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03話 ママさんにご挨拶


 もうすぐご飯の時間、というところでブルーベルがドッグケージをカタンと開ける。水色のワンピースに身を包んだオレの飼い主は、今日も可愛らしい。


「ハチ、だいぶこのお城での生活も慣れたかな? はい、今日のご飯も生後5ヶ月のチワワでも食べやすい柔らかめのドッグフードだよ。水でふやかしてあるから、消化しやすいと思うんだけど」

「きゃん、くぅーん(ありがとう、ブルーベル)」


 オレはチワワの食事事情に詳しくなかったが、子犬のうちはドッグフードを水でふやかしたものを食べるようだ。よく考えてみれば、人間だっていきなり大人と同じ食事をするわけではない。身体の小さいチワワともなれば、余計に配慮が必要だろう。

 栄養たっぷりのふやかしたドッグフードをわふわふと平らげると、ブルーベルが本日の計画を語り始めた。


「うふふ。実はね、今日は私の11歳の誕生日なの。久しぶりに、ママに会いに行くんだよ。ハチとケルベロスにも、ママを紹介してあげるね。テラス以外では、初めてのお外歩きになるけど頑張ろうっ」

「きゃきゃんっ(ママさんに会うのっ)」


 この1ヶ月間、自室とブルーベルの部屋の往復、そしてお茶会のテラスで日向ぼっこという暮らしがメインだった。そのため、お城全体の様子は分からなかった。だから、ブルーベルのママがどの部屋で暮らしているのか、知らないのである。

 ブルーベルは魔王の娘……必然的にママというのは、魔王様の奥さんということになるだろう。だが未だに、王妃様にお会いしたことがなく、家族構成そのものが謎に包まれていた。


 わざわざ会いに行かなくてはいけない場所に今はいるということは、別居中ということだろうか。死別しているのではと疑ったこともあったが、年に数回はお話をしているとのことで、会話が出来る状態の様子。



 しかも、テラス以外の初外出という生後5ヶ月のチワワにとってはビックイベント。

 期待と不安で小さな胸をドキドキさせながら、大人しくブルーベルにリードを繋いでもらう。すると、コンコンコンと部屋のドアをノックする音。


「お嬢様、本日はお母様のところへ行く大切な日ですね。日焼け対策などの準備は整いましたか? 魔王様がワープエリアでお待ちです」


 外出時間を告げに、メイドさんがブルーベルを呼びにやって来た。日焼け止めや帽子もセットして、屋外対策を確認。もしかすると、自然の多い場所へ向かうつもりなのかも知れない。


「うん、体に優しい日焼けどめも塗ったし、ちゃんと安定感のある靴を選んだし、大丈夫だよ。ハチも調子が良さそうだから、安心してね。行こう」


 メイドさん3人組を連れて比較的ブルーベルの部屋から近いワープエリアで、ケルベロスを連れた魔王様やじいやさんと合流。


「キャキャンッ(あっハチだ。久しぶり)」

「きゃうーん(ケルベロス久しぶり、今日は城の外だってさ)」


 オレと一緒にペットショップで買われたケルベロスと、久しぶりに犬同士の会話を交わす。魔王様は、白い薔薇でいっぱいの大きな花束を片手に持っていた。


「今日はハチとケルベロスの初の城外散歩になるから、無理せずゆっくり行くぞ。今こそ美しい庭園だが、かつては『漆黒の闇が溢れる森』と呼ばれていた場所だから気をつけるように」

「このじいや、今日はブルーベル様のお誕生日ということもあって、とびきりのピクニックメニューを用意しましたぞ。もちろんこれから合流する奥方様も、屋外での食事を楽しめるように工夫いたしました」


 保護者達もオレやケルベロスの歩幅に合わせて、歩いてくれるつもりのようだ。しかも、屋外用のピクニックメニューも用意済みだという。


「本当? じゃあ、今日はママも一緒にピクニック出来るね。えへへ、楽しみ!」

「きゃんきゃん!」

「くうーん」


 そんなことをのんびり話していると、紫色のカーペットにいつの間にか魔法陣が浮かび上がる。魔王様が古代の言葉で呪文を唱え終わると、オレ達はどこかの庭園にワープしていた。


「きゃ、きゃん(綺麗な花がいっぱい咲いている。お城とは花の香りが違うし、どこか別の庭園か)」

「ふふっハチ、驚いた? ここはお城から少し離れた丘の上にある魔法庭園なの。昔はこの辺りに魔王城があって、『漆黒の闇が溢れる森』という名称で恐れられていた場所なんだって。けど、ブーケ姫が小さなカラクリ兵達に造園させて綺麗な庭園に変えたの」

「きゃーん(へぇ、小さなカラクリ兵が)」


 意外な歴史を知り、チワワながらにちょっぴり博学になった気分だ。


「ママのお墓はここにあるんだけど、霊魂と会話出来るのは季節の変わり目だけで、ママと会話できるのもその時だけなんだ」

「わんっっきゃきゃん(えっお墓ってことは、やっぱりママさんは亡くなっていたのか。でも、霊魂と会話とは?)」


 魔犬として名高いケルベロスは、オレよりも体力が高くワンワンと、先に走って行ってしまった。


 庭園のワープゾーンは墓標にほど近い場所に設置されているらしく、犬の足でも5分くらいで『王妃マリーローズここに眠る』と記された墓標の前に到着した。生後5ヶ月のチワワの外歩きとしては、これくらいがちょうど良いのだろう。


 スズランや青い薔薇が咲き乱れる不思議な庭園は、季節に左右されずに魔力で花が育つ不思議な空間。


「マリーローズ、しばらくぶりだな。今日は、ブルーベルの11歳の誕生日だ。母親のキミからも、何か祝いの言葉を言ってやってくれ」


 魔王様がそっと花束を墓標に捧げると、まばゆい光が辺り一面に広がって思わずまぶたを閉じる。


 やがて光が和らぎ、そっとまぶたを開ける。オレ達の目の前に、金色のウェーブヘアの美しい女性が現れて、霊魂の状態でニッコリと微笑む。驚くような光景だが、きっとこれが魔族の世界では常識なのだろう……多分。


「久しぶりね、あなた。お誕生日おめでとう、ブルーベル。それに、じいやと可愛いワンちゃん達もいらっしゃい!」


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