第二十六話 彼女の中に眠る黒と白
更新遅れてすみませんでした
未だ、慌ただしく過ごす公爵家の人達に一通り挨拶し終えた後、私達は公爵家の城を出た。総出でお見送りをすると言っていたのだが、忙しいのだから、と断った。
外に出ると、最初に見たあの薄気味悪い城の外装が見えたが、最初に見た時よりかは、だいぶん優しげに見える。
きっとそれも経った二日間だが、過ごした結果だろう。
「うぅ、さぶっ…」
「…ここは海が近いからな…」
「…海?この近くに?」
「あぁ」
ルーノが馬車を待ちながらそう答えた。そうか、ここはこの街の最南端。南にある黒の街の最南端は国の端っこ。
この国は海で囲まれている。つまりはこの国は一つの島だ、ということだが、屋敷は城壁で囲まれているため、一切ここからは見えない。城壁の外に出たら海が見れるだろうか。
「寒中水泳する人とかいるの?」
「それは馬鹿だろう」
「まぁ、そっか」
我ながら馬鹿な質問をしたと思ったが、海があるのに潜れないなんてつまらないな、なんて思ってしまう。どうせなら浜辺で歩いてみたかった。
「海には期待しない方がいい」
「…どうして…?」
「俺達と海は接触しないようにされている」
「海と?私達が?」
「そう」
煩い音が聞こえてきた。馬車が来る音だろうか。しんしんと積もる雪の中、馬車が走れるのは車輪にも魔石の力が込められているからだそう。
「愁いの海、だからな」
「…愁いの、海」
そういえば、確かコローロ達がこの世界に祝福として贈った物の中にあったな。
黄のコローロは悦楽の並木を
↓
赤のコローロは憤怒の砂漠を
↓
緑のコローロは欲望の森を
↓
紫のコローロ愛憎の花畑を
↓
青のコローロは愁いの海を。
↓
↓
黒のコローロは嘆きの雪を。
つまり、そのうちの一つである愁いの海とは、この島の全てを囲う海のことなのか。
「愁い…かぁ」
目の前で止まった馬車。馬車の運転をしている御者が扉を開けた。ルーノは先に私を馬車に入るように促すと、私は御者の手を借りて乗り込んだ。続いてルーノも入ってくる。
行きと同じ馬車のように見えるが、行きはあんなにも狭苦しく感じたのに、どこか広々としている。ルーノは行きと違い、私の向かいに座った。
「どうして、愁いの海なんて言われているの?」
「愁い、不安や哀しみ…それが青の街だ」
「…青の街…」
「海にはいろんな人間の哀しみが眠っている」
「…哀しみが、眠っている」
ちょっとよくわからないが、つまりは私の知っている海とは訳が違う、ということだろう。
それは海を見たらわかるのか、海を見なくてもわかるものなのか。
「馬車から見える?」
「いや、微妙だな」
「そっかぁ」
海に触れるのがだめなら、近くで眺めるだけでも楽しそうなのに。
「海と陸を隔てる柵がある」
「…柵?」
「そう」
「なんで?」
「さぁ。いつの間にかあったんだよ」
「…いつの間にか…」
「その柵はどこまで続いてるの?」
「青の街まで」
それはつまり、国中をぐるりと、海と隔てるように囲ってあるということのなのか。
じゃあ、誰もこの国から出ることができないんじゃ…?
「誰も海の外には出られない」
「なんで…」
反論しようとするとガタガタと馬車が揺れ始めた。慌てて備え付けのクッションで身を固め、自分の体を自分で衛る。行きは隣に来て助けてくれたのに、何故、今回は向かいに座ったのだ!なんてルーノに怒りも覚えたが、二回目は慣れろ、ということなのか。
これじゃあ馬車の外を見て少しだけでも海を拝もう、だなんて甘い考えは無理そうだ。
………この靄は、なんだろう。
いや、靄というべきではない、穴だ。心の中にできた穴。
ぽっかりと空いた穴…それは、まさに何かを喪った穴。
何を?一体…いや、またこんな時に考え事なんてしたら体調を悪くさせそうだ。
この世界に来てから私は、大きく変わることが多かったと思う。
悩んでいた鬱病は嘘のように消えた。気怠かった朝が来ることはなくなった。
前向きにいろんなことに取り組むようにしていたが、それにも慣れてしまったし、だからっていい子でいようだなんて敢えて思うことも減った。
…まさに、彼と出逢ってから人生が変わったともいえる。
起きることさえもできなかった日々が、何かを食べることさえ拒みたい毎日が、眠ることさえできなくなった夜が。何もかもなくなった。
この一か月強。私は、まるで新しい体を貰ったかのように過ごしてきた。
心は一緒だ。私の病は心だ。体が生まれ変わったって鬱病が簡単に治ることはないだろう。
では、環境の変化が私を助けたのか、と思ったが、慣れない環境の中で慣れない生活を強いられて治っているのは奇跡的だとも言えそうだ。
動いたことで深い眠りを手に入れ、睡眠不足がなくなったからか?
それともこの寒い気候が私には合っていたのか?
