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25話 未来の技術、カラクリ兵・改


「うふふっ。さあ行きましょう。私達のバトルフィールド、『漆黒の闇が溢れる森』へっ」

「きゃうーーーんっ」


 裏庭に続く勝手口のドアを開けて、名称からしてヤバげな森への第一歩を踏み出す。チワワのハチがブーケ姫とともに危険な冒険の第一歩を踏み出した少し前……。小型犬と同サイズ程度の小さな兵士――カラクリ兵達もまた、運命の分岐点に立たされていた。



 * * *



 魔王城近くの『漆黒の闇が溢れる森』は、瘴気に耐性を持たない人間族にとっては危険な森である。

 闇の森を散策しても無事でいられる種族は少なく、魔王一族を筆頭にそれらと同じ魔の系譜を継いでいるとされる高等魔族。さらに魔族と契約を交わし魔の属性に馴染んでいる使い魔か、もしくは無属性のゴーレムなどの生物だけだ。


 一見すると魔の瘴気のおかげで、魔族の姫君ブーケも身の安全が確保されていると思いきや、人間側が一枚上手だったのか常に見張られる毎日だ。今日もブーケの動向は、ゴーレムの目を通じて人間側の魔導師達に報告されていた。


「ブーケ姫が、新たに使い魔となる子犬を手に入れたとの情報が入りました。目撃者によると、聖なる獣テチチの体毛をさらに長くしたような子犬だとか」

「ほう……パピヨンの使い魔が出産のために休んだと思ったら、もう新たな使い魔を手に入れたのか。随分と用意周到なのだな。ブーケ姫とやらは……ただの犬好きの小娘かと思ったら。やはり、魔王一族の血を引きし者というわけか」


 作戦会議室は、正義の勇者を名乗る集団には有るまじき禁呪軍団であることを示す『三つ目三角帽子の集団』があらゆる呪術を行う秘密空間だった。彼らは自分達の正義を貫くために、全身黒ずくめの魔導師服に禁呪使いの証である三つ目三角帽子を被り……即ち、儀式の果てに悪魔に魂を売ったのだ。


「しかし、情報によればまだ何も出来なさそうな子犬ですぞ。鍛えるのにも時間がかかるでしょうし、ブーケ姫の周囲を突破するなら今かと……」

「まぁそう焦るでない。カラクリ兵達の中でも血気盛んな連中が、あの森の周辺で徘徊しておろう。まずは、お手並み拝見と行こうではないか」


 人間族にとっては、魔王城攻略のためには闇の森の影響を受けずに済む合理的な偵察部隊が重要となる。思考を凝らして考え抜いた末、人間族の軍師が魔王城偵察に向かわせたのは『カラクリ兵・改』と呼ばれる子犬ほどの大きさの小さな兵士達だった。驚いたことにこの最新のカラクリ兵達は、未来からやってきた技術を取り入れているらしい。


「カラクリ兵・改か……あの未来からやって来たという裏切り者の魔族が連れてきた未来の技術を持つ兵士。乾電池という謎のエネルギー源と魔力を合わせて無限に動く。だが、二百五十年後の技術を取り入れた罪が我々に還ってくる可能性は……」


 この時代の文明ではまだ開発されていないはずの『乾電池』なるものを使用して、半永久的に動かすことが出来る。ネックなのは乾電池そのものを『充電』しなくてはいけないことだが、電気系魔法と充電装置を組み合わせれば、動力には困ることはない。まさに、乾電池仕掛けの『カラクリ兵』達は、永久機関といえる偵察部隊だ。

 充電できる乾電池は、未来技術の中でもトップクラスの技術だという。本来ならカラクリ兵達は、もっと別の何かに活用される予定だったのかも知れない。


「その未来というのが、我々にとって厄介なのだ。何でも人間も魔族も腑抜けになって、争いを放棄して娯楽に走っているというではないか。戦いを推奨しているわけではないが、娯楽重視で資源を食いつぶしているのだろう……。やはり、我々がこの時代で何かしらの変容をもたらさなくてはいかんのだよ。例え、魔族達を根絶やしにしてもな……」


 三つ目三角帽子集団の中でもリーダー格の男が不吉なセリフを吐き捨てるように呟いた。人間族の未来を守りために、今のうちに魔族達を根絶やしにするという発想はまさに悪魔の発想だ。

 魔族と人間果たしてどちらが『悪』なのか……それは神が決めたほうが良い気がした。歴史上は、どこまで言っても人間側が正義だと記録して主張し続けるのだろうけれど。


「カラクリ兵達も、まさか過去世界に送り込まれて、魔の森を徘徊するために利用されるとは夢にも想うまい。いやカラクリ兵達は夢など見ぬか」


 禁呪使いのうちの1人はわずかに残った良心からか、ただの兵器として壊れるまで消耗されるカラクリ兵達を哀れに思った。が、機械とゴーレムの融合技術であるカラクリ兵達に、もともと夢などないのだと割り切ることにした。



 * * *



 さて、ここからは再びチワワのハチとブーケ姫の冒険譚である。冒険と言っても、自宅の裏庭である瘴気溢れる森の中で行われる、小さなバトルの一コマであるが……。チワワとその飼い主、そしてカラクリ兵にとっては大きな戦いの記録なのだ。



 昼間にも関わらず漆黒の闇が周辺に渦巻くその森は、まるでRPGのラスボス手前のフィールドだ。そう……オレはすっかり現代の魔王城ぐらしに慣れていて気づいていなかったが。


(よく考えてみたら、ブーケ姫の父である魔王様って典型的なRPGのラスボスなのでは?)


 ただ、一般的なRPGと異なる部分は、何故か魔王一族であるブーケ姫達の方が、自軍の周囲を敵に囲まれていて不利な状況だと言うことだ。


 歩き始めて1分ほどで、ブーケ姫が杖を片手に応戦体制に入る。雰囲気的にもう敵とカウントしてしまったのか。


「ここで会ったが二百五十年目、喰ラエッ! カラクリスラッシュッッ改!」

「危ないっハチッ」


 ザシュッザシュッ!

 ぷしゅううっ!

 運良くブーケ姫のフォローでことなきを得たが、地面の草木が無残に抉られている。


「ケッ仕損じたか、そこの弱そうな犬をヤっちまえば貴様の命も落とせると思ッタのダガナ」


 おいおい、想像よりも血気盛んな兵士がお出ましなんだけど。勢いだけですでにチワワのオレは負けてるし、走って逃げたいのが本音である。だが、バトルマニアの気があるブーケ姫は、ひと味違っていた。


「ふんっ! お生憎様、このハチはただの子犬じゃ無いわっ。驚きのSランク認定ルーキーなのよ。あんたなんか、これからハチが使う光魔法でケッチョンケッチョンのガラクタにしてやるんだからっ」


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