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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
10章 冒険は終わらない
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海賊船に乗り込め!②

 気絶してピクリとも動かなくなった海賊を尻目に、ニーナたちは船内へと侵入する。足を踏み入れたのは左右の壁際に二段ベッドが二つ並んだだけの、質素な造りの狭い部屋だった。ベッドの数からして四人部屋。部屋に残っていたのが一人だけだったのは幸運だった。他の者は船上にて戦いに駆り出されているのだろうか。


 ニーナは両手にぎゅっと杖を握りしめたまま、落ち着かない様子でなにもない部屋を見渡す。背中には<天使のリュックサック>。ギンガムチェックのワンピースの上から朱色の上着を羽織り、足元はいつもの履きなれたブーツを。荷物を取り戻したニーナはほとんど普段通りの服装に戻っていた。島を走り回っていた際に負傷した足の裏も、国家騎士に所属する聖職者に魔法で癒してもらったので痛みは感じない。それに<絶対快眠アイマスク>や、眠りにつく前に飲んだ<レモン香るピリ辛フルーツポーション>のおかげで、体は驚くほど軽い。


「さてと、侵入できたのはいいけれど、問題はここからよね」


 ニーナたち別動隊の最優先目的は魔女リムステラを捕らえること。騎士たちが派手に暴れて海賊たちを引き付けてくれているあいだに、船内から攻め込む手筈だ。いまごろクリストフ率いるもう一つの別動隊が同じように船内に侵入しているはずなので、アデリーナたちの奪還や首謀者たちの捕縛は騎士に任せていいことになっている。ただ船内の様子や造りがわからない以上、この後どうなるかは誰も予想ができない。その場その場でうまく立ち回る必要があるのだろう。


「ほら、いつまでも寝てないで起きなさいよ」


 ゴツンゴツン。シャンテが気絶している男の頭を乱暴に蹴飛ばすが、それでも海賊は目を覚まさない。


「こいつから色々と訊き出そうと思ったのに、ほんと起きないわね。ねえニーナ、赤いほうのポーションある? 改良する前のやつ」


「持ってるけど、なにに使うの?」


「いいから、いいから」


 ニーナは訝しみながらも赤々とした液体が入った小瓶を手渡すと、シャンテはそれを男の口元に流し込んだ。


「ぶふっ!? がはっ……!」


 するとあれだけ足蹴にされても目を覚まさなかった男がカッと眼を見開き、すぐさま意識を取り戻したかと思えば、喉元に手をやりながらゴホゴホと咽込み始めた。どうやら<激辛レッドポーション>のあまりの辛さに喉をやられたようである。


 ──そ、そんなに辛いかな? そういう用途で作ったつもりは無いんだけど……


 ニーナは少しばかり複雑な気持ちになったけれども。

 そんな、のたうち回る海賊に対し、シャンテは遠慮なく頭を蹴飛ばす。


「……っ! ……!?」


 男はシャンテに向かって言葉を発しようとした。恐らく文句の一つでも言ったのだろう。

 が、フラウがかけた魔法の効果がまだ継続しているようで、男の口からはなにも聞こえてこない。男は自らの変化に戸惑い、何事かを叫び始めたが、それも無駄な行為でしかなかった。


「なにか情報を訊き出すつもりでしたら魔法を解いた方がいいですかね?」


「ううん、どうせなにを訊ねたってまともに答えないでしょうし、そのままでいいわ。それにしてもフラウってこういう魔法得意なの?」


「得意というか遊び感覚で覚えたんですよねー。先ほど使用した<黙れ(フープ)>の他にも<酔いつぶれろ(ナーナークラン)>とか<踊り狂え(サンブルズ)>とか<跪け(インゼム・ナード)>とか。<黙れ(フープ)>に似た魔法で<口を閉ざせ(アングルズ)> なんかも覚えましたけど、私は声が出せなくなる<黙れ(フープ)>のほうの反応が好きなんですよね。焦って口をぱくぱくとさせるところとか面白いじゃないですか」


「けっこう恐ろしいこと考えるのね……」


「覚えただけで人に使ったことはほとんどないですよ? 友達とふざけて掛け合っただけです。攻撃魔法は護身用に覚えた程度のわざしか使えないので、あまり戦力にはなれないかもです」


