第二十二話 先祖の遺恨を晴らすため
最初に謝っておきます。ごめんなさい。
【He side】
ペレイーギ、破滅と破壊の時代。
消えた魔物が突如として現れ、人々が恐怖に脅えた時代であり
そんな時代にもやはり、悲劇の運命を纏った乙女がいた。
その乙女の名はスーノ。時代の荒波に抗った革命家である。
「…ルーナは?」
「よく寝てるよ」
「そっか…兄さんも少しは休みなよ」
「ああ」
ディアンが俺に軽い食事を持ってくると、仕事に戻るのかルーナの顔も見ずに部屋を出て行った。公爵家での仕事は随分忙しいらしい。
そう言う仕事を好む性質であるということはよく知っていたけれど、まさか妹のような存在のルーナの顔も見ずに仕事に戻るなんて…と考えたところで、ふと我に返った。
彼女を妹のように思っているのは、俺だけか、と。
熱に魘され時折辛そうに擦れた声を出すルーナ。熱いのと寒いので体が混乱しているんだろう。首に滴る汗を冷たいタオルで拭うと気持ちよさそうに彼女は寝ながら笑った。
本来なら、服を引っぺがして身体中の汗を一度拭いてやりたいが、そんなことをしていたと本人にバレてしまったら怒られるどころじゃ済まなさそうなので、顔や手足、首だけで我慢する。
彼女がいつ、何時に起きても大丈夫なようにずっと傍にいる。俺はそう決めたのだ。
…座っていると節々が痛くなってくるが、それもまだ我慢できる範囲。
彼女が苦しくないように世話をしながら、考え事に浸った。
この世界に広まった魔法は、簡単で楽だ。
身体の中にある魔力を魔法にかけたい物に送り、念じればいいのだから。
だが、簡単で便利なものほど欠点がある。人間が持つ魔力は命のみだ。
魔石を正しく使えば改善される。だが、一般人が魔石を持てるほど、安くはない。
結局のところ、魔法を使う、という便利な行為は限られた人間のみの特権で。
魔法という物が一般的になることはないだろう。
だが、一つだけ、命や魔石を使わずとも魔法を使うことができる。
それが大地や空気、自然と共鳴する古代の魔法【ルーン】。
特別な言葉の詠唱、または文字を使う魔術。
使える者に訪れる奇跡、選ばれし者が辿った軌跡。
使うために必要なのは知恵、そして特別な力。
歴史の節目には必ず現れる【ルーン】。
悲劇の娘達、ステーロとスーノ。
彼女達が【魔物】と対話するために使った魔法こそ【ルーン】。
そしてまた、彼女もその魔法を使うことができる。
その力に目覚めてしまえば、もう逃れられない。
全ての者に愛を捧げた王女
全ての者に哀を訴えた乙女
地鳴りがした。大きく地面が揺れた音、木々の騒ぎ声、人間が滅ぶ瞬間。
人間に慈悲なんてものは届かない。君達の願いは届かなかったんだよ。
彼女達の想いを消し去るように根深く残る遺恨。
【魔物と人間の共存を選んだ者達】⇔【魔物を破滅に追い込み人間の楽園を創る者達】
ペレイーギの時代、ステーロの死と共に消された魔物達が平和な大地に突如戻って来た。
それは白のコローロが再び人間に贈った祝福と言う名の試練か、魔物達の根強い人間への復讐の気持ちが実ったのか。
スーノという革命家の女が、亡き王女ステーロの意志を継ぎ、作り上げた黒の竜と呼ばれるギルド。
魔物と人間も【ルーン】を正しく使うことで、会話と調和を行い、お互いの力を借りることができると。つまり、魔物と共存する時代が来たのだと断言した。その一歩として彼女は人間を深く恨む大型の魔物達に【ルーン】を用いて歩み寄った。
その思想に多くの若者達が賛同したが、それ以上の者達がそれに反対をした。
反対した者達の幹部のほとんどは生まれが貴族達の集まりであり、もうこの国にはない【白の街】に居座った傲慢な王を長とした。そして彼らに賄賂を渡されている怠惰な商人達も彼らの味方に付き、人間同士の争いへと発展した。
その二つの思想の決着は………とうの昔に終わらせたはずだったが、今も尚、彼らの思想を崇め奉る奴らもいる。
