はじまり
いつからだろうか、何となく時間が過ぎていくことがこんなにも苦しくなったのは…
大学から一人暮らしを始めた部屋に帰り、ただ時間が過ぎる、何をするわけでもないスマホをいじりながらSNSを確認する。思い返せば、浪人したすえ地方の国立大学に合格、自分ならできると思っていたが第一希望など夢のまた夢、その大学もやめ、今は都内の二流大学へ。友達もいるし、充実してるといえなくもない学生生活。しかし、一人でいると襲ってくる、なんだかわからないつらさや悲しみ。そんなことを感じつつ、買い物をするために部屋を出た。自転車をこぎながら考える。自分がしたいことを、できることを。ただ刺激が欲しかったのかもしれない、何か新しいことがしたかったのかもしれない。
踏切に近づき鳴り響く警告音「カーン、カーン...」
何が起きたかはわからない、ただ踏切の警告音が今も頭の中で鳴り響く。しかし、何も見えないのだ。やがて警告音は消え、誰かが話しかけてくる。突然目の前がひかり、若めの男が現れる。彼は、僕の頭の中に話しかけてきた。
「こんにちわ、私の名前はブラン。突然のことですみませんがあなたはあなたが住んでいた世界とは別の世界から召喚されます。」
突然の状況に頭が追い付かない、たしかに現状に思い悩んでいたし、新しい何かを探していたがこれはおかしい。
「えっと、何でですか?まずあなたは誰?神?どうして?」
突然のことに疑問が止まらない。ブランは答える
「まず私はあなたの世界でいう神という存在とは違います。世界を決定づけることや運命の采配をしたりするわけではないですしね。簡単に言うなら事務処理の人といったところでしょうか笑」
疑問が一切解決されないし、頭はさらに追いつかない。ブランは続ける
「あなたがほかの世界、あえて言い換えるならば異世界に召喚されるかの理由ですが、事故です。」
こいつの言ってることが全く分からない。
「どういうことですか?」
ブランが答える。
「あなたは召喚されしもの達とともに召喚されてしまったのです。私が警告音を出して近づかせないようにしたのに。」
それってもしかして踏切...
「それってどんな音?」
「聞こえませんでした?カーン、カーン...って?」
ブランの答えになぜか頭が一気にクールダウンする。
「それで、俺はどうなるの?それとどうしておまえは事務処理の人なんだよ」
ぶらんはクスッと笑い答えた。
「まずあなたは他の世界に行くことは確定です。」
頭が冷えたからかあまり驚きはない、それに少し期待すらした。そしてブランは続けてこう言った。
「事務処理というのは、両世界の不都合を整える処理をすることです。当たり前ですが世界から突如人が消えれば少なからず騒ぎになるでしょう。そして、その世界から部室がなくなるというのは世界の法則性を変化させうることにすらなります。なのでその処理をします。」
なるほど確かにと納得してしまった。残される家族や友人たちのことを考えれば、なにかしら、事故でもなんでも理由が必要になるのだろうと感じた。そしてブランに問いかける。
「それで、僕はどうしていなくなったことにするの?」
ブランは答える。
「簡単なことです。世界にそもそもあなたがいなかったことにします。」
衝撃の言葉だった。自分のこれまでが無になるとは思ってもみなかった。淡々と話すこいつに怒りすら覚える。
「ふざけるなよ、たしかに新しい何かを欲していたがこれまでを0にしていいなんて願ってないぞ。淡々としゃべりやがって、警告が甘いお前の責任もあるだろ、どうにかしろよ。」
ブランはやはり淡々と返す。
「もう変えられないことなのです。あなたを気の毒だとは思います。しかし、願うから叶うことなんてありません。神の采配? 神は誰かの願いを聞いて運命を決めることはありません。すべてが必然なのです。願いだけでなく努力や環境が願いをかなえるのです。これから先のためにもよく覚えておくことを勧めます。」
もはやどうすることもできない。今になって思い出ばかりがあふれ出る。そこそこ幸せな家庭に生まれ、姉とは仲が良いとは言えなかったが今となってはすべてがいい思い出な気さえする。考えはまとまらないがどこかで、家族に忘れられるつらさはあるが家族はつらさを感じないで済むとも考えられ何となく納得することができてきた。ブランに聞く。
「僕はこれからどうなるんだ?」
ブランは、優しくこちらに微笑みかけ答える。
「知りません笑」
「...」
「いや、私は世界と世界の間の存在です。世界を渡る前もわたった後も何かすることはできません。あなたがここにいる時だけ、両世界の不都合を解消するのが仕事なので。ただ、あなたが行く世界はあなたを巻き込んだ人たちと同じ世界に飛ばされます。彼らは勇者のようです。それぐらいしかわかりません。」
ブランは何も助けを出してくれるわけでもなさそうだし、どんな世界に行くのかもわからないということにここでやっと気づく。情報が欲しい。異世界転生するなら特殊な能力も、こっちはただの大学生だぞ。一つぐらいないと召喚、即死亡もあり得る。ブランに交渉する。
「異世界に行くなら、何か能力とかもらえるの? 事故で召喚されるのに何もないってことはないでしょ?」
「ありませんよ。」
最悪だ。もう即死亡エンドが見えてきた。
「でも、異世界に召喚されると基本的にはその世界での神が優遇してくれるはずですよ。能力が与えられるかはわかりませんけど。」
そのブランの言葉に一縷の望みが出てきた。
「さぁ、そろそろ時間です。異世界召喚が終わるみたいです。あなたの新しい世界での活躍を願っていますよ。」
真剣な顔で言うブランが逆におかしく思えた。元の世界から自分が消えることに対していろいろ考えてしまうが、答えは出ない。とりあえず新しい何かを始めることにしよう