決戦16
「しぶとい」
「お互い様だな」
本部ビル前。
辺りは血の海となり、その中心に身を置いているのは、
「さっさと死なれてもつまらんしな」
赤く濡れた切っ先をだらりと地に向けた比奈人。
「どうしろって?」
「ん、諦めて帰れ」
「それを聞く俺達だとでも思っているのかぁ!?」
「いいや」
佳乃の突進を一歩踏み込んで捌き、そのまま、
「この……伏っ!」
私の鞭『仙具 燕舞』の間合いを外して、詰める。
速さで負ける気は無いが微妙に私の呼吸を外してくる。
地を這う鞭を左右に蛇行させて足を狙う。
「翔っ!!」
燕舞を跳ね上げる。
舌打ちが聞こえた瞬間、鞭を巻き込む様に動いた比奈人が着地と同時に薙刀を思いっきり伸ばして突き出してくる。
今度は私が舌打ちする番。
体を掠める刃。燕舞を撓らせて後から攻める。
佳乃も体勢を立て直し燕舞の攻撃を避けた隙を狙う。
目の前で風を巻き込んで比奈人の体が消える。
燕舞は私の動きに併せて勢いを無くし、佳乃は私の横に着地する。
比奈人はビル正門を背に立っている。
状況は変わらず。
いや、取り巻いていた兵が倒れている。
「まったく油断も隙も無い」
倒れている兵の半数以上は佳乃の部隊らしい。
そしてその巻き添えを食らっているのが制羽という人の兵。
「友軍も関係なし、か」
「悪いが見極められん」
悪びれる風も無い。かといって楽しんでいる風にも見えない。
「どれ程の人を殺せば気が済む!!?」
「今更それを聞くか?」
表情は変わらない。
「まぁいい。その答えは俺に聞くな。才蔵に聞け」
「ならばそこを退け」
「出来ん、と何度言えば分かる?」
「退け、と何度言えば分かる?」
今度は正面から打ち合う。
と言っても佳乃の方が圧倒的に打ち込まれているんだけど。
比奈人の速度についていけるのは流石。
しかし、人間は人間。仙士と戦うには圧倒的に不利。
情けないけど私も一人では勝てる気がしない。
だから、私が援護しないと。
「囲」
佳乃さんを打たない様に、集中集中。
燕舞は比奈人だけを狙い、四方から風を唸らせて襲い掛かる。
それら全てを避けきるのはどんなに強い仙士でも無理。
いくつ打ったのかは分からないが、その内の数発には手応えがあった。
その証拠に比奈人の服にはいくつかのほつれが見える。
それは佳乃さんにも言える。
蒼空乃極を持っていた事による強化は限界を迎えようとしている。
「どうやら門は破られたようだな」
後を振り返る。
後からは黒煙が上がり、戦意を上げる鬨の声が地響きの様に轟いている。
「意外に……遅かったな」
苦しそうに呟く。
「あの白亜って言ったか、そいつの踏ん張ってたのか」
遠くを望む。
その白亜って方が踏ん張っていたのに突破された。
それが意味するのは、
「前方には俺。後方には楽。進むも退くも結果は同じ」
薙刀を構え、
「ここいらで幕を引こう」
冷徹な眼差しのまま突進してくる。
神様はいるのかもしれない。
比奈人の突進を止めたのは、楽の軍服を纏った男。
「向かってくる者だけ相手しろ!」
跋維の兵が色めき立つが、向かっていたのは制羽の一部。
それ以外は武器を捨て戦意が無い事を表した。
「彼には俺も貸しがある。それを返すまで誰にも負けて欲しくないのだ」
「未麻中佐。か」
「俺に勝ったんだから、そんな顔するな」
バイクを降り槍を構える。
「ここからは俺が相手しよう」
「それは構わんが」
「止せ。そいつは人間じゃないんだぞ!」
「だからどうした? 強くなれるのなら構わんが」
「出来るかな? お前に」
比奈人の攻撃を捌いていく。
しかし徐々にその速さは増していく。
余裕の顔の比奈人。
対する未麻中佐は次第に劣勢に押されていく。
「中佐っ!」
更にバイクに乗った楽兵が割ってはいる。
今度は女性。
バイクを飛び降り、そのまま比奈人に向かっていく。
「随分と、血の気の多い」
二対一。
私が見ても鮮やかで力強い二槍。
だが、相手が悪い。余裕の表情で突閃を捌いている。
「比奈人が攻勢に転じたら行くぞ」
そっと耳打ち。
私は頷いてそれに答える。