第二十四話 姫は目覚めのキスより空腹で目が覚める派
海が私をその大きな腕で抱く夢を見た。
「…ボーナンマテーノン…」
「ボーナンターゴン、ルーナ。調子が悪そうだね」
「…今、何時…」
「昼の二時。ディアンが来た時にはすっかり眠ってたって言うもんだから、ビックリしたよ」
「ディアンが…?…あぁ」
そうだ。ルーノがご飯を取りに行ってくれている間、ディアンが様子を見に来てくれるはずだったのに、その前に私は爆睡してしまったのだ。
未だかつてないほどの激しい眠気がまだ襲ってくるが、これ以上眠るのはキツイ。
「お腹空いたぁ」
「だと思って、ちゃんと食べれる物用意してるから」
「…ありがとう、ルーノ」
「どういたしまして」
私は寝ぼけ眼をこすりながらベッドから出ると大きな欠伸をして、部屋に設置されていた机のほうへと向かった。フラフラとしているが、風の辛さはもうない。ぐっすり眠ったおかげで治ったようだ。
「思ってたより調子いいかも…ふぁあ…」
「…だけど、随分眠そうだけど…?」
「なんでだろ……眠い…」
ルーノが考え込むように首を傾げた。しかし、考えるよりも先に空腹を満たすことのほうが今の私にとってよっぽど大事なことだ。眠たさはまるで睡眠導入剤を飲んだ後のようだが、あまりにもお腹が空いて寝てられないし、私はご飯が食べたい!!!
「いただきます」
病人用なのか、チキンスープのようだ。一口スープを飲んでみる。あれ、まだ出来立てなのかホカホカで美味しい。
塩と胡椒でシンプルに味付けされたものだが、鳥の出汁がよくでている。優しい味付けとなっている野菜たちが一口サイズに切られていて食べやすい。シンプルで実に美味しい。
日本で食べる病食とはまた違う味わいになっているのでとても面白い…のだが、こういう時も白米を食べられないことが少し淋しいところだ。
仕方がないとわかっていても、戻らないと決めていても、白米が恋しい。
「美味しい」
「よかった」
私が笑みを浮かべるとルーノが嬉しそうに笑った。…ということは。
「ルーノが作ったの?」
「もちろん」
こんなところまで来てルーノがご飯を作るとは…申し訳ないことをしてしまっている…。
「確か、いっぱい死人が出たって言ってたもんね…」
「あぁ、おかげで全員分の食事を作るのを手伝わされた」
「ありゃ」
「ルーナが起きる数十分前にやっとディアンと交代できたってわけ」
「ひえ、そんな時間かかる?」
「公爵家だからね。こんな時でも下手に手を抜けないって騒いでたよ。猫の手も借りたいほどにね」
「私も元気だったら手伝えただろうに…」
「目分量で料理作ってる奴に手伝えるのか?」
「料理はフィーリングだよフィーリング!感覚が一番大事!」
「とかいってほとんど料理作ってないくせに」
「なにを!!もう作ってやらないからね!」
「それだけ反論できたら目が覚めたろ。ほらちゃんと食べて」
「やだ、ルーノったらお母さんみたい」
べしっとルーノに叩かれた。意外に今日は痛い…疲れ溜まってるのかな…。
「誰がママだ。ちゃんと食べろ」
「はーい」
きっと、この部屋の外を一歩でも出れば大変な騒動になっているのに気付けるのだろうが…生憎、ここの部屋から出ることは目の前の真っ黒黒助が許してくれなさそうなので、彼からいろいろ話を聞くことにしよう。
「今、公爵家の方は…大丈夫なの?」
「…地震の被害は酷くなかったみたいだし、偶然、青の街から来てた軍隊が手伝いをしてくれているらしくて、ルーナが寝ている間にだいぶ騒動は収まった」
「青の街…って、北の?あんな遠いところから?」
「そう」
この国の地形は六つの街が円を描くように並んでいて、真ん中に大きな山がそびえている。
曇天の空の中、私はその山を見ることはなかったが、山を越えて移動する、ということはあまり…いや絶対にないらしい。随分高い山なのか、それとも何か曰く付きの山か…。
ここ、黒の街は南、青の街は北に属する。
つまり、ここに来るまでに緑の街→黄の街を通過するルートか、紫の街を二つ越えて→赤の街を通過するルートのどちらかを通ってきているはずである。
ここから隣の街までどれくらいの日数がかかるのか知らないが、黒の街でも私達の家から、公爵家まで馬車で走ってもかなりの距離があったし、この街だってそれなりに大きいはず。
それと同じくらいの街があるはずだから…と、考えると、簡単にこの街に来れるわけじゃない、ということはわかる。
「なんで青の街の軍隊がこっちに?」
私の問いにルーノは少し考えた様子だったが
「さぁ?」
とだけ答えて自身も食事に集中し始めた。
…青の街…それも軍隊…何故、こんなところにわざわざ来ているのだろう。いや、わざわざ来ざるを得ない事情があった…?
