旅の続き
ボク達はようやく海に辿り着いた。
由宇に会ったり、佳奈に車を返したりとしていたら螢送での戦いから一ヶ月経っていた。
肩を並べて、海からの風に吹かれ光を反射する波をぼんやりと時を過ごす。
跋維党による反乱は一気に終息に向かい、今は治安回復や施設の修復にあちこちで軍やボランティアが忙しなく動いている。
終息の要因は、終結直後の礼儀の死と佳乃の国外追放。
「最善を尽くしてくれた事は分かっている。跋維を立ち上げた時から死は覚悟している。礼儀の死は君達の責任ではない」
と、最後に会った時に言ってくれたがそれで済む訳が無い。
その痛みも心に刻んで進んでいこう。
佳乃も死を望んだが、死の間際の礼儀や佳乃の部隊、螢送市民を中心とした跋維支配下にあった市民達の嘆願で極刑を免れた。
それで国外追放。それも永久に。
今頃何処で何をしているのやら。
その他の跋維の奴等は軍に再編されたり、盗賊に戻って成敗されたりと大忙しに世間を賑わしている。
「ふふ」
「どうしました?」
不意に笑ってしまったボクを覗き込む理緒。
「いや。なんでもない」
師匠達の事があって風仙界を飛び出したボクを詩月はこんな気持ちでいたのかな。
そう考えたら笑ってしまった。
「?」
きょとん、とする理緒。
「こんなトコにいたのか」
振り返れば歩来が仁王立ちしている。
「なんで?」
「なんでって。ようやく見つけたのにそれだけ?」
「いや。事後処理で忙しいんじゃないんですか?」
「ああ。その為に言ったり来たりだ。まったく面倒な事この上ない」
「ホントは外されたんじゃないの〜?」
「そんな事言うのはこの口か!?」
ぎゅぅ、と頬をつねられる。
「痛たたた。じゃ、なんだよ」
「才蔵が関わっていた施設の破壊と人員の確保が任務なんだよ」
「じゃ、さっさと捕まえればいいじゃない。ほら、早く」
「捕まえて来たところだよ。で、ちょっと時間が空いたから」
「だから、わざわざ来たのか? 暇人め」
「お互い様じゃない。それは」
「ですね」
三人肩を並べて視線は海へ。
「海って何処まで続いているんでしょうか?」
深い意味の無い理緒の言葉。
「どこって……大陸の反対側じゃないの」
「夢が無いな〜。史紀ちゃんはっ!」
頭をぐりぐりされる。正直、ムカつく。
「夢って……常識だろう。じゃ、歩来は何処まで続いてるって言うんだ?」
「それは」
「それは?」
考えて、
「どこまでもどこまでも」
立ち上がりビシッと指差す。
何も思いつかなかったのだろう。
「面白くない」
「いや。笑わせようとした訳じゃ」
「と言うわりには顔が赤いようだけど」
「え、へへ」
「じゃ、確かめに行くか」
「どこへ?」
ボクの指は海の向こうを指差す。
「どうする?」
「いいですね〜」
理緒と二人車に向かって走り出す。
「私は任務があるからな。あ、そうだ」
歩来はポケットからケータイを取り出し、
「持ってけ」
「いいよ。お金掛かるし」
「いいから。あると便利だぞ」
放り投げるのでキャッチする。
「なんかあったら連絡してくれ」
「これが連絡先だろ」
「新しいのを手に入れたら連絡するから」
「分かった」
ただでくれると言うのだから断る理由は無いのでありがたく頂戴する。
「またどこかで会えるといいですね」
「そうだな」
車に乗り込むと理緒は寂しげにそう呟いた。
走り出した車のミラーには小さくなる歩来が映っている。
「何があるのか楽しみですね〜」
理緒は海の向こうに思いを馳せる。
「面倒な事は嫌だな〜」
「まぁ、楽しいだけじゃつまらないですよ?」
なんとなく納得してしまう一言。
「手に負える範囲なら歓迎だな」
「ま、そんな都合良く行きませんよ」
あははは、と笑う理緒。
物騒な言葉とは裏腹に、雲間から射す日差しが道を照らす。
辺りに車はなく快適なドライブが続く。
理緒の鼻歌と波の音が耳に心地よい。徐々に瞼が下りてくる。
「理緒。港に着いたら起こして」
「いいですけど……」
どことなく歯切れが悪い。
「港ってどこですか?」
夢の世界に入る直前にそんな言葉を聞いた。
〜あとがき〜
いかがでしたでしょうか?
僕としては楽しんでいただければ幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
2008年 9月 悟