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08話 ルーキー使い魔ハチ


 使い魔としてどれくらいの素質があるか調べる『使い魔認定試験』を受験することが、急遽決まったオレ。まだ生後6ヶ月のチワワであるオレにとっては、都会の認定会場への足を運ぶだけでも厳重体制で安全の確保が必要となる。


「ハチ、久し振りに車に乗るけど大丈夫? 場所は隣町の試験会場だけど、車で15分くらいだから大人しくしてれば平気だよ」

「くうーん(分かった)」


 オレをドライブ用のペットキャリーに入れて、ブルーベルが移動の内容を説明してくれる。一応返事を確認してホッとしたのか、人間用の席へと行ってしまった。


「では、ハチ様。目的地までは、我々が安全に運びますのでご安心を。会場に着いてからは、体調を整える休憩時間が与えられますので、試験は受けやすいでしょう」


 魔王城直属の運転手が、ペット移動用の専門車で厳重にオレを運ぶ。走り出した車の中でガタンゴトンと揺られるが、小型犬でも揺れを気にせず移動出来るように工夫してあるようだ。ペットキャリーの内部にタオルを敷いており、想像よりは快適に過ごせる。

 ペットショップから魔王城に移送された時以来車には乗っていないので、久しぶりの車旅だ。


(まさか、いきなり『使い魔認定試験』を受けることになるとは。現実的に考えて、チワワといえば小型犬の中でも激弱の犬種のはずだ。怪我のないように、身体に気をつけることが重要だろう)


 ペットキャリーの中で、ジッとしながらそんなことばかり考えていた。

 世間知らずの向こう見ずなチワワならともかく、人間であった前世の記憶をもつ転生チワワなのである。客観的に見て、チワワという生き物がどれくらいか弱い生き物なのかくらい認識している。

 試験を受ける前に自分で結論づけるのも虚しいが、おそらくチワワの攻撃魔力数値なんて、チワワの体重並みに軽やかなものだろう。


 丸くなって自らのふっさりしたベージュ色の尻尾に顔を埋めながら、そんな風に自己評価していた。



 * * *



「うわぁ、随分と広い会場だね。私は受付で手続きしてくるから、ハチは休んでいてね」

「きゃん!」


 到着した会場は、通常時は運動場として使用されている大型公園だった。よく考えて見れば、様々な種類の使い魔候補をたくさん集めて試験するわけだから、それなりの広さが必要だろう。

 天気は程よく晴れており、暑すぎず寒すぎずちょうど良い気温である。足元の芝生も痛くなく、犬猫の肉球が傷つかずに済むため安心だ。

 次々と運動場の敷地に使い魔を連れた人々が集まり始めて、猫やフクロウの鳴き声があちこちから聞こえるようになってきた。


 すると、通りすがりの黒猫がオレに興味津々な様子で話しかけてくる。大きな金色の目をくりっとさせて、なかなか可愛らしいメスの猫だ。


「にゃーんにゃん(今日は、いきなりテストなんてびっくりだにゃん。キミも使い魔になるのかにゃ?)」

「きゃわん、くーんわん(う、うん。ご主人様が魔法使いになるからそのサポートだよ)」

 ケルベロス以外の小動物と、まともに会話するのは初めてかも知れない。犬と猫って、言語が通じたんだと不思議な感覚に陥る。


「みゃーんにょーん。にゃにゃにょ(へぇ、魔法使いのサポートは猫かフクロウが一般的にゃのだけど。これからは、チワワの使い魔もありなのかも知れないにゃ。あっご主人様が呼んでるにゃ、キミも頑張ってにゃ!)」

「わん、きゃんっ(うん、ありがとう。猫さんもテスト頑張ってね)」


 お喋りな黒猫は、オレに励ましの言葉を残して、猫特有のしなやかな動きで華麗に走り去ってしまった。


(あれっそういえば、魔法使いの使い魔でチワワって珍しいのかな? ドラマや映画でも、魔女って猫連れているような)


 後々分かるのだが、他の犬系の使い魔達は魔法剣士などの文武両道型のサポートに徹する者が多く、純粋に魔力勝負するのは猫やフクロウの方が多いらしい。何となく不安になり始めていると、メイドさんがオレに使い魔について教えてくれる。


「一般的には、使い魔というのは猫ちゃんのほうが数が多いのですけど。冒険する場所によっては、ワンちゃんの方が有利なこともあるのですよ。我が魔王城を大改編したブーケ姫も、犬の使い魔を好んで連れていたそうです」

「くぃーんくぅん(そうなんだ。オレにも務まる仕事があるといいけど)」



 若干、場違いな雰囲気を感じていると、手続きを終えたブルーベルがオレ達の元へと戻ってきた。


「お待たせ! 私達の試験はあの紫色ローブの試験官がいる列に並んで、受けるんだって。ハチも休憩できたし。多分大丈夫だよね。行こう」

「きゃうん!」


「ブルーベル様、ハチ様。ご健闘をお祈りしておりますわ!」


 メイドさんに見送られて、いよいよ試験の本番だ。魔法使いの試験が行われている列に並ぶと、やはり使い魔は猫かフクロウが多い。


 数少ないチワワの使い魔候補のオレは、この列の中でも密かな注目の的のようで、其処彼処からオレの噂話が聞こえてくる。


「にゃーんにゃん(見て、あの子チワワよっ。今時、チワワの使い魔なんて珍しいっ」

「ほほほー、ほっほー(お伽話では子犬が使い魔として活躍する話もあるけど。夢見がちな飼い主さんなのかしらねぇ)」


「ハチ、いろんな使い魔が注目してくるけど、気にしちゃダメだよ。きっと注目されるのは、ルーキー使い魔の宿命なんだよ。ハチは私にとって、最高のチワワなんだからっ」

「きゃんっ」


 ――この時、オレはまだ気がついていなかった。お茶会の時に、亡きローズマリー王妃の霊魂から未知のチカラを発揮する『魔力増大スキル』を継承していたことに。


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