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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
12章 ひよっこ錬金術師、先生となる
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アンラッキー・デイ②

「……くしゅんっ」


 家に戻ったニーナたちは真っ先にお風呂に入って冷え切った体を温めた。その前に、ギルドまで戻った段階でロブにお願いして服や髪の毛を乾かしてもらったのだが、それでも少しばかり遅かったらしい。寒さは確実にニーナから体温を奪い、ほどなくして頭痛に襲われた。温かいスープを飲んでも体の震えは止まらず、いまは寝室にてパジャマ姿で布団をかぶって横になっていた。


 そんなニーナのことをミスティは心配そうに見つめる。シャンテとロブもいまは一緒だ。


「もう、そんな顔しないで下さいよ。きっとただの風邪ですから、明日にはよくなってるはずです」


 先ほど改良前の<激辛レッドポーション>を飲んだから、そのうち体の芯から熱くなってくるはずである。風邪薬ではないためどれほど効き目があるかはわからないが、疲労回復効果はあるのだから、なにも飲まないよりかはずっといいに違いない。


 それでも、私が悪いんです、と傍らで椅子に座るミスティは口にする。


「ニーナさんが体調を崩したのは川に落ちたせいだけじゃなくて、きっとその前から、私のために無理をしてくれていたからなんだと思います。昨夜だって夜遅くまで私の練習に付き合ってもらいましたし、今朝も早くからお弁当を準備してくれていました。私のために時間を割いたせいで、きっと疲れがたまっていたに違いないんです」


「うーん、でも私がそうしたいからそうしただけですし。それに夜遅くまで無茶をして風邪をひいたのは実は初めてじゃないんですよねぇ」


 ニーナが気恥ずかしげにはにかむと、そういえばそんなこともあったわね、とシャンテも笑った。


「青空マーケットの準備を張り切りすぎて、やり終えたとたんに熱を出したのよ。たしか三日ほど寝込んだのよね。あのときと比べれば今回はまだ喋る元気がある分だけ大丈夫そうだから、ミスティもそこまで深刻に考える必要はないわ」


「そうですよ。風邪ひいちゃった私が言うのもなんですけど明日には治っていると思います。それよりミスティさんもしっかり体を休めてくださいね」


「風邪がうつらないように、今日はアタシと同じ部屋で眠るといいわ。ちゃんと兄さんは追い出すから安心していいわよ」


「ええー、そりゃないんだぜ」


 大人しくするから一緒の部屋でいいだろ、というロブの願いを、シャンテはすぐに切り捨てた。







 寝室をあとにしたミスティはリビングに戻ると深いため息をついた。迷惑ばかりかけてしまっている自分が嫌になっていた。水のなかに落ちる原因を作ったのも、前日から今日に至るまで無理をさせたのも、全部自分のせいだ。せめてなにかニーナのためにできることがあればいいが、こういうときどうすればいいか、気の利いたことが何も思い浮かばなくて、余計に自分のことを嫌ってしまいそうだった。


「そんなに心配する必要ないわよ。ちょっと寒気がするだけ。風邪のひき始めなんだろうけど、今日このあと一日じっくり眠れば明日には大丈夫よ」


「だといいのですが……」


「もしダメそうなら医者を呼ぶまでよ」


「私にできることってなにかないでしょうか?」


「そうね、それならニーナの夕食はミスティに任せようかしら。温かくて消化に良いものがいいと思うんだけど……って、そういうば冷蔵庫がすっからかんなのよね。ニーナが張り切って弁当作るのに食材を全部使っちゃったから」


 シャンテはそのうちの半分以上を一人で平らげたロブのことをじろりと睨む。


「そういうことでしたら私が市場まで行って買ってきます」


「そう? うーん、それじゃあお願いしようかしら。明日のぶんも、ってことでいまからメモしたものも買ってきて欲しいんだけど、それも頼める?」


「はい、任せてください」


「じゃあお願いね。……ふらっと寄り道してもいいけれど、あんまり人通りの少ないところにはいかないように。それと、まだ暗くなるまで時間はあるけれど、遅くなり過ぎないようにね」


 ミスティは静かに頷いて、それからメモと財布を受け取ると、マルを抱きかかえるようにして家を出た。まだ外は明るく、寄り道さえしなければ焦らずとも、夕暮れ時になる前に余裕を持って家に帰ることができるだろう。それでも気持ちが逸るからか、ミスティは普段以上に早足でなだらかな下り坂を歩き始めた。

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