スーノ率いる黒の竜の意志を継ぐ者は右耳に八角星のピアスを。
白の街の王の意志を継ぐ者は女神の翼を。
俺は彼女の物思いにふけるのをやめ、後ろを振り返った。
ノックもせずに扉を開け、部屋に侵入していた男は驚いた様子でこちらを見る。
「やあ、ルーノくん」
「…どうかされましたか?」
「いやぁ…ルーナちゃんがどうなったか心配で心配で」
「大丈夫ですよ。彼女、健やかに寝ているみたいですから。
心配せずとも俺が付きっ切りで見ていますし」
「そっかそっか。でもたまには休憩しないとね。交代交代!」
「いえ、結構です。彼女の傍にいるのが俺の仕事なんで」
「いいから、ちゃんと布団で寝てないだろう?」
「そうですね」
俺がこの男に接触したのは、背中に隠れた刺青を見つけたからだ。
男の祖先を遥か昔に遡ると、貴族の血を継ぐ者だった。
「さぁ、後は私に任せて寝なさい」
「そうはできませんよ。そのナイフを見ちゃったからには」
「っ!?」
男は動揺を隠さない。どうやら人を殺すのは慣れてないようだ。
「貴方は貴族の血を継いでいた。
そして、先祖の遺恨を晴らすために魔物の残り香である悪魔を破滅させる魔法を覚えた」
「ど、どうしたんだいルーノくん、何を言って」
「悪魔を消すことができたら、自然と魔物を殺す手段を覚えれると妄信してましたからね」
「この、このナイフは林檎を切る為に持ってきたんだよ。ディアンが持ってきた食事に林檎があっただろう?ああ、でもあの子のことだから切って渡してたんだね。そこまで気が回らなかったよ」
「ルーナの顔を初めて見た時、何とも思わなかった。何故ならあなたは怨みを果たすべき相手は顔ではなく、その意志を継いでいる証のピアスを見ていたから」
「だから、ルーノくん」
「悪魔祓いとか言っておいて、本当に祓いたい者は殺せてませんよね」
男が女好きだったのは、意志を受け継ぐ者を手っ取り早く見つける為だ。
少し顔をよく見せるだけで、少し色気を見せただけで、すんなりと心を開く女たちの隙を狙っていた。実際には女達を殺すことも、利用することもできなかったが。
…いや、利用したくてもできなかった、というのが正しいのか。
「いつもいつも運が悪かったですよね。
殺す算段や利用する方法を見つけた途端、失踪したリーゼ、アーラ…それから」
「それ、それは元カノ達じゃないか。ほら、よく私って逃げられるから」
ルーナと男を接触させたのも、わざとだった。
俺は男のことを実際は気に入っていた。魔物達と共存しない、という先祖の念に囚われてさえいなければ、人間としてよくできた、賢く、聡明な人だと判断していたからだ。
最も、俺自身も悪魔は厄介だと前々から思っていた。
だからこそ、悪魔を滅する思想に賛同し、弟子としてともに生きてコイツの動向を見ていたに過ぎない。
「今回ルーナを殺すことになったのはやはりあの人からの命令ですか。
一か八かの賭けでルーナを連れて来ましたが、やはりあの人の目にはルーナが敵であるとわかっていたんですね。しかし、あまりにも不運だ。貴方は一生懸命、自分の研究に興味を持ってくれているルーナを心の底から気に入ってましたからね」
「やめ、やめてくれ、ルーノくん、ごか、誤解だ」
「彼女を殺すというのならば、俺は全力で貴方を殺しに行きます。ですが…」
俺は息を吸い込む。
「彼女を殺さないと誓うのならば、見逃しましょう」
男が震える。悩んでいるようだ。
情が湧いた人間を簡単に殺せるほど、男は冷酷な人間ではなかった。
だが、殺さなければいけない理由が男にはある。
「何故、何故そこまでして彼女を庇える?
たかが妹だろう?それもつい最近までともに暮らしてもいなかった妹だ!
赤の他人も同然じゃないか!」
もう男は嘘を貫き通せるほど余裕がなかった。
それは、この城にいるから余計だろう。可哀想なことに男に残された時間は少ない。
「私は、無理なんだよ、今度こそしくじったら、今度は私が排除されてしまう!
