貴族の誉れ
「出兵」とは、全ての貴族に課された義務。
街の中央。四本の大樹に守られた満月の塔。そこには「守護者」と呼ばれる者達が住んでいる。
彼らは街を守護する存在。街の治安維持を担っている者達なのだが、皆一様に同じ服装、同じ仮面を着けていて、一言も声を発することなく、まるで感情がないかのように同じ動きをする。
その異様な姿から、街の住民達からは畏怖のこもった目で見られている。
「出兵」は、その守護者になるということだ。
貴族にだけ許された誉れ。誇り高き守護者となれる特権。
一世帯、一代につき、一人以上出兵することが、貴族の決まりとなっている。
ジウの家では、既に長兄が出兵していた。
「シノ」
アヤが少し強い口調でシノを呼び止めた。
「出兵ってのは、守護者になるってことだ。守護者になるってことは、満月の塔の住人になるってことだ。つまり――」
「アヤ」
アヤの言葉を、今度はユキの穏やかな声が制した。
「シノも。出兵しようがしまいが、俺が皆の友達だってことは、変わらないさ」
一瞬間を開けて、ユキはおどけた口調で「なんてな」と付け加えた。
アヤは神妙な顔つきで「うん」とだけ答え、シノが笑いながら「カッコイー」とはやした。
「おい、何で俺の名前は呼ばないワケよ」
ジウがユキに言うと、ユキは意地悪な笑みを浮かべて答えた。
「落第するかもしれないからじゃない?」
「しかも読書感想文の未提出で」
アヤが付け足す。
「カッコワリー!」
シノがバカにして笑う。
「だー! うるせえな! またその話かよ、クソ! いいか! 読書感想文なんて、明日の朝までに書き上げて、さっさと提出してやるからな!」
「絵本で?」
思いっきり啖呵を切ったジウに、無表情のままアヤが言った。
ユキとシノが吹き出して笑った。
「テメー!」
ジウが叫んだところで、四人はジウの家の前の十字路に着いた。
「じゃあな、頑張れよ」
三人は口々に、ジウに侮辱を込めた声援を投げつけて、それぞれの帰路に別れて行った。
ジウは怒りの矛先を失って、地団駄を踏みそうになったが、背後から聞き慣れた声がしたのでやめた。
「おかえりなさいませ、ぼっちゃま」