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En-gi  作者: 奇文屋
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夜明け

 久遠と名乗る男と話している間に、殺気を感じた。

「おい。ここを囲んでいるやつ等はお前の仲間じゃないのか」

 縛り付けた男を見る。

「何度も言ってるだろう。水仙の仙士たる私が盗賊に加担する訳ないと」

 男もこっちを見返す。

「由宇、解いてやって。それからボクから離れるな」

「はい」

 由宇が男を解放している間に、

「追いついたぜ」

 ぐるり、と囲まれている。

数は……二十位かな。

「よくも、仲間を」

 横の男が話している間に、水仙の男が立ち上がり、一突き。

引いた槍で近くの盗賊も薙ぎ払う。

 くるくると槍を回し、構える。

「まだ、私を盗賊と疑うのならこいつ等を追い払うことで、違う事を証明しよう」

 剣を避け、槍を避け、次々と突き倒し、薙ぎ払う。

「強いですね」

 後ろにいる由宇がその動きに賛辞を送る。

ボクは答える事無くその姿をじっと見つめる。


「これで、証明出来たかな」

 息を切らせる事無く、盗賊を打ち倒した。

「さぁ、どうだろ? 地方部隊の更にその小隊倒した程度の事で疑いが晴れるとでも思ってるの?」

 話そうとする由宇を睨む。

「史紀さ……ん」

「疑り深いな」

 苦笑する男。

「久遠さんが一民間人の僕達を騙す理由なんて無いでしょう」

「アンタはそうだけど、ボクは違う」

「史紀さ……さんが仙士だなんて向こうは知りませんよ」

 そっと耳打ちされる。

言ってなかったのか。そうなると、なるほど。一理ある。

「じゃ、コイツはホントに水仙って言いたいの?」

「それは、僕に証明出来ないですけど。仙士同士で通じる物って無いんですか?」

「それならこれだ」

 槍を差し出す。

「何?」

「それならこれで証明しよう」

 槍を掲げる。槍は白く輝き始める。

徐々に切っ先は鋭くり、白く輝いていく。

「これで、証明出来たかな」

 槍を下ろすと、輝きは無くなりただの白い槍に戻る。

人間界にはこんな武器は無いだろう。

「ま、アンタが仙士だってのは分かった。一つ聞いていい」

「何だ」

「才蔵って知ってる?」

「『冥仙めいせん』だと言う事と名前位しか知らないな」

 ボクと同じ事しか知らないか。

「今、どこに居るのか分からない?」

「そこまでは」

「そう、ありがと。疑って悪かった」

 ぺこり、と頭を下げて由宇の手を引いて歩いていく。

「え、あ。ありがとうございました」

「気にするな。縁があったらまた会おう」

 その声を後ろに聞いて森の中を進んでいく。

「この道をまっすぐ行けば『穂乃差ほのさ』の街です」

 夜明け前の街道を歩いて行く。

「お。日が昇る」

 東からの光。少しその光景を眺めてから歩き出す。

「どの位歩けば、その街に着くの」

「そうですね、昼前くらいには」

「ふ〜」

 その歩く時間にため息が出る。

「行こうか」

 まっすぐに伸びる街道を恨めしそうに眺めるボク。



 跋維党から奪った上着を羽織った由宇と二人、てくてくと街道を歩く。

ボク達の後ろから白み始めた夜空が道を照らし始める。

「眠」

「ちょっと休憩しましょうか?」

「さんせ〜い」

 街道脇に座り込み、バッグに凭れる。

「疲れたー」

 由宇は寝転がり空を見つめる。

「ちょっと寝たら? アンタ寝てないでしょ」

「いえ。眠くないんで」

 まぁ、そうか。数時間前にはあんな事があった訳だし。

「そう。それなら陽が昇るまではこうしていよう」

 バッグを枕に目を閉じる。

熟睡する訳にはいかないが、少しでも由宇を休ませてあげたい。



 陽も昇り、再び歩き出したボク達。

当然だが時間が経つほどにペースは落ちる。

「大丈夫?」

 後ろを歩く由宇を待つ。

「はい」

 とは思えない顔。

蓄積された疲労と履き慣れない靴の痛み。

ちなみに今、由宇が履いている靴は夕べの跋維党の物だ。

「休むか」

「いえ。もう少し」

 ボクを追い越して歩いていく。

先ほどは、「まだ大丈夫」と言っていた。

余裕が無くなって来たな。

 ふぅ、とため息を吐いて由宇を追い越して、その前でしゃがむ。

「なんですか?」

「おんぶしてやる」

 きょとんとしている内に由宇をおんぶする。

「え、ちょっと」

「うるさい。この方が速く歩ける」

 もがく由宇を背中に乗せて歩き出す。

「平気ですから」

「うるさい。喋るな」

 手を突いて抵抗する由宇。

 それも少しの時間だけだった。

 今、由宇は静かに寝息を立てている。

「それ見ろ」

 ぼそっと呟く。

聞こえやしないかと、ひやひやしたのは何故だ?

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