「それだけいろんな魔法が使えたらじゅうぶんだと思うけどね」


 シャンテはそう言って苦笑すると、続けてニーナから<お喋りリップシール>を受け取り──ばちんっ! それを男のおでこに貼り付ける。


『おい、お前ら、いったい何者だ!?』


 勝手にお喋りを始める唇。おでこから自分の声が聞こえたことに、これまた海賊は戸惑いを隠せない。

 これはニーナが発明した<相手の秘密を赤裸々に告白させる>という魔法の道具なのだけれども……シャンテはそのことを男に説明することなく質問を始める。


「よしよし、シールは<黙れ(フープ)>の効果が適用されないみたいね。それじゃあアンタに質問。魔女リムステラと、ここで捕らえられているはずの国家騎士、二人の居場所を知ってるならそれぞれ答えて」


『誰が教えてやるか……って言いたいところだが、もう一発殴られるのも癪だし、特別に教えてやるよ。つっても、魔女さんの部屋も騎士たちが捕らえられてるだろう部屋も知ってはいるが、口頭で説明するのは難しいな』


「船内の地図はないの?」


『そんな気の利いたもんねーよ。少なくともこの部屋にはな』


 男はシールの効果によって従順に答え続ける。さすがの海賊もシャンテに槍を向けられ、さらに後ろには魔法の杖を手にしたニーナとフラウが控えていることもあって抵抗を諦めたみたいだ。


「あっそ。じゃあ拙い説明でも構わないから居場所を教えなさい」


『あぁ……そうだな、お前たちにも分かりやすいように船内を大雑把に区分すると、四つのフロアに別れてる。ここが船の一階部分だとして、二階と三階、それから甲板部分だな。で、魔女さんの部屋も騎士たちが捕まってる部屋も、共にこの一階にある』


「へえ、それで?」


『魔女さんの部屋はこのフロアの右舷寄り、真ん中あたり。騎士を始めとした奴隷が集められているのは船首の方にある大部屋の、さらに奥だ。ちょうどこことは正反対の場所だな。ただ牢屋には鍵がかかっているだろうから、もし奴隷を解放したいって考えているなら船長か四人の隊長が握っている<鍵束>を奪わないことには無理だぜ?』


「隊長たちの居場所は?」


『さあな。甲板の方で敵襲があったって聞くから何人かはそっちに集まってるんだろうが、けど全員が揃いも揃って船の上に出向くとも考えられねえ。特に一番隊隊長のカネロさんは慎重派だからな、お前らみたいな侵入者に備えて船内を警戒してるんじゃねーか?』


「なるほどね。他にアタシたちが知っておくべきことは?」


『あぁ……いや、下っ端の俺が知ってるのはそんぐらいだ。強いて言うなら、騎士の救出を考えてるなら急いだほうがいいってことぐらいだな。小耳に挟んだ話によれば、ジェラルドさんはあの美人の女騎士を使って怪しい実験を進めてるらしいぜ』


「……そう」


 そう言うとシャンテは槍を振りかぶった。


『おいおい、まさか殴る気じゃねーだろうな!? 無理やりだったとはいえ、お前たちが欲しがった情報はちゃんと話してやったろ!?』


「そうね。でもごめんなさい。アンタにはもうひと眠りしてもらわないと困るのよね。それにアンタたちには散々追い掛け回されたからね、手加減する気なんてないの」


『あ? お前ら、もしかして昨日逃げ出したって噂の連中か? だったら俺は昨日一日中船の見張り役だったから無関係だって!』


 おでこに貼られた唇が必死に訴えかけてくる。殴られたくない一心とはいえ、嘘は言っていないみたいだ。

 それならばとニーナはリュックの中に手を入れる。


「それじゃあ文字通りひと眠りしてもらいますね」


『なんだ? アイマスク?』


 不思議がる海賊の後ろに回り、目元を<絶対快眠アイマスク>で覆う。男はほんの少しだけ抵抗するそぶりを見せたが、喉元に槍を突きつけられたので大人しく受け入れるしかなかった。


 そのまま男は数秒とかからず深い眠りへと誘われる。


「……これでよしっ。平和的解決だね」


「まあそうね。こんな奴らに情けが必要だとは思えないけど」


 シャンテはいかにも不服そうに仰向けに寝転がる海賊の脇腹を蹴飛ばすが、男はまったく気にすることなく気持ちよさそうに寝息を立てている。それを見たフラウが興味深そうに男のほっぺたをぎゅっとつねるが、それでも目を覚ますことはない。


「こうも目を覚まさないと顔中に落書きしたくなりますね」


「あはは、それいいアイデアね。でもいまは急ぐ必要がありそうだし、そういう悪戯はお預けよ。みんな、準備はいい?」


 シャンテはそう言うと扉に手をかけて、それを慎重に開いた。

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