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20話 例えば、人間に転生出来ていたのなら


 ふと目を覚まして窓辺で夜空を見上げていると、眠れないのか新たな飼い主であるブーケが部屋を訪れた。


「なんだブーケか、眠れないの? ブーケのミルク粥、美味しかったよ」


 夢の中ではオレはチワワではなく、人間の姿になっていて。オレを見たブーケの驚いた顔が印象的だった。顔を赤くして、まるで恋する乙女のような雰囲気だったから。


 オレがチワワではなく、人間に転生出来ていたら……。もしかすると彼女と小さな恋が生まれていたのかな?


 ――なんて、そんな例えばの話。



 * * *



 次の日、目を覚ますと二百五十年前の魔王一族姫であるブーケの部屋だった。昨夜は疲れていたせいか食後すぐに眠ってしまったオレだが、きちんと犬用の寝心地の良いスペースで睡眠を取ったようだ。きっと、ブーケ姫やメイドさんが眠っているオレをスペースまで運んでくれたのだろう。


「ふぁああっ!」


 眠気がなかなか醒めずに、大きなあくびをして思わず声が出てしまう。オレ自身、小型犬のチワワの割にあまり吠えない犬なのだが、こういう時は仕方がない。オレの大きなあくびは、ブーケにも聞こえていたのか、嬉しそうに笑いながら様子を見にやって来た。


 時代は冷戦中で、あまり贅沢な暮らしは出来ないという状況らしい。だが、もともと犬を飼っていることから、犬用のアイテムや食事は揃っているようだ。

 けれど、使い魔として契約するためとはいえ姫君であるブーケ自ら料理をするのが当たり前のようでなんだか不思議である。よく考えてみれば、この建物もお城の中というより別棟になっているし、ブーケはお城の人達と生活を分離しているのかも知れない。


 その証拠にこの別棟には、ブーケの寝室、台所、客間、使用人の部屋など普通の一般家庭レベルの部屋数が揃っている。

 敷地もそれなりに城の本部とは離れていて、外出する場合も城門などを使用しなくても出入り出来るようになっている。まるで、姫が自由に活動するための施設のようだ。


「ハチ、おはよう。昨夜はよく眠れたかな? 今日は、一応あなたを私の仮使い魔として登録してから森に出ようと思うの。もちろん、あなたの本当のご主人様との契約は維持されるから安心してね」

「きゃうん(分かったよ)」


 今日のブーケ姫のスケジュールは、彼女の飼い犬であるパピリンの出産準備のために裏庭の小屋まで行くはず。だが、その前にオレとの仮契約を済ませるつもりみたいだ。


「うふふ。なんだか、ハチって人間の言葉が完璧に理解出来ているみたい。不思議ね、本当に聖なる獣で神の遣いなのかしら? さて、昨日と同じ今朝もミルク粥になるけど、ちょっぴり味付けを変えるから違いを楽しんでね」


 ブーケ達が食べる人間の分の食事は、メイドさんが用意済みのようであとはオレの食事だけだった。一応、待てをしてから合図に合わせて昨日とはちょっぴり味が違うというミルク粥を味わう。


(なるほど、何となく昨日よりさっぱりめで、朝の活力が湧く味付けだ)


 ブーケ達も手早く朝食を済ませて、出かける準備が完了。すると、おもむろにブーケが杖と小さな手帳を片手に何やら呪文を唱え始めた。


「いいこと、ハチ。これから、私とあなたの間に仮の契約を結んで、相性かた算出されるステータスを割り出すわ。俗に言う『ステータスオープン』というもので、数値は魔力で自動的に手帳に刻まれるの。数年前に開発されて技術で、この時代の魔法使いなら誰でも出来るのよ」

「きゃん、きゃうん(へえ、この時代のステータスオープンは手帳を使うのか)」


 ブルーベルと使い魔として仮契約をした際には、スマホのアプリを介してステータスオープンを行った。てっきり、現代の技術を使わないとステータスは割り出せないものだと思い込んでいたが。

 この当時で数年前に開発されたそうだが、残念ながら現代の魔法使いはステータスオープン魔法を使える人は少人数である。当時の方が自分達の呪文でステータスを割り出せた分、身近な存在だったようだ。


「精霊達よ、私とこの清らかな犬との間に仮初めの契約を認めよ。我の魔力とこの使い魔の魔力を数値として表したまえ……ステータスオープン!」


 ボワンッ! 呪文に反応するように、青白い光が手帳に発生する。そして、ペンが自動で手帳の上を滑っていき、サラサラと何かの文章を記しているようだった。


(これが、当時のステータスオープンか。なかなかすごい技術だなぁ)


 感心しながら見守っていると、まるで間違いでも見つけたように、ブーケが目を見開いて手帳を何度も確認している。


「ハチ……あなた、一体? いえ、けどステータスオープン呪文が間違えるはずないし」


 首を傾げて、ステータスオープン魔法が失敗した可能性を探るブーケ姫。あんなに自信たっぷりで行なった魔法なのだから、大丈夫だと思ったのだが。やはり、現代では機械任せになっているくらいだし、難しい技術なのだろうか。


「ブーケ姫様、何か不備でもありましたか? もしかすると、魔法に使ったペンのインクが足りなかったとか」


 メイドさんがブーケ姫をフォローするために、他に原因がないか調べて回る。直接紙に文字を書き出すタイプの魔法のため、ペンやインクなどのアナログな道具に不備があった場合には失敗することもあるだろう。


「ううん、数値が足りないわけじゃないのよ。ほら、見てちょうだい、この数値」


 どうやら、ブーケ姫的には道具に不備があるとは考えていないようだ。そういえば、オレの犬目線から見てもサラサラとペンが手帳を滑っていて、スムーズに自動手記されていた気がする。では、一体何が引っかかっていると言うのだろうか。


「はい、では失礼して……。ええと、使い魔ランクSチワワのハチ。魔力数値、は、はちじゅうはちまん、はっせんんんっ? こ、これは一体っ」


 オレのSランク数値を見て、思わず驚きの声をあげるメイドさん。そうだ、すっかり忘れていたが制御装置を装備していても基本的なステータスは変わらないんだっけ。


「凄い、凄いわハチっ! 昨夜、神官長様が仰っていたように、あなたって本当に人間の転生者? ふふっなんてね!」


 ブーケ姫の期待を一身に受けて、オレの使い魔ライフが二百五十年前の魔界を舞台に幕を開けるのであった。


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