転生しても宝石に愛されて幸せです
初投稿です!
表参道の一角にある某一流ブランド。街行く人が足を止める。店に入ればショウウィンドウに並ぶ美しいジュエリーに引き込まれる。
「いらっしゃいませ」
ここが私の働いている店だ。外装はモノトーンでまとめられたお洒落な造りになっていて内装はシンプルで商品が見やすいように、工夫されている。なかなか難しい商売だが、ジュエリーには相当な付加価値がついているので、一つ売れただけでも利益が出る。その利益を出すために私たちは毎日お客様と向き合い接する。
わたしが働いているブランドは数あるジュエリーブランドの中でも特に有名でよく売れる。若い方からご年配の方までそれぞれに合ったデザインのジュエリーが人気を呼んでいる。さらに使われている宝石の品質も良く、私も目が眩むほどに美しい品ばかりだ。それらをほぼ毎日見ていられる私は最高に幸せ者だと思う。
私は宝石のまち、甲府の宝石研磨職人の両親の間に生まれた。両親は私を大切に育ててくれた。なかなか仕事場に近づかせてくれないのだが、ごくたまに工房の中に入れさせてくれることがあった。まだ輝いていない原石を巧みな技術でカットする様を見たその時五歳の私はとても感動した。宝石に興味を持った私は小さいながらも図鑑を常に持ち歩き、父の書庫から読めそうな本を探しては読むようになった。最初は驚いていた両親も、少しずつ宝石について教えてくれて、十歳になったころには英才教育以上のレベルまでになっていた。宝石とともに育ったといっても過言ではない環境で生活した私は、この知識を生かしたいと思い上京して就職しようと思った。
それから数年経ち、ジュエリーブランドに入社することができた。先輩に仕事を教えてもらいながら一生懸命働き、ジュエリーコーディネーター1級を取得でき、高度な知識を持ち、かつ豊富な経験と見識で優秀な人材を育成したジュエリー界の天才と評される様になった。さすがに天才は言い過ぎだと思うけれど、努力は子供のころから沢山してきた。認められたのかなと思うととても嬉しかった。
(本当に毎日が楽しいなぁ。先輩は頼りがいがあって、頼りにしてくれて良い関係を築けているし、後輩ちゃんはしっかり私についてきてくれる。才能が次々と開花する瞬間を見ることがこの店で働いてよかったと思える一つでもあるし…私の前から巣立っていく後輩ちゃん!私は嬉しいよ!)
最近、物思いにふける日々を送っている気がする。働きすぎてどうかしちゃったのだろうか…私ももう四十代に近い三十八歳。おばちゃんになってしまう。毎日スキンケアをしても睡眠をとっても心配事は増えるばかり。隠すような濃いメイクはしたくない。恋愛をしようっていう気がなければ結婚願望がないわけでもない。だがそのことよりも仕事が大事だと思ってしまう。
(いいよ、いいよ。私は仕事に生きてやる!宝石を愛し宝石に愛された女!それが私だ!)
その日の営業が終わり、頭がぼんやりしていた。階段を下りようとしたのだが、最初の一段目を踏み外してしまった。驚きのあまり声を出すこともできず、体を打ちながら階段から落ちていく。最後まで勢いよく落ちた私はしまいにはショウウィンドウの角に頭を強くぶつけてしまった。数名の人に話しかけられている気がする。聞こえないが心配してくれているのだろう。手を握られているのだろうか。なぜか涙が出てきた。体の感覚も視力だってもう何も分からない。そのまま私は気を失った。
とても心地いい。程よい風、丁度よい気温。申し分ないふわふわの布団?………布団?
ハッと目が覚めた私は勢いよく起き上がった。
(まっぶっし!それよりここはどこなの?知らない場所だし。私、そういえば階段から落ちたんだっけ。頭もぶつけてたし。ここは病院かな?違うね。)
冷静に考えた結果、ここは地球じゃないことが分かった。
(私はあの時死んじゃったのね。呆気ないな。死ぬには早い。早すぎだよ。まだ生きてたかったよ)
急に寂しさが込み上げ泣きそうになった。
『もしもし~?あのー聞こえてますか~?気が付いてくださーい?』
男の子の声が聞こえた。その方向を向くと小さな妖精?みたいな子が宙を浮かびながら私に話しかける。たくさん考え事をしていたから気が付かなかった。
「あなたは?私、やっぱり死んでるんですかね?」
『妖精だよ~名前は無いんだ~。ここは天界。そうだよ~。人は死んだらこの世界にくるんだ~。だから君は死んじゃったんだよ~。まだ泣かないで~!僕ね、神様たちに君を連れてくるように言われてるの。だから案内するね~。大丈夫だよ~。神様たちはっとっても優しいんだ~』
(今は妖精について行ってみよう。まだよく分からないけれどここにずっといても何も変わらないし、そうと決まれば行こう!)
