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06話 使い魔試験のお誘い


 それは、ブルーベルのお誕生日お茶会から1ヶ月程経った日の出来事。涼しげな夜の風は寝心地が良くオレはいつも通り、ブルーベルの部屋の隣でグッスリと夢の中にいた。

 だから、その夜にオレの運命を大きく変える一本の電話がかかってきたことなんて、まったく知らずに夢の中にいた。


「ブルーベル姫様、使い魔認定協会からお電話です」

「えっ? もう夜遅いのに。一体何の用事かしら。ハチの使い魔認定の申し込みは、あと1ヶ月は先に予約してあるはずなんだけど」


 時計を確認すると、すでに夜の9時過ぎだ。まだ11歳のブルーベルにとっても、そろそろ就寝時間と言えるだろう。その証拠に、淡い水色のフリル付きネグリジェ姿で、すっかりおやすみモードになっていた。

 だが、使い魔認定協会といったら、その業界では知らない者はいないレベルの最大手協会だ。使い魔の認定はもちろんのこと、魔法使い候補者の進学推薦書を発行することも出来る。

 魔王の末娘とはいえ、協会の権力には逆らえないという風潮が、すでに使い魔業界には蔓延していた。


 仕方なく薄手のカーディガンを羽織り、長い銀色の髪を軽く束ねて支度をする。


「ハチ、可愛い……眠っちゃっている。ちょっとお電話があったから行って来るね」


 スヤスヤとケージの中で眠るオレを確認してから、ブルーベルは電話台の設置れた談話室へと足を運ぶ。


「もしもし、お電話代わりました。見習い魔法使いのブルーベルです。初めまして」

「おおっ! 初めましてブルーベルさん、夜分遅く申し訳ございません。わたくし、使い魔認定協会のアナロジーと申すものです。実はですね、突然なのですがチワワのハチ君の認定試験が明日に決定しまして」


 案の定、電話の内容は認定試験の案内だった。しかも、予定になかったのに突然明日行うという。


「えっ? すみません、ハチはまだ生後6ヶ月で認定試験には早いから、来月の予約だったハズなんですが」

「それがですね、ご存知かと思いますが魔王一族の娘さん達は皆、乙女座の新月に使い魔と本契約されるんです。特に今年は、乙女座がいろいろな星と並ぶ、魔法使いにとって重要な日なんですよ。乙女座の新月に就任するには、そろそろ試験を受けていただくようにと」


 確かに、魔王一族の娘は『乙女座の新月』の日に就任を済ませるのが伝統だ。けれど、まだだいぶ日があるし来月のテストでもハチのデータ収集は、就任式に間に合うと思っていた。


「まだ、就任式まで日があるから大丈夫かと思っていたのですが」

「確実な魔力データを調べるのであれば、来月よりも明日の方が適しているんです。星の動きの関係で、トランジットの様子などから見ても明日になります。もちろん、他の会員の方も緊急で受けにきますよ」


 ブルーベルは占星術の専門知識はそれほどないから、明日の星の配置による魔力がどれくらい強いか分からない。そもそも、星は毎日少しずつ動いているし、魔力の切り替わりは新月と満月のたびにしょっちゅう起こっているハズだ。


 けれど、一族の伝統を守るために『乙女座の新月』までにハチとの絆を完全にしたいのであれば。データ収集の最適日である明日のテストが、重要なのだろう。


「……分かりました。明日、ハチを連れてテストを受けます。認定試験の会場と開始時間を教えてくれませんか?」

「そう言ってくださると思っておりましたっ。会場は、魔王城からなら車で15分から20分もあれば到着出来る場所でして、ドッグラン併設の有名運動公園の――……」


 他の使い魔や魔法使いも受けるテストをブルーベルとハチだけが断るわけにもいかず、承諾せざるを得ないのであった。



 * * *



 次の日の朝、じいや達がオレの身の回りを必要以上に整えていて違和感を感じた。

 見たことのない種類の首輪や、ネームプレート、猫でもないのにチリンチリン鳴る鈴など。そして、肝心のブルーベルの姿が見えない。使用人に用事を任せているということは、何かの準備で忙しいのだろうか。


「老師様、ハチの首輪はどのようなものを選ぶと良いのかしら?」

「ふうむ、我々使用人でなくブルーベル様が自ら選んでも良いのでしょうが、今回は特別な試験ですので。私達からも、合格に有利な状態へと導かなくては」


 特別な試験、合格、一体誰が試験を受けるのかと考えると、妥当なところでブルーベルだろう。おおかた、ペット込みで試験を受けに行くタイプのものだと見た。確かに、面接なんかだと一緒にいる身内も試験の対象になるみたいだしな。


「ハチおはよう、ごめんね。ご飯の準備が遅れちゃって! はい、今日のご飯だよ」

「くいーん、きゃうん。きゃきゃきゃん(おはよう、ブルーベル。じゃあ早速いただきまーす)」


 子犬用にふやかしたドッグフードと水が、飼い主の手によって用意される。食べて良いという合図を受けてから、かつかつと小気味よく食事を開始。

 チワワに転生したためか、不思議とドッグフードの美味しさが理解出来るようになってきている。人間時代の食事に例えるならば、バランスを考えた固形のクッキーをちょっぴりふやかして食べているといった雰囲気だ。


 それに、成犬ともなればジャーキーや骨つき肉などのワイルドな食事も、メニューに加わるだろう。食事のバリエーションに関しては、これからに期待大である。


「うふふ。美味しい? あのね、一応ハチ自身の試験のことだから話すけど、今日は使い魔適正試験の会場に行くの。まだ生後6ヶ月のチワワが、使い魔の適正試験を受けるのは早いと思ったんだけど」

「きゃきゃんっ(認定試験っ)」


 前触れなしの使い魔認定試験に、驚きの声をあげてしまう。本当は、食事中に吠えるのはお行儀が悪いのだが。思わず声が出てしまったという理由で、大目に見て欲しい。


「驚かせちゃったみたいだね。昨日の夜突然連絡があって、魔力の測定の最適日だから、来てくださいって。本当は、あと1ヶ月先の試験に申し込んでいたんだけど、緊急試験が開催されることになったの。試験に使うハチの装備品は、じいや達が用意してくれたんだ。生まれつきの魔力を測定するだけだから、大人しくしてれば大丈夫だよ」

「きゃーん、くうーん(昨日の夜に連絡って、いきなり大丈夫だろうか)」


 動物特有の勘なのか、妙な胸騒ぎがする。けれど、ブルーベルの心配そうな顔を見たくなくて、なるべくニッコリとチワワフェイスを整えるのであった。


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