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En-gi  作者: 奇文屋
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決戦17

 ビルの階段を駆け上がる。

エレベーターを使う相手に追いつくにはこれ、と歩来の言葉に従ったが、

 意外に疲れる。

「これしきで息上げてる場合じゃ無いでしょ?」

「確かに」

 駆け上ったら戦闘が待ってる。

ウォーミングアップだと思えば、少しは楽になるかも。

 五階と書かれたフロアに到着。

 歩来が扉を開ける。

そこには倒れた兵と見下ろす二人がいた。

「速かったな」

 才蔵がこちらを向く。

「懐かしい顔だな」

 歩来は答えずに剣を抜く。

ひゅんひゅん、と風を切る。

「剣を」

 隣に立つ男から剣を取り、そこで初めて風が止んだ。

「今の内に礼儀を」

「あぁ」

 倒れた兵の剣を持って奥に進む。

「史紀!!」

 言われなくても!

箒星は才蔵の横を抜け男に向かう。

筈だった。

歩来の剣を外し、箒星を打ち払う。

壁に叩きつけられる箒星。

「そんな事で止められると思うなよ!」

 遠隔で動かせるのはこういった時の為でもあるんだ。

落ちた箒星がかたかたと動いて地を這い男を捕らえる。

「やれやれ。手間を掛けさせてくれる」

「なら大人しくっ!」

「する訳無いだろう」

 ボクの動きを読んで後ろに飛ぶ。

突き出した拳は空を切り、ボクは歩来の前に着地する。

「こんな事をして仙界が黙っているとでも思っているの?」

「さぁ?」

 歩来の言葉にとぼける才蔵。

「仙界は関係、うぷ」

 口を塞がれる。

「五仙だけじゃなく、冥仙も黙っては無いわよ」

 沈黙。

「何がしたい。目的はなんだ?」

 歩来の声に才蔵は、

「解放だな」

 はぁ?

「仙界のエゴで振り回される人間界を解放するんだ。その為には荒れていた方がやりやすいだろう」

 薄っすら笑っているのが腹立つ。

「戦渦を広げ、それを収める英雄を作り出す」

「それをうらから操ろうと言うのか」

「少し違うな。英雄に力を貸した仙人として俺達はここに残り、人間でも扱える仙具を与える」

「そんな事をしたら内乱では収まらずに他国にも戦渦は広がるぞ」

「それも計画の内さ。そんな事になれば仙界は黙ってないだろう。君を派遣した様に」

 ふふ、と笑う才蔵。

「戦渦に喘ぐ民達が見た事も無い武器を持った仙人をみればどうなるかな?」

「それは」

 何? ボクにはわかんないので歩来を見る。

「まさかっ! そんな事になれば」

「仙人に攻撃を掛ける、と考えるのが普通だろ」

「ただの人間が仙人に勝てる訳無いじゃん」

「その為に仙具を与えるし肉体強化も施すさ」

「仙界と人間界との間に戦争を起こす気か」

「そう言っているだろう。これは自由を勝ち取る為の戦争だ」

「その為に風仙界に来て、師匠を殺し蒼空乃極を奪ったのか?」

「そうだ。あの時の仙士達には悪いことしたと思うが蒼空乃極だったのは前にその力を見ていたからって言うのが理由だな。それに人間が仙士に勝てないと決め付けるのは良くないな。その可能性を照明した人間がいる」

「佳乃か」

「あぁ。あいつは人間が仙具を使える事を証明した。もう少し仙具の力を落とせば充分に仙士と戦えるし強化すれば佳乃クラスの兵はすぐに万の単位で集まるし実戦投入出来る」

「考えを改める気は?」

「無いな。君こそ俺達に協力する気は?」

「ある訳無いでしょ!!!」

 歩来が答える前にボクが飛び出す。

箒星はしっかり装着している。一撃を受け止める寸前できゅっと足を滑らせて後に回り込む。

無防備だと思ったがすかさず反転してパンチを防がれる。

二発目は剣で受け止められる。

「いい物だろう? これが今話した仙具だ」

「それがどうしたっ!」

 武器を狙う。

 思いっきり剣を殴った。

きぃぃん、と涼やかな音が響く。

「な」

 才蔵のにやけた顔に腹立ったが、

「この剣があれば仙士と互角に戦える事を証明しよう」

 実験に使われた。その怒りで頭が真っ白になる。

「後は肉体強化の問題だけだ。それが整えば俺の目的は達成される」

「それを見過ごす仙界だと思うのか?」

「はは。動けないさ。例え動いたとしても少数。それなら相手にはならない」

 歩来が攻撃に入る。

意識が向こうに行った瞬間、

「おっと」

 ボクも参加する。

「例え精鋭相手でも関係ないな。仙界がこの事に気付くまでに兵の数は揃えるつもりだから。それに俺達の相手を出来るのは歩来。最低でも君レベルは必要だ」

 この、ボクは眼中に無いってのか?

