第三十二話 星の光があまりにも眩しすぎて瞼の裏に残像として残った
朝方、ゆらゆらと揺れるボートが心地よく、重い瞼を開けることができずにいた。傍に感じるのはいつも居ない温もり。ルーノだった。
そっか…昨日一緒に寝たんだっけ。なんて思い出しながらその温もりに包まれて夢と現実の狭間をウロウロとしていた。暖かな温もりから感じた光が、瞼の奥の闇を薙ぎ払った。微かに見える景色。いつの日か見た光景。確かこれは…うさぎのぬいぐるみを大事にしていた…あの子と同じ…。
背中に回されたルーノの手の温もりから感じたのは、暖かな月の光。あの時のように星が流れ落ちることはないけれど、星、というにはあまりにも各々の光が強すぎて眩しすぎるほどだった。
星は記憶、大切な憶い出。
”ルーナ”
ルーノに呼ばれてふと後ろを振り返った。だけど、彼は私を呼んだわけじゃなかった。
”もうその名前で呼ばないで!!”
”ルーナ…君は…”
“ルーノ!!貴方にはわからないでしょう!!?もう放っておいて!!!!”
亀裂の入る音、ガラスが割れた瞬間。黒い髪に黒い瞳、優しそうな面影には似合わない冷たい瞳。彼女が背負っている黒いマントは、薄い布には合わない重たい重たい枷だった。
”【黒の神官】様とは運命が違うのよ”
あまりにも酷く冷たく述べられた彼女の言葉は、ルーノの温かい光に影を差した。壊れて行く音はあまりにも歪。それでいて複雑な不協和音を暗闇に奏でる。
彼女もルーナ…?じゃあ、私は…?
”ルーナ”
後ろからまた名前を呼ばれた。振り返ると呼ばれた先にもルーノがいた。だが、私なんて見てもいなかった。
”…私にこんな力なければ、よかったのかなぁ”
”そんなことない。俺はいつでも君の味方だ”
”私ね、時々夢を見るの”
”夢…?”
黒い瞳に黒い髪、先ほどの彼女とは違うのは、幼い、というところだろうか。まだ10代にも満たない、幼い子供。穢れを知らない無垢な幼子だ。
”その夢はね…”
以前見たような景色ではない。どの記憶も眩いほどに強い憶い出なのに今にも割れて壊れてしまいそうなほど不安定な感情。月光の光を浴びているのは?月光の陰にいるのは…?
「ルーナ。大丈夫か?」
揺り起こされて目を覚ました。今度こそ彼は私のことを呼んだ。そのことに安堵するも、身体中が冷や汗をかいているのを見ると、どうやら随分魘されていたようだ。汗が気持ち悪くてため息をついた。
「随分、苦しそうだったから…」
「…大丈夫。ちょっと夢見が悪かっただけ」
背中を擦るルーノに甘えて彼にひっついた。安心する匂いがする。この世界に来てから毎日近くに行くと香る優しい匂いだ。…変態じゃないからね!!!決してわざわざ嗅ぎにはいってないから!!
…ともあれ、先ほど見た二人の声は、以前何処かで聞いたことがあるような気がした懐かしい声色。聞こえていたのは彼の過去?見えていたのは過去の記憶?二人のルーナは一体…。私は…。
「水を持ってこようか。ちょっと待っていて」
彼が私から離れてベッドから出て行ってしまった。続いて聞こえる扉の開閉音、遠ざかる彼の足音。私は離れて行くルーノに少し淋しさを感じたが、頭を整理するのに丁度いいと、今度は安堵のため息を吐いた。
この世界に来てから何度も見る夢、幾つかは何故か妙に生々しいほど現実的で。
五感を感じる…というのはよくある話だ。明晰夢とも言える。そんなことだけであれば大して興味などは示さないのだ。
じゃあ、違うのは何…?普通の夢じゃないと言い切れる自信は…?
…それは、第六感が騒ぐから…?