もしかして、この地震が来るのがわかっていたってこと?それともたまたま来ていた時に地震が起きてしまったってこと?なんにせよ、タイミングが妙にピッタリって言うか…。疑ってしまうのも申し訳ないが、なんていうか、絶妙すぎて疑いたくなるほどなのだ。
(いや、別にこれミステリー作品の世界じゃないし…)
今回はラッキーだった、と思えばいいのか。悪いことが起きたわけじゃないし。
「ルーノは…青の街に行ったことはある?」
私の問いにルーノはまた少し考えた。
「…ある。何回かだけど」
「素敵なところ?」
青の街。青、というのだから、とっても素敵な海と空が思い浮かべれるが、実際行ったことがないため想像でしかない。
「…素敵…か、どうかは、いまいちわからないな」
「そっか…」
「…あそこは少し、変わってる」
「…変わってる?」
「あぁ、それ以外だったら何も、特に面白みもなく、ふっつーの街」
「…普通…」
なんて絶妙に想像しにくい感想なんだ。
「なんか、思い出に残ってる景色とかは?」
「ない」
なんでそんなにばっさり切り捨てられるの!?
「ルーノは何しにそこに行ったの?」
大きな疑問になったせいか、思わず聞いてしまった。
すると、彼はまた悩んだ様子で答える。帰って来たのは意外な答え。
「…人に会いに」
「え」
人に…会いに…え、誰に?
「友人が、住んでる」
「友人!!!?!?」
友人!?ルーノが!?…いや、驚くのは失礼…か。ルーノにだって友達くらいいるよね。うん。
でも、ルーノに友人がいるなんて今の今まで一回も聞いたことがない。
弟分のディアンも友人の類に入るだろうが、そう言うのとはまた別の話だろう。
「男?女?」
「男」
「年齢は?」
「…俺と同じくらい。たぶん。細かいことは忘れた」
「どうして、友達に?」
「……ルーナ、そんなに気になるのか?」
うぉっと…思わずツッコまれた。そりゃ物珍しく質問されたら気分悪くなるよね…。
でも、彼に友人が…それも男の友達がいるなんて予想外だった。
一人、ずっと黙々と仕事をしているイメージだったから、余計に。
…でも、確か、ディアンが言ってた。
“兄さんにも大事な人がいて”
と…ルーノにも、恋人か、家族かは知らないが、大事な人がいたってこと。
特段、周りと関わらないように過ごしているわけじゃないルーノ。
職業上、普通の人と接することが少ないだけで、彼もとってもいい人だ。
だから友達がいないイメージになっちゃうだけで、私が彼自身に惹かれるようにまた、その友人も彼の優しさに惹かれたことだろう。そう思うと想像がつくが、また何故そんな遠いところにいるんだその友人は。
…しかしルーノの友人は…きっと彼がこの生活になる前にできた友達。
…だから、彼の大事な人って言うのも、私が知らない彼の過去も、知っているかもしれない。
「いつか会わせてやる」
「え」
「…というか、相手もルーナに逢いたいだろうから」
「…私に…?」
「あぁ」
私の話をもうすでにしている、ってこと…?
「でも、今すぐは無理」
「仕事があるもんね」
「そうじゃなくて」
「え?」
彼の言葉にまぁ、そりゃすぐに会えないか、遠いし。なんて思った矢先、彼はすぐに首を横に振った。
「折角ルーナを独り占めできてたのに、盗られるだろ?」
飲みかけてたスープを噴き出しそうになった。どういうこと。
「何それ、冗談やめてよ」
「冗談じゃないって。あいつら、ルーナに興味津々だから。きっと俺が可愛がってるって知ったら奪ってくるに間違いない」
「…あい…つ…“ら”?」
思わぬワードに声が出た。え?一人じゃないの?