どちらも正解ではあるだろう。だが、大きく私を変えた理由は彼だ。
彼は私を必ず肯定してくれる。辛い時は傍にいてくれる。
彼は私に秘密を持っているし、私は彼に信頼されているのかはわからない。
だが、不思議と…彼は同情ではなく、共感して答えてくれるのだ。
そこには【家族】や【友人】などのカテゴリーにはない、もっともっと深い場所で繋がってられる安心感。私の言葉を必ず肯定してくれる優しさ。そして、自然体でいてくれることだ。
彼に鬱病だと伝えたことはない。だが、恐らく彼は知っていただろう。
しかし、彼は腫れもののように扱うこともなかった。かといって、私のことを放置することもない。
私の答えが正しければ肯定するし、間違っていれば正しい答えを教えてくれる。
彼も人間だからミスをする。今回、ここに来ることへの情報連絡ができてなかったことも問題点だったが、そのミスを誰かの責任にしたわけじゃなかった。
私が無理しないように気を使うこともあれば、私が気を使うと素直に喜んでくれる。
私の話に耳を傾けてくれるし、疑問にはきちんと答えてくれる。
わからなくても、彼なりの答えを教えてくれる。
それは彼への絶対的な信頼感と安心感になり、変な気遣いや相手の反応に臆することもなく過ごせる第一歩となった。
私はそこで、自分のリズムを取り戻せたのだ。
同じ時間に起き、同じ時間に仕事に出て、同じ時間に寝る。
やることは毎日同じこと。彼が深く考えて出した計画じゃなくても、私にとってはその同じ時間の間でこの世界に慣れることも、新しいことに深く考えすぎることもなかった。
私は私のリズムで、私の歩き方で、一歩一歩確実に。
彼に沢山甘えたし、彼は沢山甘やかしてくれた。
私ばかり甘えてていいのかと考えてしまうほどだったが、彼はいつもとなりで笑っていてくれた。
時折不安なこともある。だが、彼と一緒ならばどこでもやっていける。そんな気がするのだ。
そう、なのに、私はあまりにも突然な事柄に成す術もなく見ていることしかできなかった。
「ゴホッゴホッ」
「…ルーノ!?」
ガタガタと揺れる馬車、それに合わせて彼は重い咳をした。慌てて隠そうとしているが、彼の掌を染める真っ赤な血…。
「ルーノ、どうして!」
「ガハッ」
「ルーノ、ねぇ、ルーノ」
こんな時はどうしたらいいんだ。そうだ。まずは馬車を止めよう。
それから公爵家に急いで戻るのだ。もしかしたら誰かが助けてくれるかもしれない。
「誰か…!!!」
私が叫ぼうとしたところをルーノが止めた。片方の手は苦しそうに胸を掴んでいた。
「大丈夫、だから」
一体、全体、何が彼の身に起きているのだ。
彼は生きていられるのか?無事でいられるのか?
ふと、彼の手の甲を見た。黒い…鱗…?…これは、一体…。
「少ししたら、落ち着くから」
もしや、とふと思った。ビターが気が付いた絨毯の血は、ルーノのものだったのだ。
それも、何故か公爵家に来てから発症したもの。
毒を盛られていたのか?いや、それなら同じものを食べていた私にも影響があるはず。
では何か傷を負う事件があったのか?
「ルーノ。私に何ができ…」
思わぬ時に大きく馬車が揺れて壁に頭を打ち付けた。
「ルーナ!…ガハッ…ゴホッ、ゴホッ」
ぐらりと揺らぐ世界。私は暗闇の中に堕ちて行った。
暗い暗い世界の中、私はただただそこに溺れるように堕ちて行く。
なんとか足掻いてみようともがいたが、ただ息苦しさだけが体を包み込む。
だが、堕ちて行く私を二つの声が現世に繋ぎとめた。
“大丈夫。私が護ってあげるわ”
“とっておきの魔法を知っているの”
誰かの声が交わる。何処かで聞いたことのある声色。
幼い少女と、大人になった女の声。
私は二人の声に導かれるように何か言葉を発していた。
自身の体も光で満ち溢れる、優しい、優しい、言葉。
「ルーナ…」
彼が私の名前を呼んでハッとした。
私、今、何をしていた…?
茫然としている私に彼は揺れる馬車だということも忘れて私を抱きしめた。思わずその衝動で彼に体重を預けるように彼のほうへともたれかかった。
突然のことに私は驚愕して慌てるも、彼は力強く抱きしめて離れない。
「ルーノ…?咳は!?あの、身体は」
オロオロとしている私に何も返事をくれないが、彼が咳をしないところを見ると落ち着いた様子。私は安堵のため息をつくと、自由である手で彼の頭に手を伸ばした。
強い、強い彼の体が、温かくて安堵した。
「ルーナ」
「ん?」
「この街を、出よう」
「…え?」
彼の言葉に驚き以外、何も出なかった。一体、何故。
「…大丈夫。絶対に護るから」
「ルーノ…?」
彼は大事な人を喪ったことがある。
最近、すこぶる調子が悪く、寝てばかりの生活を送っています。
四月から新学期なのに大丈夫か私ー!と(笑)
なので、少しずつ更新が遅くなっていて本当にすみません。
どうも、春になって環境の変化に弱っているのか…もしくは、新学期へのストレスですね(笑)
ちなみにルーナ。自分の知らぬうちに周りの自体が急速に変化していってます。
ほとんどをルーナ目線で行っていく予定でしたが、段々と、そういうわけじゃいかなくなり…。
その場合、以前にも出した通り【○○town She(or He) side】で
ルーナじゃないけど女の人目線だよ。男の人目線だよ。
何処の街の人だよ。っていうのは出していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
そして!皆様にお願いがあります。
お時間あるときでかまいません。私の小説の評価、そして感想を頂けないでしょうか。
貰えると本当に嬉し泣きします!お願いします!!
いつもご愛読ありがとうございます!!




