海といえば水着
マーレ海に浮かぶ無人島へと遊びに行くことに決めたニーナたちは、さっそく計画を立てることにした。日程や持ち物、移動手段など、検討すべきことはいくらでもある。チラシに載っていたツアーに申し込んでもいいのだが、個人で行ったほうが自由に行動できる。それにせっかくの無人島なら観光客が少ないときに訪れるのがいいだろう。
そう考えたニーナたちは、あえてツアー客と会わないよう日程をずらしてみることにした。
「個人で行くとなると、問題は荷物よね。なにかあったとき用にいろいろ準備しておきたいところだけれど、多いと運ぶのが大変だし」
「それならフラウさんを誘ってみるのはどうかな?」
「なるほど、魔法の風呂敷に全部包んでもらおうってわけね」
「うん。それに歳も近そうだし、もっとお話してみたいと思ってたから、この機会にお誘い出来たらなって」
「いいんじゃないかしら。でもその場合、移動手段はどうするの? 彼女に頼めば箒に乗せてもらえるだろうけど」
もともとの計画では、港近くのレンタルショップでキャンプ用の道具を借りて、そのあと船を出してもらうという予定だった。ニーナは船旅というものを経験したことがなかったので、乗せてもらえることを楽しみにしていた。
「うーん、空の旅も捨てがたいけれど、せっかく港まで行くのなら船に乗ってみたいな」
「わかった。それじゃあとりあえず連絡を取ってみましょ。荷物を運んでもらえるかどうかだけでも訊いてみないと、計画が立てられないしね」
そう言ってシャンテは<お呼び出し名刺>に書かれてあった番号に電話をして、これまで立てた遊びの計画をかいつまんで説明した。反応は上々だったらしく、二つ返事で了承してくれたらしい。<黒猫印の箒郵便>としてのお仕事は個人の裁量が大きいらしく、自由に休みを取ることができるとのこと。あんまり休み過ぎると客を別の人間に取られてしまうこともあるそうなのだが、とはいえ一週間ぐらい休暇をとっても全然問題ないらしい。
そのあと電話でフラウと会う約束をして、ニーナたちは財布を手に取る。待ち合わせ場所は<裁縫の錬金術師マージョリー>が店を構える洋服屋さん。ロブではないが、海といえば水着は必須なのである。
「アタシたちは出かけるけれど──」
「もちろん俺も行くぜ! 二人だけだとなにかあったときに心配だしな!」
「……そう言うと思ったわ」
いつも以上に張り切る兄の前で、シャンテは小さく肩をすくめた。
◆
「これはこれは、お誘いどうもありがとうございます」
店の前では一足先に到着していたフラウが待っていた。今日は仕事を休んでいるのか私服姿である。ゆったりとした袖の長い洋服がとても似合っていた。クリーム色の髪は毛先がくるんとカールしており、頭の上につけた紺色の大きなリボンが可愛らしい。そんな彼女がおっとりとした表情で小さく会釈をする。
「お客さんと交流する機会はあれど、こうして遊びに誘っていただける機会はなかなか無いので、とっても嬉しいですね」
「そうなんですか?」
「はい。仕事柄よく頂き物はするんですが、それも仕事終わりに限った話で、平日にお仕事以外で呼んで頂けることはほとんどないですね。そもそも同年代の女の子から依頼される機会も多くはないですから」
言われてみればそうかもしれない、とニーナは納得の表情で頷いた。
会話もそこそこに三人と一匹は店内へ。そろそろ本格的な夏のシーズンを迎えるということもあって、この季節にピッタリの洋服が並んでいる。もちろん水着も売られていて、ナイスバディなお姉さんを模したマネキンが、真っ赤な水着を完璧に着こなしていた。
「あれ、シャンテちゃんも似合うんじゃない?」
「さすがにあんな派手なのは嫌よ。布面積も少なすぎるし」
「でもシャンテちゃんって日ごろから露出多めだよね」
「そうでもないわよ。というか別に派手なものが好きというわけでもないし」
シャンテはそう言ってマネキンには目もくれず、さっさと自分好みのものを選び始める。その後ろではロブが興味津々な様子で目を輝かせていた。いつのまにかフラウも店内をふらふらと見て回っている。
「ねえロブさん。私はどんな水着が似合うと思います? こういった店で水着を選ぶの初めてで」
「おー、そうだなー、ニーナならスクール水着か、ここはあえてのティーバックか」
──どごぉ!
本日二度目のげんこつが炸裂した。ロブがお勧めしてくれた水着がどんなものかよくわからなかったが、どうやら酷いものを勧められたらしい。とりあえずシャンテと一緒に軽蔑の眼差しでも送っておこうか。
とにかく訊ねる相手を間違えたらしい。やっぱりここはシャンテに質問してみよう。
「シャンテちゃんはどういう基準で水着を選んでいるの?」
「そりゃあやっぱり似合うかどうかよね。もちろん好みの問題もあるけれど、自分が可愛いと思ったものを選んでみたら? 試着室もあるみたいだから、気になったものを片っ端から着てみたらいいのよ」
「おお、なるほど」
「アタシが選んであげてもいいんだけれど、せっかくフラウも近くにいるんだし、彼女と一緒に選んでみたらいいんじゃない? 可愛い服着てるし、きっとセンスあるわよ」
たしかにフラウとは背格好が似ているし、ニーナから見てもフラウが着る洋服は可愛い。もしかしたら好みも似ているかもしれない。
そう思って、シャンテに訊ねたものと同じ質問をフラウにしてみる。
この世界にスクール水着はある……のか???




