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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
10章 冒険は終わらない
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海賊船に乗り込め!③

 シャンテは扉の向こう側を警戒し、慎重にそれを開けたのだが──


「あん? 誰だテメーは!?」


「ちっ……!」


 なんともタイミングが悪く、いきなり海賊と遭遇してしまった。シャンテは咄嗟に槍の石突をみぞおちに突きこみ、男を悶絶させると、そこから距離を詰めて飛び膝蹴りを浴びせて意識を奪う。


「おー、おー、いきなり見つかってるじゃねーか」


 ロブがすかさずシャンテを冷やかした。


「うっさいわね。向こう側の様子がわからなかったんだから仕方ないじゃない。それよりニーナの後ろに隠れてないで前を歩きなさいよ、前を」


「えー、俺が?」


「文句言わない。この広い船内のどこにリムステラがいるか大雑把にしかわからなかったんだから、兄さんの嗅覚が頼りなのよ」


「まあそういうことなら」


 ぴょんとウサギのように跳んで部屋を出ると、両脇には同じような扉がずらり並んだ通路を小走りで突き進む。先ほど訊き出した情報によれば、リムステラがいると思われる部屋は右舷中ほど。つまりこの通路沿いの右手側に位置しているはず。


「おい、こっちにも侵入者がいるぞ!」


 通路は狭く、すれ違うのがやっとぐらいの幅しかない。おまけに隠れる場所もないとなれば、見つからないほうが無理な話だった。すぐさま別の海賊たちに発見されたかと思えば、男たちはすぐに増援を呼び、群れとなって襲い掛かってくる。


 しかしいまのニーナたちは逃げることしかできなかった昨日とは違う。


「変身! バトルボアモード!」


 先頭を走るロブが変身。突如として巨大なブタと化したロブが、前方から迫りくる海賊たちの群れを押し返す。男たちはサーベルやナイフを振りかざしていたがロブの皮膚は分厚く、また湾曲した二本の牙に阻まれてそれどころではない。みしみしと両側の壁面を押しのけながら進撃するロブを前に、海賊たちは成すすべがなかった。


「こっちはダメだ。いったん下がれ!」


 このまま押し切っていけば行ける。と、期待したのも束の間、背後に武器を片手にした男たちが姿を見せる。

 ここは大型船の内部。左舷寄りにもここと同じように通路があるのだろう。どうやらそこから、騒ぎに気付いた者どもが回り込むようにして駆けつけたようだ。


「あっ、体引っ掛かった」


「ちょっと、こんなときになにやってんのよバカ兄貴!」


 狭い通路の途中でロブが前へ進めなくなってしまうと、これを好機と捉えた男たちが束になって襲ってくる。さすがにシャンテ一人では対処できないと思い、ニーナはリュックの中身をごそごそと漁る。


「ええいっ!」


 ニーナは男の足元に<スリッピーバナナの皮>を投げつけた。

 すると──すってんころりんっ! 前を走る男が転ぶと、続けざまにドタバタと仲間同士で躓き、狭い通路はたちまちひっくり返った海賊たちで埋め尽くされた。それでも諦めず仲間を踏みつけながら襲ってこようとする海賊もいたが、そういった輩はシャンテがフレイムスピアで成敗した。


「ふぅ……ナイスよ、ニーナ!」


「えへへ、まさかこんなところで役に立つとは思ってもみなかったよ」


 あとで調合素材にしようと採取しておいたものが武器となるなんて、なにがどう転ぶか分からないものである。


「で、兄さんはいつまでそうしてるつもりなの?」


 ちゃっちゃっと前に進みなさいよ、とシャンテがロブのお尻を乱暴に蹴り上げる。


「おふっ」


「変な声出すな」


「いやだってな。というか、進みたくてもうんともすんともいかないのよ、これが」


「一度変身を解いたらいいじゃない」


「そしたら海賊どもが雪崩れ込んできそうだけど、それでもいいか?」


 まだロブの正面には何人もの海賊が武器を手に待ち構えているらしい。


「それはダメ」


「あっ、でももうあれだ。変身が解けちゃうお時間のようです」


「えっ、ちょっといきなりね……うん、あと五秒こらえて」


「おぉおぅ……!」


 なんとも言えない声を出しながら、妹に言われた通り五秒耐えてから変身を解いた。

 ロブは力を使い果たし、ぺたんと木床の上にへたり込むが。


「おい、あいつらどこ行きやがった!?」


 えっ、と思って後ろを振り返ると、シャンテたちの姿が見当たらない。

 ──まさか見捨てられた?


「とりあえずブタだけでも殺しとくか」


「だな」


 物騒な言葉を耳にしたロブは大慌てで逃げ出す。といっても通路は一本道。来た道を引き返すしかなかった。おいコラ待ちやがれ、と海賊たちも当然のように追ってくる。焼き豚にされてたまるかと、ロブは四本の足を必死に動かした。


 ところがそのとき、ぐぎゃあ、と背後から品のない声が聞こえてきた。何事かと振り返ると、一人、また一人と海賊が倒れていく。

 さらに奥へと視線を向けると、逃げ出したと思っていたニーナとフラウがそれぞれ杖を構えていた。


「あれぇ?」


 どさり、と最後の一人が白目を剥きながら通路に転がる。完全に体が痺れて動けないようだ。


「大丈夫でしたか、ロブさん?」


「おー、なんとかな。というか逃げたんじゃなかったの?」


 そんなことするわけないでしょ、とシャンテが代わりに答える。


「囮になってもらっただけよ。すぐそこの部屋に隠れてやり過ごしたのち、後ろからサクッとね」


 なるほど、あの短い時間にどこに消えたのかと不思議だったが、よくよく考えれば隠れる場所はいくらでもあったのだ。機転を利かせた妹に対し、ロブは素直に感心した。


 ニーナはリュックから<まんぷくカレービスケット>を取り出すと、ありがとうございましたと言ってロブの口元にそれを差し出す。もしゃもしゃと頬張るロブを見ながら少しばかり休憩を挟むあいだにも、慌ただしい足音が船内に響き渡っていた。クリストフ率いる別動隊が近くで戦いを繰り広げているのだろう。


 ほどなくしてニーナたちも再び船内を歩き出す。ロブの嗅覚を頼りに右の壁沿いを進むが、どこを探してもリムステラの姿は見当たらない。


「恐らくだが、ついさっきまでアイツはここにいたと思うんだぜ。甘ったるい匂いが部屋中に充満してるからな」


 他の部屋と比べても明らかに清潔で居心地のよさそうな室内には、中央に木目が美しいテーブルと、その上に空のグラスが二つ置かれていた。きっとロブの言う通り、ここに先ほどまでリムステラが誰かとワインでも飲み交わしていたのだろう。


 手がかりを失ったニーナたちは、目的をアデリーナの奪還に切り替えることにする。

 そのためにもまずは四人の隊長のうちの誰かから牢屋の鍵を奪わなくてはならないが。


「そこの者、止まれいぃ!」


 そこへ、全身を銀色の鎧で固めた老兵と思わしき男性が行く手を阻んできた。

ミニスカシャンテちゃんは足癖が悪い

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