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極夜の鳥籠  作者: 祥之瑠于
籠の中の小鳥たち
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血統

 午後の授業が全て終わり、放課となると、皆それぞれ家路に着く。

 ジウも、いつもと同じようにいつもの四人で帰宅しようとシノの席に移動する。

 既にアヤが来ていた。

「あれ、ユキは?」

 シノが座ったままキョロキョロと教室内を見回した。

 ジウも見るが、まばらに席を立って行く生徒達の中に、ユキの姿はない。席には鞄が置いてある。

「どこ行きやがった?」

 三人は自然とユキを探しに教室を出た。

 ユキはあっさり見つかった。四人の昼の溜まり場、屋上にいたのだ。

 階段を上り、ドアを開けると、見慣れた背中が見えた。

 シノが手を挙げて声を掛けようとした時、ジウは反射的にシノの口を抑えた。

「待て。誰かいる」

 アヤが即座に空気を読んで、音をたてないよう階段を下りていく。シノは訳が解らず足掻こうとする。

「シッ! 黙れって!」

 ジウは小声で強く言うと、シノを羽交い締めにした。

「家なんて関係ない!」

 ヒステリックな女子生徒の声が、ユキの向こう側から聞こえた。なおもジウの腕から逃れようとしていたシノも、ビクリとして固まった。

「お父様もお母様も何も知らないわ。本当よ。私が……」

「ありがとう」

 女子生徒の必死な声を遮って、穏やかだが、強いユキの声が響いた。

「ありがとう。君の気持ち、本当に嬉しい。けど僕は、卒業したらすぐに出兵するんだ」

 出兵。

 女子生徒は、顔は見えなくとも絶句しているだろうことが、ジウには分かった。

「だから、ごめん。君と結婚することは出来ない。ご両親がご存知ないなら、純粋に君の気持ちだけだと言うなら、尚更。ごめんね」

 先ほどより更に強い声。最後の一言だけが、悲しげだった。

 心に重くのしかかるような、無言の空間。

 鈍感なシノも察したのか、身を固くしている。

「おい、ユキ! 何やってんだ、帰るぞ!」

 ジウはあえて無神経に、平静に、ユキに声を掛けた。たった今来て、何も聞いていない風に。

 ユキがゆっくり振り向いた。

 絹糸のように輝く金の髪が揺れて、彫りの深い整った顔立ちがこちらを向く。白磁のような肌に、形の良い鼻と口。少し目尻の下がった目は、女のように長い睫毛に縁取られている。

 碧い瞳が、ジウを真っ直ぐに見た。

 ジウと同じくらいの長身だが、ひょろりと長いジウとは違い、がっしりとしていて逞しい。

 ――そりゃまあ、惚れるわな。

 ジウは心の中で溜息をつく。

 ジウと同じ真っ白なシャツを着て、その上に大きなフードの着いた丈の長いコートを着ている。シャツの襟や袖には、ジウと同じく飾りボタンが付いているが、ジウのゴテゴテした雰囲気とは違い、上品で洗練された印象だ。

「ああ、ジウ。今行くよ」

 ユキがこちらを振り向いたことで、向こう側にいた女子生徒の顔が見えた。同級生の少女だ。

 白いシャツワンピースと長い髪を見て、ジウは「やっぱりな」と思った。

「ごめんね」

 ユキは女子生徒に向き直り、もう一度謝罪すると、彼女に背を向けてこちらに来た。

「行こう」

 いつもと同じ爽やかな笑顔でユキが言う。

 口を開きかけたシノを無理やり引っ張ると、ジウはユキに続いた。

「ちょっと、待ってって、イテテ」

 シノの抗議を無視して階段を下りると、アヤが立っていた。ずっとここで待っていたらしい。

「ごめんね、アヤ。待たせちゃった」

「シノ、ユキの鞄、取りに行くぞ。ユキ、待ってて」

 いつも無口なアヤが、珍しく早口で言うと、シノの手をジウから奪って、教室へ歩きだした。

 その背を見ながら、ジウはユキに並ぶ。

「一応聞くけどよ。よかったのかよ」

「うん。あの子の親が、俺の家の血統がどうしても必要だとか言ったんなら、少し考えたけど」

「そうだったらどうしたよ。出兵やめたのか?」

「それはないけど、子供作るくらいなら考えたかなって――最低だね、俺」

 ユキはそう言うと、教室からユキの鞄を持って出てきたアヤ達の方へ、走って行った。

「サイテーなのはこの街の方だろ」

 ジウは小さく呟いた。

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