決戦12
翌日。
ボク達は戦闘が始まる前に中心街に入る。
「何処で待つの?」
「兵隊に見つかると面倒だから」
歩来は辺りを見回して、
「ここに隠れてましょうか」
路地の一角を指差す。
「了解」
ここで反論してもしょうがないし、意味も無い。
決戦はすぐそこに迫っている。
「市民の誘導は?」
幕舎で軍議を行う。
市街地戦になる可能性があるので避難を指示しておいた。
「八割の市民はすでに。後の二割は制羽将軍に近いので」
「だと言って巻き込む訳にはいかんだろう」
その相手は制羽の軍。
「戦端が開けば市民の安全を優先する様に部隊に指示を出しておけ」
制羽は今日破れれば何か行動を起こす。
その時に後手に回らない様に部隊を配置する。
「本部ビルの周辺に屯している制羽の軍は?」
「半数に減ってます」
まだ半数残してあるか。
事が起こればなだれ込まれるな。
本部の防衛線は無いに等しい。
「よし、白亜は逃げ遅れた市民を誘導しつつ城門を守れ、その後楽軍を市街に入れて混乱させて制羽の本陣を叩く。俺はは本部ビルにいる部隊を叩く」
「は」
敬礼して去っていく白亜。
制羽に気取られない様に部隊を展開させる。
朝日が昇り、時と共に移り変わり……今は赤く染まった夕日が荒野となった戦場を照らしている。
「いやいや、ここまでやられるとは」
本部ビルに入ってくる情報。
完敗。五万の兵がその命を散らした。
稚拙な策を実行した制羽。それを読み火を用い恐怖を煽り奈落へと導いた楽軍。
兵には悪い事をした。
国の為、時代の為とは言え彼等にも未来があった筈。
それを奪ってしまった。その責任は制羽じゃなく我等にある。
こうなる事が分かっていて出陣を命じたのだから。
「党首。佳乃将軍がそろそろ」
「あぁ。分かっている」
また未来を奪い合う戦いがここで始まる。
昨日まで味方だったもの同士の。
「俺が行こうか?」
「そうだな。先に行っておいてくれ」
比奈人に先に出てもらい制羽を待つ。
それから程なくして帰還してきた。
その顔は恐怖と疲れで一気に年を取った様に見える。
この状況ならまともな思考は出来ないだろう。
「制羽。帰ってきた所悪いが、知らせが一つある」
制羽は声を出さずに聞いている。
「昨日の誓紙の事だ」
それだけで何が言いたいのか伝わる。顔は青ざめ視線は生気を失う。
「この状況を打破するには、礼儀を討つのが上策だ」
「討つ」
「そうだ。君が礼儀を討ち、残った跋維をまとめるんだ」
「私が」
「そう。君だ」
制羽の震える手を握る。
血が通っていないと思えるほどに冷たい手。
「そのチャンスは今だ。本部ビルも包囲している。君の号令を兵は待っている」
しかし制羽は声を出そうとも動こうともしない。
「制羽。君は死ぬ為にここに帰ってきたのか? それとも王座を掴む為に帰ってきたのか?」
答えない。
「制羽。俺達が君に力を貸す。そうなれば劣勢を覆すのも簡単だ。後は君の号令一つで全てが上手くいくんだ」
徐々に手に熱が篭ってくる。
その時、
「将軍、楽兵が城門を破りました!!!」
びくん、と制羽が反応する。
「恐れる事は無い。俺が全て討ち滅ぼす」
何時までもこうしている訳にはいかない。
言葉で言っても分からないのなら、目の前で俺の力を見せた方が速い。
幕舎を出て、城門まで進む。
その時に制羽の部隊と戦っているのは楽軍だ。
「何故ここに?」
「気にするなすぐに消える。君の力で」
そう言って制羽を護衛の兵に任せて、剣を抜く。
「はぁぁぁ……」
刀身に手を当てて意識を集中する。
本来ならこんな事はしなくてもいいんだがデモンストレーションとしては派手にやりたい。
そうしないと制羽は動かない。
「退けぇぇぇ!!!」
剣を振り抜く。
一陣の風の後が駆け抜ける。兵は風に切り裂かれ衝撃に叩きつけられる。
風が通り抜けた後には建物が砕け、血の匂いと切り裂かれた兵が倒れている。
「これが君の力だ。制羽」
制羽の目に野心に満ちた光が灯る。
「私の……力」
「そうだ。国を制し次代を制するのはこの力を持つ君だ。その一歩として礼儀を討つ、と号令を出すんだ」
剣を制羽に渡す。
制羽はそれを掲げて、
「礼儀を討ちこの戦いを制する!!」
本部ビルを指し、先頭を歩いていく。