体かとっても軽い。歩いているようで飛んでいるみたい。不思議な感覚に面白さが湧き出る位、私は落ち着きを取り戻せていた。
少し歩くと、ここの風景に似合わない大きな豪華な扉が出現した。
「でかっ!こんなに重そうな扉、開くの?」
妖精が微笑んで、扉に手をかざした。すると、扉が開いた。それと同時にまばゆい光が差し込んできて、でも一歩、また一歩と私は引き込まれるように光に向かって進んでいった。
扉の向こうには五人の神様らしき人たちがいた。
『お待たせしました~無事ご案内出来ました~。神様、それでは僕は戻りますね~』
そういうと妖精はどこかへ戻ろうとしたのだが、一人の神が呼び止めた。
『今日はおまえにも話があるんだよ。まだここにいてくれ』
妖精は不思議そうに私のそばまできて、神たちの前に体を向けた。
「あのー。私はこれからどうなってしまうのでしょうか」
『まあまあっ!ずっと心配だったわよねっ?ひとまずここは凄く安全な場所だから安心してちょうだい?』
とても優しそうなお姉さんが頭を撫でてくれた。
『ひとまず自己紹介をするよ。僕は知性神クレフ。ここの世界の天界を取り仕切る最高神でもあるんだ。若い見た目だけれど、結構えらいんだよ?』
『次はワシじゃな。ワシは魔法神ルバートじゃ。宜しくの』
『俺は武神アニマートだ』
『私は生命神コンモートよっ!』
『私は芸術神カプリチオーソ』
五人の神たちの自己紹介が終わり、私も挨拶をしようと思ったら、分厚い辞典を持ったクレフが開きながら言った。
『君は自己紹介をしなくても大丈夫だよ。地球の神たちに君のことが書かれてある分厚い資料を預かっているからね』
「はぁ」
声にならない声が出てしまった。
『君はとても地球の神に愛されていたようだね。普通だったらこの三分の一くらいの資料で収まるのに。それに君には地球の神からの加護が六つもある。地球の神は丁度六人だから全員に見守られていたんだね』
『きっと幸せな生活ができたんじゃないのっ?』
「そうですね。私は毎日が幸せでした。宝石に囲まれて…地球は良いところだったなぁ」
『君はね、地球の神が目を離したすきに死んでしまったんだ。余りにも想定外の死だったから、このまま亡きものとして放っておけなかった。一度死んでしまった魂は同じ世界では生きられない。だから君の魂を地球ではない異世界の僕たちのところへ送ったんだ。本当に愛されてるね』
「神様たちに迷惑かけっぱなしだったんですね。でも、早く死んだって、幸せだったなと思えるのは見守ってくださったからなんですね…」
地球での日々は本当に輝いていた。もう少し生きたかったけれど、神様には感謝でいっぱいだ。
『まったく泣くなよなぁ。これからが本番の話だ』
『そうですよ。私も早く次の話に進んだほうがいいと思います。ハンカチお貸しますね』
そう言って私を慰めてくれる。
『それではワシから話すぞ。お主は地球より魂が送られ異世界に来た。つまりこっちの異世界でもう一度生きることができる。転生者としてな。お主の魂はすべての宝石に愛されていてワシらが見とれるほど美しい。その気になれば神にだってなれるのじゃ。どうする?もう一度生きるか?神になるか?』
『私たちはあなたのことを気に入ったわっ!どちらを選ぼうが私たちは力を貸すわよっ!』
「私は…私はもう一度生きたい!」
『分かった。僕たちの世界へようこそ。まず君に加護を捧げるよ』
そうクレフが言うと私の周りに五人が集まって呪文を唱え始めた。
『これで僕たちの加護が君についたよ。僕たちの世界へ行っても安心してね。地球の神たちの加護も君の記憶も持って行ったほうがいいね。』
『そうだな。君が三歳になったら記憶が戻るようにしておこう。俺たちの世界は気に入ると思うぜ。自由に楽しんでもらって構わない』
『あの~。僕は?残れといったのは神様でしょう?』
『忘れてたわっ!あなたにはこの子の付き人としてそばにいてもらうのよっ』
『あなたは優秀な神候補の妖精。きっとあなたならこの子を守れるし、助けてあげられる。頑張れるかしら?』
『分かりました~!僕でよろしければこの子を助けましょう~!選ばれたのだから精一杯頑張りますね~』
そういって私に穏やかな笑顔を向けた。
『そろそろ向こうの世界に行く時がくる。分からないことがあったら、この妖精を頼るといい。ワシらともまた会える。元気でな』
「了解です。何もかもお世話になりました。行ってきます!」
『『『『『いってらっしゃい!』』』』』
扉があく時よりもさらにまぶしい光が私と妖精の身を包んだ。
―私が去ったあと―
『あの子は本当に宝石を愛してるし、宝石に愛されているわねっ!』
『僕たちの世界も気に入ってくれること間違いなしだね。あの子の魂はどの夫婦のもとへたどり着くのか楽しみだよ』
『俺もそう思った。俺たちはあの子の親を選ぶことはできねぇ。幸せな家庭でしっかり武術を鍛えてほしいぜ。しっかし地球の神は過保護だよなぁ。加護レベルMAXって驚いたよ』
『それほどまでにあの子は神に近い存在じゃ。それに愛されてとうぜんなのじゃ!』
『私たちも加護MAXをあの子に捧げたし安心です。成長するのが楽しみですね!』
『さあ、僕たちは仕事に戻ろう。それぞれの科の子たちに支持を出して!』
『はーい』
読んでくださりありがとうございました。
連載しようか迷っている作品です。(連載始めました)
今後もよろしくお願いします。