実力差を改めて思い知らされるな……悔しいけど。

才蔵は歩来に集中している。

ボクの攻撃は歩来への対応の惰性でしている様だ。

全ての攻撃は紙一重で避けられても反撃は無い。

響く剣戟は全て歩来との打ち合い。

 ……。

落ち着け。

冷静に。

すっと距離を開けて、呼吸を整える。

「もう終わりか?」

 からかう調子の声。

乗るな。頭に上った熱を下げよう。

才蔵と目が合う。歩来を相手にしていてもこの余裕がある。

実力差は分かりきった事。それを今更嘆いても悔やんでもしょうがない。

今、最善を尽くす。この時の為にボクはここに来たんだから。

ふぅー、と息を吐いて深呼吸をする。

まるで場違いだと思ったが、頭の熱は下がり、心は涼やかになった。

「参る」

 呟く。

体は軽い。

才蔵は先程と同じ様に歩来に意識を集中している。

後から、とは卑怯だと思ったがそうも言ってられないし隙を見せる方が悪い。

突風とっぷうっ!!」

 力強く踏み込んで箒星を突き出す。

打ち合ったのは歩来の剣。

「危ないな。流石は比奈人に怪我を負わせただけの事はあるかな」

 壁際に逃れた才蔵を追う。

今度は左右。

歩来の剣を避け、ボクの箒星を剣で弾いて前へ。

そのまま奥へと走り去る。

背中を向けたのなら、

「行けっ!」

 箒星を撃ち、追いかける。

「君も同じ事を繰り返すな」

 箒星を打ち払う。その打ち落とされた箒星の後方から飛び掛る。

「同じ戦い方が通用するとは思わない事だ」

「お前もな」

 才蔵の剣が切り返すより速く箒星が腕を弾く。

それで軌道が変わり、ボクのパンチが才蔵の顔にヒット。

「まず一発」

 振りぬいた右腕にはしっかりとした感触が残っている。

才蔵はそのまま倒れこみ、ボクはその姿を見下ろす。

「史紀」

「立つかそのまま殴られたいか、好きな方を選べ」

 余裕を見せる気など無い。

このまま攻めればやられる、と本能と言うか第六感というかそんな感じの直感が危険を伝えているので強がりな余裕を見せなきゃいけない。

「ふふ、殴られたのは久しぶりだな」

 倒れたままこっちを見る才蔵。

ゆっくりと立ち上がる。

「君の兄弟子やあの時の仙士にも直接触れられてなかったんだ」

「それがどうした?」

「安い挑発でどうにかなると思っているの?」

「いや、打てる手は打つのが俺のやり方だ。しかし無駄だった様だ。彼女の心は一切ぶれないな」

「その程度で心が乱れるのは過去を変えられと思ってる奴じゃないのか、ボクはお前をぶっ飛ばしても過去は変わらない事は分かってる」

「ははは、そうかもな。君は強いな」

 立ち上がった才蔵は先程と変わらずに悠然と立っている。

「じゃ、やるか」

 才蔵が目の前に現れた!?

屈むだけで精一杯。

「かはっ」

 顔をガードしたけど衝撃はそれを越えて伝わる。

「史紀!?」

 歩来の声と同時に金属音と風を切る音が聞こえる。

「どうって事ない!」

 口の中に味わいたくない味が広がるがそれを少し吐き出して、後から攻める。

今度はボクにも注意を向けている。

違うのはもう一つ。攻めてこない。防戦に徹している。

攻撃の隙を狙っているのは明らかなので、一撃が軽くなり防がれる。

それが慣れとならない様に集中。どちらが先に集中を切らすかが勝負の分かれ目か。


 意外な人物の行動で拮抗は崩れる。

「く、ここで」

 倒れていた制羽がよろよろと動き出す。

「この、扉の……向こうに」

 立ち上がり、倒れている兵の剣を杖に前に進みだす。

「私が、私が、王に」

「どうする?」

 視界の端に動きを捉えてはいるが、対応は出来ずにいる。

少しでも気を抜けばその後はどうなるか位アホでも分かる。

「これで、こちらの思うとおりに事は進む」

「それはどうかな?」

 扉が開いた。

中から出てきたのは、礼儀と思しき人物一人。

手には剣。顔は戦場には似合わない微笑を浮かべている。

「礼儀。貴様が」

「制羽。君の目論見はここで終わりだ」

「れ、い」

 お互いの剣は躊躇い無く振り払われる。

崩れ落ちる制羽。

しかし制羽の剣も礼儀を貫いている。

「やれやれ。これでは計画は遅れるな」

「そうだな。ここで潰える」

 一瞬の隙。ボクも才蔵も二人の人間に意識がいった瞬間に、

「こほっ」

 その声で目を才蔵に戻すと、歩来の剣が才蔵の腹を貫いていた。

 才蔵は血を撒き散らして反撃しボクの攻撃を払い、歩来の剣を打ち付ける。

その衝撃で僅かに才蔵との距離が開く。

「悪いが……次を探さなきゃいけなくなったんで」

 そのまま廊下に赤い雫を垂らしながら駆けて行く。

「逃がすかっ!」

 ボクは才蔵を追い掛ける。

「歩来、礼儀を任せた!!」

「おい、ちょっと……あぁ、もう!!」

 歩来の声を背中で聞いて才蔵の背中を追う。

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