なんて、不思議なことを考えてちょっと笑えて来てしまった。汗はとっくに引いて、ルーノがいない分少し肌寒い。さっさと着替えてしまうか、それともシャワーを浴びてしまおうか。
もしも、先ほど見たのが夢ではなく過去の記憶であれば。ウサギのぬいぐるみを抱えていた子のように、人の過去の記憶に触れることができる能力が私にあるとしたら。先ほど見たのはルーノの記憶、時折見たのは誰かの憶い出。
あの時のように人を救うことは不可能に近いかもしれない。だけども…。
何かを隠しているルーノのことをこっそり知るチャンスなのでは…?
いや、彼はいずれ話そうとしてくれているのだ。それを待つべきだろう。…いずれ、私がこの世界に来た理由も、彼が親切にしてくれる理由もわかるだろう。ルーノに使うべきじゃない。でも、このまま放って置くのではなく、コントロールすべき力であることもわかる。
もしかして、これが古代魔法【ルーン】…?
人の記憶を垣間見ることができる異形の力…だとすれば、命が狙われる理由がわからないわけじゃない…。私だって、人の記憶を見ることができる人が他人にいたとしたら、不気味だもの。
それが自分だから受け止められるだけ。
でも、どうして記憶を見ることができるだけで命を狙われるのか。命を狙われるほどの記憶を持つ人間がいるということなのだろうか。それとも、今私が使っているのはほんの序の口程度の力で、もっと怖れる力があるとしたら…?
眠たい頭で、重たい瞼を必死に開いて頭をフル回転させてみた。案の定、簡単に回るわけがなくてくるくると目が回った。
近づく足音、聞こえたドアの開閉音。
「ルーナ、水を持ってきたよ」
「ありがとう…」
「昨日は新しい場所に来てしんどかっただろう。まだ水の中にいるから、もうしばらくゆっくり休んでて」
「うん」
ルーノは、私がこの力を使って勝手に記憶を見ようだなんて酷いことを考えたことを知らないのだ。…実際、先ほど意図せずに見てしまったかもしれないけれど…。知らなかったとしても、相変わらず優しくしてくれるルーノの行動が良心を傷ませた。
知りたい。彼の過去を。
聞きたい。私の使命を。
知りたい。この世界の全てを。
聞きたい。ルーナの意味を。
その思考はぐるぐると回って、やがて心の奥へすぽりと収まる。それは簡単に表に出ることはない。だが、やがて心の底に根を張り、大きな欲望へと変わる。私はその種の成長を少しでも止めなければいけないのだ。
…今の私が「平和な日々」を淡々と暮らせるように。
持ってきてくれた水を飲んで一息ついた。再びルーノが私の背を擦ったが、今度は彼の記憶を見なかった。そのことに安堵するも、期待が外れた気持ちが罪悪感を増やした。
早く感情を取り戻して【ルーン】を使いこなしたい。そして、せめてこの力をコントロールできれば…黄の街は喜びの街。私が欲している感情の一つなのかもしれない。喜びとはなんだろうか。喜ぶ、とはどういうことなのだろうか。具体的に考えたことはない。
どうやって感情を取り戻すのかも、音楽隊に入ってどうするのかも、不安ばかりだ。
悪魔に好かれているという事実もある。
ディアンの言う通り、いずれかは色の名前を持つ【コローロ】達にも会ったほうがいいだろう。
悪魔と感情の欠落、そして古代魔法【ルーン】が線となって繋がるかどうかはわからない。何年もかけて取り組む問題になるのかもしれない。
そもそも、私は命を狙われているのだから、この世界にいる以上、街を飛び回っていき続けなければいけないのかもしれない。
その旅の中で【二人】のルーナのことを知ることがあるのだろうか。
…二人の【ルーナ】は一体誰なのか…。
ついこの間まで、読書をするのがとても難しい状態でした。
ストレスが大きくなりすぎると、読書ができなくなってしまうのです。
おかげで本を持つと手が震え、TwitterやLINEのお返事も苦痛で…。
最近、少し落ち着き、読書を始めましたが、1ページ読むのが精一杯です。
年に合わない分厚い本を何度も何度も読み返す子供だったのですが、精神的バランスってとっても不思議なもので、そういうこともできなくなってしまうんですよね(´・ω・`)
ですので、Twitterのほうで繋がっていただいてる方や見かけた方はRTさせて応援させていただいてますが、内容を読むのがとても辛い状況となっています。RTで拡散することがせめてものお手伝いです。
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