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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
12章 ひよっこ錬金術師、先生となる
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本日はピクニック日和③

 メインとして描きたいのはもちろんウルドの滝。問題はどこから描くかである。ニーナは模写は得意だが、別に画家としての知識があるわけでは無い。それでも構図というものが重要であることぐらいはわかる。大自然が持つ壮大さをスケッチブックに描き出すためにも、まずはいろんな角度から流れ落ちる滝を眺めてみる。


 ──中央に捉えるよりも、少しだけずらした方がカッコよく描けるかな?


 理論的なことはわからないからこそ、すべては感性に委ねてみる。それでも、それなりに上手くやれるんじゃないかという自信があった。

 いくつかの地点から鉛筆でさっと下書程度に模写をしてみて、そのなかで一番しっくりと来る角度を選びとると、ニーナはそこで腰を下ろすことにした。


 抜けるような青空と、木々の緑と、蔦のカーテンが覆う壁面と、しぶきを上げる滝。これらを一枚の用紙のなかに描き出す。特別変わった構図ではないけれど、奇をてらわずともきちんと描写すれば、迫力は自ずとスケッチブックに現れるはずである。まずは全体のバランスを整えて、それから丁寧に細部にわたって描写を始める。その際、ニーナは何度も目の前の景色とスケッチブックを見比べては、瞳に映る一つ一つの要素を逃さないように絵のなかに落とし込んでいった。


 それからどのくらいの時間が経っただろうか。

 ふぅーっと息を吐いて、それから腕時計に目をやる。気付けばもう約束の時間が過ぎていた。あっ、と小さな声を漏らしたところで、ちょうど真後ろにいたシャンテが声をかけてきた。


「随分と集中してたみたいね」


「あっ、シャンテちゃん。いつからそこに?」


「うーん、五分ほど前? それよりまだ途中みたいだけど、どうする? まだ続けるっているなら、アタシも別の題材を探してみようと思うんだけど」


「うーん、どうしよう? みんな待ちくたびれてない?」


「兄さんはお腹空かせて待ってるけど、ミスティはまだ集中してるみたい。でも声をかけたら普通に返事を返してくれたから、いつでも切り上げられると思うけど」


「そっか。ロブさんを一人で待たせるのも悪いし、そろそろお昼にしよっか」







 ニーナたちが戻ると、ロブは待ちきれないとばかりにお弁当をせがんできた。シャンテほど美味しく作れた自信は無いが、それでも待ち望んでくれるのは嬉しいこと。ニーナは大きなお弁当箱をどんっと二つ、シートの中心に広げてみせる。一つはニーナたちが食べるぶんで、もう一つがロブのために作ったお弁当だ。


「おぉ、スゲー美味そうじゃん! 卵焼きからもらっていいですか?」


「うん、こっちは全部ロブさんのために作ったから全部食べていいよ」


「うっひょー! マジか! ニーナが天使に見えてきたぜ! そういうことなら遠慮なく!」


 早くもがっつくロブを見て、シャンテは呆れ顔だ。


「もう、ちょっと甘やかしすぎじゃない?」


「えへへ、せっかくなんでいっぱい食べてもらいたいなぁって思ったら、いつの間にか作りすぎちゃって」


 それからみんなで楽しくおしゃべりしながらお弁当を食べて、先ほどスケッチした絵を見せ合った。シャンテはウルドの滝をニーナとは別の角度から描いており、話によると木に登って、少し高いところから描写してみたらしい。上から覗く滝つぼというのはまた違った見え方がして面白いなと素直に感心した。


 その一方で、ミスティはシートを広げた場所からほど近い場所に咲く一輪の赤い花を描き出していた。ニーナに言われたことをしっかりと覚えていてくれたようで、細部までこだわっているのが絵から伝わってくる。さすがに一日では技術的な進歩は見られないが、バランスのとり方は随分とうまくなったように思う。


「昨夜、ニーナさんが教えてくれた言葉を胸に、余白部分にも気を付けて描いてみたんです。それから色の重ね方も」


 この世界は無数ともいえる色が折り重なってできている。赤や青だけじゃない。世界はそんなに単純ではない。だから本当は二十色程度の色鉛筆で表現しきれるものでもないけれど、それらを淡い色から順に塗り重ねていくことで、少しずつ本物に近づけていくことはできる。よく観察して、輪郭を描写し、そして色を足していく。観察と表現を繰り返すことでイメージする力を養っていくことは、これからの錬金術にきっと役立つはずだ。


 ミスティは、これまでニーナがアドバイスしたことを一つ一つ丁寧に実践してくれていた。


「うんうん、この調子なら<ドッグイヤーパーカー>の完成も近いかも!」


「そ、そうでしょうか……。まだ人を上手に描く自信がないです」


「だったらこれからは服と、それを着た人の絵を描いていくといいかも。シャンテちゃんにモデルになってもらうといいんじゃないかな?」


「えっ、なんでアタシ?」


「そりゃあ私はアドバイスする立場だし、それに猫耳パーカーを世界で一番かわいく着こなせるのはシャンテちゃんだと思うし」


 いやいや、そんなことないと思うけど、とシャンテはやんわりと断ろうとするけれども。

 お願いします、と頭を下げるミスティの純粋なお願いを断ることができず、代わりにニヤつくロブの頭上に軽くげんこつを落としたのだった。

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