君達がいる手前、勝手には帰れない。あの人の手によって殺されてしまう!
頼む、ルーノくん、私の、私のために、妹の命を差し出してくれ…!!」
ここで彼女を見逃せば男が殺されるのも事実。
男が彼女を殺すと決めたら俺が殺すのも事実。
どっちに転んでも死ぬということが、まだわからないのか。
「じゃあ、最後に、貴方に一つだけ提案をしましょう」
俺は男に近づいた。
「私は本当に貴方のことを気に入っていた。
人間を助けたいという気持ち、心、きっと目指す思想が同じであればいい友になれたはずなのに」
一歩、一歩、俺は男に確実に近づいていったが、男も一歩、また一歩と下がっていった。
「もし、その背中の翼を裏切る覚悟があると言うなら
【サティルーソ】の歩く天災のもとへ貴方を瞬間移動させます」
「しゅ、瞬間移動…!?」
「緑の街の…それも【サティルーソ】内で簡単に殺されないはず。それもアイツの元に行けばこき使われるでしょうが、しばらくは安全でしょうからね。その後の生活に関して保証はしません…が、生き延びる手段としては上々でしょう?」
男のストラが揺れた。悩んでいる。
いい決断をしてほしいと俺は思った。
「どうしますか?」
「わた、私は…」
だが、男がこちらに揺らぐことはなかった。
恋は盲目、とはこのことだ。
「無理だ。彼女を裏切れない!!死んでくれ!!!」
男が俺に向かって刃を突きつけてきた。勇気を振り絞りナイフを片手に俺に突進してくる。
後ろにはルーナがいる。避けるわけにはいかない。
俺は勢いよく突きつけてきた男のナイフの刃を握りしめると、視線を合わせた。
「…うご、動かない」
男は両手でナイフを引こうとしたが、俺の掌からナイフが離れることはない。
俺の手から流れ落ちる血が、ポタポタと黒い絨毯に染みをつけていった。
「残念です。神父様。貴方に慈悲をかける理由はもうありません」
男は…神父、ソワールはナイフを取り返すのをやめたかと思えば逃げるように扉のほうへと走って行った。叶わないと察し、援軍を呼ぼうと思ったのだろう。
確かに実際の手筈通りならば扉の向こうに仲間達が待機していてもいいはずだった。
普通ならいい判断だ。だが、彼の援軍は誰一人としてくることはないし、扉にはもう既に俺の仲間が一人、立っていた。
「残念。ここは行き止まり」
「…!!!何故お前が!!!」
「いやぁ、仕事は忙しかったよ。あんたと同じくらい暗殺を行うために雇われた人達がゴロゴロいたからね。ここで仕事してると、よく目にするんだよ。あんたと同じ、背中に描かれた翼の刺青」
ソワールが目を見開いた。隠せているとでも思っていのだろうか。
「今日、この日が来るまでにかなりの人数をやめさせることができてよかったよ」
「ど、どうやって」
「三女のお嬢さんは、気が荒いから」
男はクスリと笑った。根はいい奴なんだ、本当に。
だが、残念なことに彼女が好きすぎるんだ。
「さて、兄さんどうする?」
男の目が黄金に輝いた。
「殺れ」
その日、国中の人間の記憶から
一人の男の名が消えた。
神父様ファンの方いましたら、本当にごめんなさい…。
友人もこの小説を読んでくれているのですが、神父様を好きだと言っている子が一人いて…その子が神父様好きなのーって言ってるの聞いて、その時めっちゃ心が痛かったです…ごめんね…。
神父様を生かすか、殺すかはずっと悩んでいたのですが…。
やっぱり、この話を書くためだけに連れてきた人だったので…。
もし、神父様めっちゃ好きやってん!どうしてくれんねん!!って方いましたら本当にごめんなさい…。私も彼のことはめっちゃ好きだったんですよ…。
でも、でも、お話の為なんです許してください…。
今後もイケおじは何人か作りたいところですが、なかなかイケおじ出す機会がすぐには来ないと思いますので…ショコラ公一人でこれからは頑張って行きたいと思います(頑張る、とは)
いつもご愛読ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。




