決戦15
楽軍が突入してきたか。
「制羽の軍を囲い込め!!」
楽軍の正面に追い立てる。
所詮は盗賊。作られた逃げ道に逃げ込んでいく。
「楽兵が向こうの通りに進みました!!」
「何っ!?」
兵が言う方向は先程まで戦っていた門。
「もう開けられたのか?」
今度はこちらが窮地に陥る。
「後退する。各部隊に連絡を」
兵に指示を出しゆっくりと兵を下げる。
下がる?
跋維兵を突き倒して、前を見ると兵をまとめて下がっていく部隊がある。
しかし、今、前方に展開している部隊は逃げる事は無い。むしろ、下がっていく部隊に追い立てられていた様にも思える。
目的は何?
友軍を盾してまで逃げようというの?
そんな上官なら、
「手加減はしないわ」
槍を握る手に力が篭る。
制羽の部隊は突破された。
こちらとしては制羽は敵。
それは楽にとっても同じ。
しかし跋維党という組織で見れば制羽も佳乃将軍も同じ跋維党。
だから、制羽の部隊を突破してきた部隊と剣を交える。
流石。
制羽の部隊なんかとはまるで違う統制。
兵もしっかりと訓練されていて一人を相手にすれば後からの攻撃。
それに気を取られれば更に攻撃を受ける。
「下がれぇ!」
楽兵を食い止め、後退するように声を出す。
もう少し下がれば狙撃隊が待ち伏せている。
そこまで行けば数の不足と足を止められる。
南門と西門から続く通りの合流点に部隊を展開させる。
「速いな」
こちらが体勢を整える前に西門からの部隊が追いついてきた。
乱戦の中に響く銃声。
一発に留まらず二発三発と次々と怒号を切り裂いて放たれる。
「友軍の弾に当たるなよ!!」
敵味方入り乱れる戦場では冗談では済まない。
足を鈍らせた楽。
「臆するなっ! この一戦にてわれ等の未来を切り開くぞっ!!」
勇敢な声。
一機、槍を掲げて先頭に立つ兵が。
さっきのはあの女か。
遠めに見る勇敢な兵。長い髪を風に泳がせ小柄だが覇気をまとい兵を圧倒する。
その覇気に当てられた楽兵は銃弾を恐れずに突っ込んでくる。
「押し返せっ!」
勇敢な女を止められずに隊列が崩される。
勢いに飲まれるものか!!
そう気を吐いても兵は押されている。
一気に前線を突破し、
「指揮官っ!!」
バイクが宙を舞い、その勢いのまま突き出してくる。
それを避けて払う。
バイクに突っ伏して払いを避けて、そのまま後方に回り込んでくる。
後を取られるとこちらが不利。
私もバイクを駆り後を取らせない為。兵の士気を上げる為に。
一騎討ちを開始した。
アクセル音が戦いのリズムを刻み槍が謳う。
槍を合わせて思ったのは、この女性が蓬樹が言っていた士官か。
あの時は大げさに言っているだけだと思った。
華奢な体に似合わない技巧。
バイクを体の一部の様に扱い、寄せて引く駆け引き。
力では蓬樹の方が上だが、技ではこちらが上だな。
その両方で劣る私には手に余る。
防戦だけで手一杯だが逃げる事は無い。
ここで時間を稼げるだけ稼がないと本部の前にはさらに混乱する。
その考えも……甘かった。
ほんの一瞬。ちらっと本部ビルを見た瞬間、私の胸には赤く染まった白い槍が。
「こふ……っ」
槍を手に取り、勇敢な士官を見る。
涼やかな視線で私を見つめて槍を引く。
そのまま私も倒れこむ。
「さぁ、進めぇー!!」
暗くなる意識で聞いた声は佳乃将軍の声に聞こえた。