだ。


 しかしウサギだって負けていない。ニーナたちの目的が首輪だということを知るはずもないウサギは捕まるまいと必死になって逃げる。その後ろをロブも懸命に追うが、ウサギのほうが小回りが利くのか追いつきそうで追いつけない。シャンテも回り込んで立ちふさがるが、目の前でくるくると回ったかと思うと、一瞬の隙をついて股の下を抜けていく。


 さらにそのあとを追って股の下をロブがくぐり……


「おっ、今日は珍しく白じゃん」


「なっ!? あとでボコす!」


 早くも息が上がり始めていたロブが急に元気になる。

 ──理由はあえて訊かないでおこう。


「ニーナも援護して! 最悪兄さんに当てても構わないから!」


 むしろ偶然を装って当てなさい、と命じられた気がするのは気のせいだろうか。

 なんてことを思いながら、ニーナは<七曲がりサンダーワンド>の先端を動き回るウサギに向ける。威力はなるだけ控えめに。イメージは地を這う蛇のように。どうせ狙ったって当たる気がしないので、とにかく動きを制限するつもりで雷撃を放つ。


「いっけぇ!」


 青白く光る稲妻が右へ左へと蛇行しながら進み、惜しくもウサギの目の前を横切る。ウサギは突然現れた光に驚きつつも咄嗟に方向転換し、速度を落とすことなく走り抜けようとするが、ちょうどそのタイミングで稲妻もカクンと折れ曲がり、並走するような形に。


 そして最後の七曲がり目。

 まさに閃光のごときスピードで走るウサギの真横を追い越したかと思えば、突如そこで急反転。斜め後方へと折れ曲がり、直進してくるウサギへと牙をむく。


「あっ!」


 雷撃は当たらなかった。しかしウサギは魔法を避けるためにほぼ真上にジャンプしなくてはならなかった。つまりはチャンス到来。さすがのウサギも空中にいる間は無防備をさらすしかないのである。


「もらったぁ!」


 ここぞとばかりにロブも跳びあがり、短い二本の前足で宙に浮かぶウサギを抑え込もうとする。これがもし相手が<マッスルウサギ>だったなら、ここで強烈なドロップキックをお見舞いされるところだが、相手はただのノウサギだ。ロブが捕まえるのは間違いないかと思われた。


 しかし、あろうことかロブの目の前からウサギの姿が消える。そう、獲物を横取りされたのだ。

 その人物はまさに予想外の乱入者で……なんてことはなく、妹のシャンテだった。


 どてんっ、と派手な音を立ててロブが落ちる。

 それとほぼ同時に、シャンテの腕の中にウサギが収まる。ロブの前足が獲物に届くより一瞬早く、魔法のワイヤーが引き寄せてしまったのだ。悪いわねぇ、とシャンテは口では謝っているものの、まったく悪びれる様子はない。よほどパンツを盗み見られたことを根に持っているみたいだ。


 なにはともあれ、まずは一点。この調子であと二つ首輪を集めていきたい。

 とはいえ、今回は早い者勝ちの争奪戦である。いくら順調でも相手より早く集めなければ意味がない。ニーナは他の参加者のことが気になり始めていた。

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