「まさか一人だと思ってたのか?」
「…うん」
「まぁ、友達、っていうよりは…腐れ縁に近いけどな」
「腐れ、縁…」
「馬鹿と天災は紙一重って言葉が似合う人達だから、覚悟しとけ」
「あの、天才と天災はだいぶ違うけど」
「あいつらは天才じゃなくて天災だよ。間違いなく」
ちょっと待って。それはそうとうキャラ濃いんじゃないか?なんて思ったが、心の中に隠しておくことにする。ルーノが友達と決めたのだから、いい人に違いない。
「じゃあ、その天災達に逢わせてね。絶対」
「もちろん。約束だ」
彼は笑顔で約束をしてくれた。
その彼らに出逢うことが、私の人生を大きく動かすということを。
いや、動かしていたことを。
彼はよく知っていた。
【Yellow town He side】
「…黒の街で地震?」
「うん、そうだお。BBA達が噂してたからまじもんだと思う。
隣町で?地震とか?まじ卍すぎてよくわかんないっていうか、なんかのよちょー?みたいな気がすんだよねー。ほら?最近谷底で唸り声聞くって言うじゃん?もうそういうホラー系?マジ無理。
ってか“ジョーヌ”、あんた隣町に友達いるって言ってたじゃん。大丈夫なわけ?」
「…どうだろうねー。そろそろ何かが起こりそうな予感、するんだけどな!」
「あんたのその考えまじ卍」
「もう、最近変な言葉覚えてきちゃってお兄ちゃんちょっと心配!!」
「えーまじ?私超この言葉気に入ってるのに…まじ兄貴気取りすんなよクソが」
「やめて!その言葉やめて!!お兄ちゃんそんな反抗期の娘いりません!!」
「っていうか?まじあんただけだから流行乗り遅れてんの」
「酷い!!俺は流行なんて気にしたことないよ!!」
「の割には雑誌読んでる系だよねー」
「……まぁでも、一度も参考になったことは、ありませんでした」
「見たらわかる…っていうかさ、さっき何か起こりそうって言ったじゃん?あれ、意味深なんだけど」
「でも、俺、こういう野生の勘、外したことないからね!」
【Green town He side】
「“ヴェール”先輩!!!異常事態っす!!」
「…何」
「ビックニュースっすよ!!あの月光花が咲くかもしれないって僕の研究結果が…」
「知ってる。うるさい」
「酷いっす先輩!!!なんで知ってるんすか!!俺の特ダネっすよ!!!」
「咲く予感はしてた。予想内だ」
「ひぇ…さっすが先輩っす!!しびれるー!!」
「黙れ」
「でも、やっぱこれも運命保管庫で出た結果に関係してくると思うんすよねー。ほら、あの花が咲くときって必ず…」
「…同じ運命を辿るために俺はアレをつくったわけじゃない」
「わかってるっすよ!!…でも、ほら、なんていうか…不安、っていうか…」
「…本当にお前はピーピーピーピー煩いな、鳥か」
「…鳥じゃないっす!!煩くてすんません!!」
「…はっ…大丈夫だ。きっと、今度こそ。その為に俺はここにいる」
【Red town He side】
「…あ゛?」
「だからね、“ルージュ”くん。君が黒の街に友人がいるから心配でたまらなくって行きたいのはよくわかるけど、君がここから離れるのはダメなんだなよ」
「なぁ、俺、どんだけ働いたと思ってんの?」
「うん、君が働いてくれたのは知ってる。でもそれとこれとはまた別の話」
うるせぇコイツ。
「いいだろ隣町行くぐらい」
「ダメ!黒の街に行くのにどんだけ費用かかると思ってんのさ!!」
「おまっ、だからダメなんだよ。隣町行くときくらいてめぇの足で行けって話」
「無理無理無理、夢想論だよそんな話」
「は?」
「あーんな広大な平原渡って行くのにどんだけ時間かかると思ってんの?それになんて名前の平原かわかってる?か・み・な・り!雷だよ?僕無理。ついていかないからね」
「おぅ、ついてくんな」
「酷いよ!!僕が君の監視を頼まれてるの知ってて言うんだから!!」
