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23話 育てがいのあるチワワと見込まれて


「はっはちじゅうはちまん、はっせんんんんっ! このワンちゃんは一体……。只者ではありませんよぉ〜姫様ぁ。ええと、確かこの辺りにレアモンスターの育成図鑑が……うーん。どうしましょう? こんな小さな子犬ちゃんがレアだったケースは載っていませぇん!」

 小さな身体のチワワが、まさかレアモンスターレベルの潜在能力だとは思いもしなかったのか。メイドさんは狭い室内の中で右往左往しつつ、レアモンスターの飼い方なる分厚い書物を本棚から取り出して、育成方法を調べ始めた。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。まったく。取り敢えずは、ステータスの内容を詳しく見てから、ハチをどう扱うか検討するから」

「そ、そうですかぁ。はっもしかすると、そのステータスオープン魔法がエラーを起こしているのかも知れません! なぁんだ……そうですよね。こんな可愛らしい肉球から、ドラゴン並みの魔法なんか繰り出されたら、魔法を直撃する前に驚きで倒れてしまいます」


 何も驚いて倒れることはないと思うが、メイドさん的にはあくまでも強いモンスターというのは大型で、小型は弱いという認識なのだろう。オレは、前世で地球人として暮らしていたから、いろんなパターンのストーリーに見慣れているし強いモンスターが癒し系の見た目という展開でも驚かないが。


 そもそも二百五十年前といえば、対戦が起きた直後だし強い使い魔もたくさん存在していたと思う。まぁオレは見るからに愛くるしいチワワだし、しかも毛並みが特徴のロングコートでチワワの中でも愛くるしさが群を抜いているし。そんなオレが『最強の子犬です』とかステータスオープンして訴えられても、信用性が低いのだろう。


 そんなわけで、ブーケ姫から見たステータスオープンである。



 仮契約使い魔:チワワのハチ

 ランク:Sランク認定

 年齢:生後7ヶ月半

 魔力数値:88万8000

 チートスキル:ラブリーチート、魔力増幅魔法

 装備:小型使い魔用魔力制御装置

 備考:その辺のドラゴンが、驚くほどの魔力を小さな身体に蓄えているチワワ。まだ、成犬ですらないため魔力制御装置を装備していないと、自分自身の肉体に負担がかかるため注意が必要です。



「あらっ? でも、よく読んでみると、実際の魔力は制御された状態でしか使えないみたいね。もしかしたら、この凄い数値は将来的な可能性を示しているのかも知れないわ」

「はあ、そう言われてみれば確かにそうかもです。ステータスオープン技術は、まだここ数年使われているものですし。未知の部分があるのでしょう」

「もしかすると、可愛らしい小型犬の状態なのは幼いうちだけで、ランクアップするごとに身体の大きさも巨大になるのかも知れないわね!」


 どうやら、オレの内側に秘められたSランクの数値に驚いていたようだった。すっかり忘れていたけれど、現代でも一時的に騒ぎになったんだっけ。結局、小さなオレの身体ではとてもじゃないけれど使いこなせない魔力って事で、それほど注目されなくなったけど。


「ふうむ……でも万が一、肉体を成長させる機会を逃すと、ただ単に魔力を内包しているだけのか弱い存在として収まる感じもありますね。いや、このワンちゃんがそれほど戦いに犬生を賭けているタイプでなければ問題ないのでしょうけど」


(もしかしたら、扱いにくい子犬ということで使い魔の候補としては外されるかも知れないな。けど、無事に未来へと戻ってブルーベルに可愛がられていきていく方が安全なような気がするし。ただのか弱いチワワって設定で、生きていければいいや)


「くいーん(オレ、か弱いよ)」


 ブーケ姫とメイドさんにお目目うるうるの愛くるしい容姿でアピールをして、どれくらいオレがか弱いのか理解してもらうことに。そもそも、犬と言ってもまだ子犬……さらに子犬の中でも最も『か弱いチワワ』に何を期待するというのだ。

 ちょっとお散歩するだけでも、隅っこの方でふるふる震えるだけのキュートなオレに、無理させないで欲しいのが本音だ。


「あらっ? なんだか、ハチがウルウルした瞳でこちらを見つめているわね。私達に何かを訴えているような……」

「姫様、もしかすると自分はか弱いことをああやってアピールしているのでは? やはり、無理矢理パワーに目覚めるために鍛えるのは無謀なのではないでしょうか……」

「ハチ、もしかしてあなた自分が小型でか弱いことを気にして……」


 だが、ブーケ姫の脳内に存在する『チワワ設定』はひと味違っていた模様。手を顎に当てて考えるポーズでオレのことをチラチラ見て、「ふっ……」と笑う。いや、なんなのそのレアなモンスターをゲットしちゃったような勝ち誇った目は。

 まずい、まずいよ……なんだか嫌な予感がしてならないんだが。


「えっと、姫様?」

「つまり、ハチは膨大な魔力を秘めているものの実践的に使える魔法はまだ覚えていないってことよね。よぉし! ここで会ったのも何かの縁だわ。ハチが未来に帰る時までに、何かしら使える魔法を1つ覚えさせてあげましょう。我が魔王一族の子孫に、魔法を遺せる良い機会だわ!」

「ふぇええええっ? やっぱり、この子を本気で鍛えるんですかぁああ」


(う、嘘だろっ! この姫様、か弱いチワワを実践的に使えるように鍛えるとか言い始めたんですが)


 おかしい、おかしいよ……ブーケ姫。未来の飼い主ブルーベルは、オレに無理なんてさせない心優しい少女だったよ。しかも、ブーケ姫に憧れていたんだけど……あの憧れの気持ちはなんだったんだ。心優しい姫君って、ただの噂で本当はただのバトルマニアなんじゃ……。


「くいーん、きゅーん、きゃきゃーん(やめて、考え直してブーケ姫。お願いだから可愛い子犬に無茶させないで)」


 自分で自分のことを精一杯フォローするが、ブーケ姫はきゃんきゃんなくオレを興奮しているだけと勘違いして、優しく頭を撫でるのみ。


「うふふ……今まで辛い思いをさせたわね、ハチ。その身に有り余る魔力をどう使っていいのか分からない日々は、ここでピリオドを打つのよ。いいこと、今日から私があなたの仮マスターになって魔力の基本となるノウハウを伝授してあげるわ。誰だって最初のうちは初心者よ、一緒に頑張りましょうね!」

「きゃっ?」


 必死の訴えも虚しく異様にやる気のブーケ姫は、オレが使い魔としての高みを目指していると勘違いしているらしい。いや、まだメイドさんの方は正気のはずだ。もう一度潤んだ目でメイドさんに助けを求めて……。


「くいーん(メイドさん、ブーケ姫を止めて!)」

「さすがは、ブーケ姫! 心なしか、この子犬も突然元気になった気がします。こんなにわんわん鳴き始めて……しかも感極まって涙を流しているような気さえします。感動の心を私にも伝えたがっているようで、素晴らしいです。それに、毎日の鍛錬を行うなんて、良いお考えですっ。パピリンの出産予定の新月までまだ数日ありますし、それまでは小屋と往復しながら魔法の訓練をいたしましょうっ」


「きゃきゃんっ(しまった! 逆効果だったか)」


 使い魔としてのパワーアップと子孫への魔法技術プレゼントの計画で、やたらと盛り上がるブーケ姫とメイドさん。まったりとした古城ライフになるかと思いきや、昔の人達は研究熱心だったらしい。


 ――オレの過去世界の冒険は、一筋縄ではいかないようだ。


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