穂乃差へ
由宇をおぶって歩き続ける。
これも修行、と心の中で唱えつつも歩き続ける。
陽も高く上り、頭上からボクを苛めるかの様に照らしつけてくる。
「お」
前方から数台の車がやってくる。
混ぜ、行き先が違うから止める事も無いな。
ボク達の行き先は車が来る方なんだから。
そう思っていたら車がボクの行く手を阻む様に止まる。
「おい。君達は何者だ?」
一人が降りてきて、警戒しながらボク達の前に立ち塞がる。
残りの車からは武装した男達が隙を窺っている。
「旅人」
横を抜けようとするが、
「待て」
肩を捕まれ、ぐいっと引き戻される。
それで由宇が起きた。
「何?」
寝ぼけた由宇がきょろきょろとしているのが背中越しに伝わる。
ボクは疲れたのと、空腹で文句を言う体力が無い。
「君達は何者だ」
さっきと同じ質問。
「僕達は間錬から」
寝起きの由宇が寝ぼけた声で答える。
「間連から!?」
寝ぼけた由宇に代わってボクが説明する。
間連が襲撃された事。そして、由宇と二人でいる事を。
「事情は分かった。私達はこのまま間連に向かう。君達は来るまで穂乃差に向かうといい」
一台の車にボク達を乗せて、残りの車はボク達の歩いてきた方へと走り去って行った。
穂乃差到着。そして、警察でも同じ話を繰り返す。
その間、ボクはじっと耐えていた。空腹に。
「由宇、夕音の親戚に連絡しなくていいのか?」
警察署から夕音の親戚に無事の連絡を入れて、外に出る。
外はすっかり赤く染まっている。
「とりあえず、泊まるトコを探そう。歩き疲れた」
「そうですね……ってお金は」
「あるよ。ほら」
財布を由宇に渡す。
「どうしたんですか? このお金」
「盗賊共から奪った立派な戦利品」
「え」
由宇の顔が青ざめる。
「嘘だよ。仙界から出てくる時にちょっと持って来たの」
「仙界のお金ってこっちと同じなんですか?」
「同じ訳無いだろう。金を持ってきて換金したの」
「本当ですか?」
「当たり前だ。盗賊なんかと一緒にするな」
ボクを見る由宇の目が猜疑に満ちている。
「分かった。お前は公園のベンチで寝ろ、明日この街の入り口で待ち合わせだ。じゃ」
由宇を置いて歩き出す。
「あ。ごめんなさい。ごめんなさい」
由宇は追いかけてきてボクの前に回りこんで謝っている。
「冥仙が有名だと困るってどういう事ですか?」
ずっと聞きたかったのだろう。その目は好奇に満ちている。
じっと座っていても妙に疲れるので、話している事で気が紛れる事を期待して話す。
「五仙と冥仙との関係は知ってるでしょ」
「はい。五仙が冥仙の支配から地上を解放したって伝説ですよね」
「そ。その闘いは今も続いているの。大規模なのはないけど、まぁ小競り合い程度だけど」
「その闘いで才蔵って仙士は有名になったんですか?」
ついでに話す。
「『炉歩』って場所の闘いで名を上げたの」
「炉歩?」
「風仙界と冥仙界の境界」
「へ〜。どんな場所なんですか?」
「どんな場所って?」
「史紀さんの生まれた街ですか?」
「違う。私が生まれたのは会流瀬って……なんでアンタに説明しなきゃいけないのよ」
「いいじゃないですか。教えてくださいよ」
「嫌よ」
しつこく聞いてくる由宇。その空想は広がり、
「行って見たいな〜」
と、言いはじめた。
「頑張れ」
「どう頑張ったらいいんですか?」
「さぁ? 知らない。ボクはいつでも帰れるし」
その言葉に顔が白くなる。
「僕は行けないんですか?」
声は泣きそうだ。
「頑張ったらいけるんじゃない」
適当に励ます。
「ホントですか!?」
満面の笑みってこういう表情なんだな、と感心してしまった。
「多分」
この呟きが聞こえなかったのか、由宇は瞳を輝かせてまだ見ぬ仙界に思いを馳せている。