「そろそろアイツに会っとかなきゃダメな気がすんだよ」
「何それ」
「勘」
【Purple town She side】
「“ヴィオレ”お姉様…本当にそのような結果が…?」
「真でありんす。わきちが偽りを申すと…?」
「疑ってなどいません。ですが…それじゃあ、この世界は…」
「この結果が悪しきことになるとは限りんせん。こたびは双子のお月がありんす」
「双子の…月…まさか!?」
「わきちがしくじることはもうなさんす」
「…お姉様…わかりました。ならば、我々も動くのみです」
「…わきちはここから動けなさんす。頼みんした」
「わかっています。これが私達の…長年の復讐ですから…!!!!」
「…復讐…まこと奇天烈でささんす…」
「…お姉様?」
「…わきちらは…ただ、歩み寄りたいだけなんすえ…なのに、運命とは皮肉でござんす…」
【Blue town…? He side】
「まだここにおったんかいな。“ブルー”くん」
「…こっちの海は荒れてるな、と思って」
「まぁ、こないなことになったら海も荒れるやろ。うちの心も荒れてるでほんま」
「…まぁ、偶然こっちに来ててよかったですよ」
「ほんま、偶然、こっちに来てたよかった…ってそんなわけあるか!!!
仕事増えとるやないかほんまに!!!!ええ加減にせえって言うてんのがわからへんのか!!たまの休暇中くらい休ませろよほんまブラック!!!うちの仕事ブラックやわ!!!」
「…キーンってきたんで、やめてもらえますか…」
「あ、ごめん、ごめん。でもほんま…アイツなんも連絡せぇへんやんとか思ってたら、突然連絡来るし、不思議に思ったうちらはこっちにわざわざ理由つけて軍隊引き連れて来たったっていうのに!こない面倒なことに巻き込まれるとは思わんかったで」
「まぁ、それはお互い様で」
「それにこっち寒いし」
「それ覚悟で来ましたよね。なんで薄着なんですか」
「…で?こんな寒いのにわざわざ【境界線】まで来てどないしたん」
「…………いや、夕暮れの海が見たくて」
「夕暮れの海ぃ?黄昏時って言うやつやな」
「はい。あの子の顔見たら、なんとなく」
「ふーん、夕暮れねぇ夕暮れ…そんなイメージないけどな。あんたに」
「…知ってます?この曲」
「は?いや、スルー?」
「…夕焼け小焼けで日が暮れて…山のお寺の鐘が鳴る…」
【White town…? She side】
「おてて繋いでみな帰ろ。鴉と一緒に帰りましょう」
【Black town She side】
世界を動かすのは二つの軍勢。
未だ私が知らぬこの世界の遺恨、残された人の消えることのない嘆きと悲しみ。
【黒の竜】と【白の翼】。
私は遥か過去からの伝言にいつか気づくだろう。
【過去】に願った思いは
【現在】の生きる重しになり
【未来】を変える想いとなる。
私はいつか、何度も問うことになるだろう。
…果たしてそれは、本当に私達が選んだ運命だったのだろうか、と。
「…ルーノ?」
「ん?」
「なんか、嬉しそう…?」
「そうか?いつもと変わらないよ」
私がこの世界に来た理由は…。
いーっぱい人が出てきましたが、今はまだ覚えなくていいです。
あーこんな奴いたなーぐらいで、大丈夫ですので!
ちなみに、今回出てきた新キャラちゃん達はこれからも活躍する予定の子達ですので、ぜひぜひどんな子か想像しつつ、楽しみにしててくださると嬉しいです。
ちなみに!!評価や感想いただけると心の底から嬉しいです!!
面倒かもしれませんが、ぜひ!お願いします!!
ちなみに、途中出てきた「廓言葉」という…遊郭の女性達、つまり花魁言葉ですね。
一生懸命いろんなサイトを見ながら書いてますが、上手に書けてない部分多々あります。
ぜひ、感想と共に!指摘してくださったり、改善点など書いてくださると頑張れます。
よろしくお願いします。
いつもご愛読ありがとうございます!!




