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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
12章 ひよっこ錬金術師、先生となる
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もしかして落ち込んでますか?

「……うん、これはまさに泥水ですね。治療薬としての効果はないこともないのでしょうけれど、まず売り物にはなりそうもありません。味も……うん、苦い。人が飲めたものじゃないかも」


「そう……ですよね」


 焦げ茶色になってしまった<錬金スープ>。そこへ<神秘のしずく>を落として無理やり完成させた液体は<ノーマルポーション>とすら呼べない、茶色く濁った液体だった。黒煙を上げなかっただけマシといえるが、目標だった<ハイポーション>には程遠い出来にミスティは肩を落としてしまう。


「あぁ、でも気落ちしないでください。先ほどのあれは不運なミス。あのタイミングでくしゃみさえしなければ間違いなく<ハイポーション>は完成していたはずだと断言できます。ミスティさんの腕前がじゅうぶんであることもわかりましたし、さっそく次の段階に進みましょう!」


「次の段階、といいますと?」


「もちろん、新発明を成し遂げるんです。お店と契約するための新作づくりですよ!」


「いいんですか? もっとこう、先に色々と学ぶべきことがあるように思うのですが……」


「かもしれませんね。でももうすでにミスティさんは<空飛ぶドックウェア>という素敵な発明を成し遂げていますし、それが偶然できた産物では無く、実力によるものだということを目の前で証明してくれました。もうすでに、ミスティさんには自分の力で新作を生み出すことができるだけの力があるんです。まあ、そう簡単に事が運ぶとは思いませんが、壁にぶつかったならそのときはそのときで、試行錯誤しながら学んでいけばいいと思うんですよね」


 それにミスティは超がつくほど真面目だから、タダで泊めてもらう状況が長く続けば続くほど、きっと重荷に感じてしまうことだろう。だから早めに自力で稼げるようになる方がいいと思うのだ。


 ニーナは錬金釜へと視線を落とす。そこには泥水のようなポーションのなりそこないがまだたくさん残っていた。


「捨てるのももったいないですし、これはロブさんに飲んでもらいましょう」


「え、俺?」


「ミスティさんが心を込めて作ってくれたポーションですけど、興味ありませんか?」


「そうだなー、一口飲んでみるか」


「なっ、待ってください。こんな出来損ないを飲んでいただくわけにはいきません! 捨てるのがもったいないというのなら私が責任を持って……って、お二人とも訊いてますか!?」


 もちろんこの距離だから聞こえてはいるけれど。

 ニーナは無視してロブにポーションを飲んでもらう。


「あむあむ。まあ美味くはないけれど、ニーナが作った<ゲロまずグリーンポーション>よりかはずっとマシだな」


「あっ、やっぱりそう思います? 実は私も同じことを思ってました。ささっ、残りもグビっといっちゃってください!」


 呆気にとられるミスティの前で、ロブは平気な顔して残りを一気に飲み干してしまう。そして最後の一滴まで綺麗に舐め取ってしまった。


「ふう、ごちそうさん」


「ほ、ほんとに飲んじゃった。お腹壊したりしてませんか?」


「おー、体調も万全だぜ」


 ロブは得意げに鼻を鳴らす。


「さっ、万事解決ということで次に進みましょう! いきなりですけど、なにか作ってみたいものはありますか?」


「ええと……」


「あれ、まだ落ち込んでます?」


 俯きがちなミスティの瞳を、ニーナは下から覗き込む。先ほどの失敗を引きずっているのか、表情は暗くて、目を合わせようとしてくれない。


「もう、あれぐらいの失敗でへこたれちゃダメですよ。さっきも言った通りあれは不運なミスなんですし、それでなくともこれからもっともっと失敗を重ねてもらうつもりなんですから」


「失敗を、ですか?」


「そうですよ。もちろんわざと失敗する必要なんてないですが、これからは毎日が調合三昧の日々となるわけですから、当然失敗することも増えます。ですから、すぐに気持ちを切り替えてもらわないと」


「そう……ですね。ニーナさんの言う通りでした」


「まあ、恥ずかしながら私も失敗して泣いちゃうぐらい落ち込んだ経験はあるので、気持ちはよくわかるんですけどね。でもここはクノッフェンですから、有難いことにお金さえ出せば素材は簡単に手に入れられます。資金の心配がない今のうちに、どんどん自分から動いていかないと困ることになりますよ。素材を買えなくなったら錬金術師はなにもできませんから」


「すみません。泊めていただくだけではなく、調合にかかる費用まで出していただいて……」


「あぁ、いえ、そういうことを言いたいわけじゃなくてですね。というより、新作づくりってわくわくしません?」


 話の流れが急に変わったからか、ミスティはきょとんとする。


「やっぱり錬金術の醍醐味は自由な発明だと思うんですよね。もちろん、便利なアイテムを作成して人々に喜んでもらうことも大事ですけれど、まだ誰も見たことが無いような偉大なる発明を自分の手で成し遂げてみたいとは思いませんか? 私はやっぱり新作のレシピを考えているときが一番楽しくてワクワクするんですけど、ミスティさんはどうですか? <空飛ぶドッグウェア>を作成したとき、楽しいと感じませんでしたか?」


「そのときはその、ニーナさんになにか一つでもオリジナルの発明品を見てもらいたい一心で……」


「うんうん、それで?」


「とにかく必死でした。でも思い返せば、たしかに夢中になれる素晴らしい時間だったように思います」


「ですよね! それじゃあまた新しい発明品を考えてみましょうよ。今度はみんなで一緒に。きっともっともっと楽しいはずですよ!」

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