表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/37

17話 期間限定の飼い主


 召喚魔法によって、見知らぬ場所へと飛ばされてしまったオレ。周囲に黒フード集団に事情を聞きたかったが、なんせ犬語しか喋れないチワワなので、それすら叶わない。だが、神はオレを見放していなかったのか、すぐに儀式場に犬好きそうな女性が姿を現した。


「ブーケ姫様、申し訳ございません。実は、姫様の愛犬ではなく別の犬を手違いで召喚してしまいまして」


 まだ子犬のオレを不安がらせないように、慣れた手つきで抱き上げてきた彼女は『ブーケ姫』というらしい。奇しくも二百五十前の伝説とされているお姫様と同じ名前である。


「まぁ、犬を召喚する儀式をしたらこの子が呼び出されたというわけね。ごめんなさい、本当は裏庭で離れたうちの犬を呼び出そうとしたんだけど。手違いであなたを呼んでしまったみたい」

「くぅーん」


 オレを目線を合わせて、優しく頭を撫でてくる彼女の顔をよく見ると非常に既視感が。目鼻立ちといい、髪の雰囲気といいオレの飼い主であるブルーベルを彷彿とさせるのだ。思わず同一人物なのかと疑うくらい似ていて、混乱する。

 だが、ブルーベルはまだ11歳の少女、対してこの女性は18歳は過ぎているであろう。同一人物であるはずがないし、未来のブルーベルだとしたらオレの姿を見て何かしら気づくだろう。おそらく、そっくりなだけで別の人物だ。


「如何致しましょう? 見たところとても野良犬には見えませんし、何処かの貴族が飼っているような風貌ですが」

「ええ、丁寧にブラッシングされていて、本当に綺麗な犬だけど多分飼い犬よね。あなたの飼い主は誰なのかしら? 心配しているとよくないし、飼い主の名前とか分かると良いんだけど。あら、首輪にプレートが……」


 オレの首輪に付けられたプレートの気づき、調べ始める女性。そういえば、Sランク認定試験以降からいついかなる時も、首輪を装備していたんだっけ。いざ迷子犬になると、首輪のや飼い主の名前が書かれたプレートを身につけていて良かったと思う。


「姫様、プレートとは? おぉ成る程、首輪にこの犬の情報を記したプレートをつけているのかっ」

「私どもの目が確かであれば、聖なる獣と謳われるテチチに似たこの子犬。出来れば、この城で飼いたかったが……判断は、プレートを確認してから姫様に委ねよう」


 どこに飛ばされたのかは定かではないが、この女性がきちんと連絡してくれればお城に帰れるはずだ。


 けれど、オレの期待とは相反して女性の表情が驚きとともに曇っていく。


「そんな、こんなことってまさか。何かの間違いよね?」


 そして、別の人の意見を聞きたいのか。黒フードのリーダーらしき人に、オレの首に付けられたプレートの内容を見せた。続いて、他の魔導師集団も1人ずつオレのプレートの内容を確認する。


「ロングコートチワワのハチ。ふむふむ、ロングコートチワワという種類で、ハチという名前なのだろう。飼い主の住所は、ここの住所に似ているが名称が所々違うな。生まれ年は……魔界歴2019年っ? 今より二百五十年も未来じゃないかっ」

「おおっ! 神よ、この犬はやはり神が遣わした聖なる獣なのでしょうか?」

「しかし、よくよく見ると本当に聖なる獣テチチに似ているな。この子犬が城にいれば、預言者どもの考えも変わるかもしれぬぞ」


「きゃうんっっ(二百五十年。やっぱりあの本の時代に来ちゃったのか)」


 やや興奮気味に、神の使いだとか預言者の考えが変わるだとか、意見を交換し合う黒フード達。過去に飛ばされてきたことに気づき、動揺し始めるオレ。


「どうします、ブーケ姫様? 他所の儀式場で行われた聖なる獣を呼ぶ儀式は、すでに失敗に終わったと思われております。今回の儀式は、あくまでも姫様の飼い犬であるパピリンを呼ぶためのものでした。まさか、パピリン用の呪文が未来に届いてしまうとは」

「ふーむ。もしかすると、『魔王城にいる犬を呼び出す』という魔法の効力が未来まで届いてしまったのかも知れません。それに『姫の飼い犬』という条件も、未来のこの犬に当てはまっている可能性も」


 本来の召喚魔法をかけるターゲットの犬とオレの情報が被ってしまったといううことらしい。共通点は、姫のペットで魔王城在住ということだろうか。


「二百五十年後に魔王城が健在だという情報だけでも、朗報だと思いますが。その情報を伝えるためだけにこの犬が遣わされたのだとしたら、あまりにも可哀想になってしまいますなぁ」

「星が直線に並ぶ時に、時間を超える魔法がかかりやすいと聞きます。今年は天体の動きが激しく、儀式は数回挑戦出来るはずです。我々も未来の飼い主のために責任をもって、元の時代に帰れるように尽力していきましょう」

「問題は、どこでこの子犬を育てるかですね」


 一応、責任を感じてくれているのか、元の時代に戻すための儀式を決行してくれるという。星が直線に並ぶ機会が年に何回くらいあるのか知らないが、口振りからするとそれ程先ではなさそうだ。


「この子犬の飼い主の名前は、ブルーベルか。もしかすると、二百五十年後の我が魔王一族の女性の名前なのかも知れないわね。分かったわ! この子犬は元の時代に戻れるまでの間、この私ブーケの使い魔候補として引き取ります。期間限定の飼い主だけど、よろしくね、ハチ」

「く、くいーん!」


 迷い犬であるオレを怖がらせないようにするためか、ニッコリと微笑んで頭を撫でてくれるブーケ姫。そう……現代でもなお、伝説の人物としてよく話題に上がるあのブーケ姫本人だ。


 ひょんなことからチワワのオレは、時間を超えて遥か二百五十年前の魔王城にタイムワープしてしまった。そして、魔界を救ったとされる伝説のブーケ姫に一時的とはいえ飼われることになってしまったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