決戦11
翌日も勝ち目の薄い戦闘を始めた制羽。
こうなってくると俺が挑発されている様に思えてくる。
なにせ制羽の後には才蔵がいる。
その入れ知恵かと思ったが、そうでも無い様な気もする。
どちらにしろ俺が動かないと始まらない。
主導権を握っていると信じて、行動しよう。
予測通りの敗戦の後、本部に制羽を呼びつけて軍議を開催する。
集まったのは螢送守備隊の主だった面々。
その中には制羽に近いのもいればそうでないのもいる。
「連日の敗戦で兵の士気は下がり、また補給の難しい現状でその数も減少した」
「それは、楽軍に園典での勢いがあるかと」
「園典の戦いから日を重ねている。目の前の戦闘には関係していない。それなのに敗戦を続けるのは戦闘指揮官の力量によるのではないか?」
「私が楽軍に劣ると?」
「結果がそう言っているのではないか?」
「馬鹿な事を。それにまだ二戦しただけ」
「その二戦で失った兵や物資はどうする? 各地からの増援を求めるにしても日数が掛かるし楽もその事を警戒している」
「そこで、党首の兵をお借りしたい」
俺ではなく口を開かずにいた、礼儀に向き直る。
「党首の兵は精鋭。楽兵に後れを取るような事は無いでしょう」
「貴官の兵はどうする?」
「党首の兵と併せればまだまだ楽兵を上回ります。それからが本当の戦いです」
「本当の? 戦いはもう始まっているのだぞ」
「佳乃将軍、この二日の敗戦は戦略的敗戦です。これはあの園典での戦いの借りを返す為、わざと敗走していたのです。そろそろ向こうもこちらを甘く見ているはず」
……アホだ。
そんな事は向こうだって分かっているだろうし、たった二日の戦闘で調子付くほどの間抜けはいない。コイツを除いて。
だが……お前に兵を預ける事で事を起こしてくれるのならそうしよう。
俺は笑いを見せない為に俯いて、
「党首……ここは制羽将軍に任せてみては」
「佳乃将軍!!」
近くにいた守備隊長から異論の声が上がる。
「制羽将軍が指揮を執って二日。それなのに指揮官を交代していては兵が戸惑うし敵を呼び込むだけだ」
制羽は俺の弁護が意外だったらしく、目を開いて俺を見ている。
「将軍! そんな事では螢送は落とされてしまいます! ここは将軍が指揮を執るべきだと!」
俺は一瞬の間を開けて、
「私も制羽将軍の指揮を疑うわけではないが、納得していない者もいるのも事実。で、制羽将軍に一筆書いてもらおうと思いますが」
礼儀を見る。
礼儀はただ、頷いただけ。
「書く、とは」
「次の戦闘に自身の首を賭ける、と」
首を賭ける、の言葉に竦む制羽。
集まった一同の視線が、制羽に向けられる。
「次の戦闘には自信がある、と言っていたのは策通りに戦局を動かしてきたからでは無いのですか?」
制羽の指揮に異論を持つ将校達からは書く様に、との声が上がる。
反対に制羽の息の掛かった将校達はどうしたものかと顔を伏せる者ばかり。
「将軍が党首の兵を借りるのは楽に敗北を与える為ではなかったのですか?」
何か言おうとしたのを制する様に俺が声を張り上げる。
「まぁ、制羽将軍には制羽将軍のやり方があります。その上で党首の兵が必要ならば私からもお願いします」
礼儀を見ると表情を変える事無く俺を見ている。
考えは通じていると信じる。
「一ついいか。佳乃将軍の報告には後二日程で佳乃将軍の部下がここに到着すると言っていたが」
「はい。間違いないかと」
「では、制羽将軍はその者達と挟撃するのが策か?」
制羽の答は、長い沈黙の後に聞こえた。
「いえ。その援軍が来る前に決着を、と考えています」
「挟撃の方が有利になると思うが?」
「その情報も敵が知っているのは間違いないかと。それならばその情報で後方にも警戒している間に正面からの攻撃で打ち破るのが上策かと」
今度は礼儀が目を閉じて沈黙を作る。
「分かった。制羽将軍には私の兵、五万を与えよう」
その決定にどよめく室内。
五万といえば礼儀の兵全て。
「ははっ」
予想外だったのか、制羽はテーブルの上に頭をつけている。
「将軍、私の兵を五万出すのだ。誓紙を書いてくれ。それでここに居る皆も納得できる」
思った以上の待遇に頭が回らないのか、制羽は躊躇無く誓紙に名前を書いた。
「皆も将軍を補佐し楽を撃ち破り平和な時代を作り出そう」
礼儀の言葉で一同が歓声を上げて、軍議は解散した。
「思い切ったな」
二人、礼儀の部屋で話している。
「何、君が言った言葉を信じているだけだよ」
そう言われるとなんとなく照れくさい。
「あ。そうだ」
あの三人組の事を伝える。
「ほう。あの仙士を追っているとはね」
「才蔵達に関しては味方だな」
「それだけでもありがたいよ。敵は少ない方がいい」
「私にそんな価値があるとは思えないがね」
「才蔵の考えている事など知らないさ。だが、確実に動くのも間違いないよ」
「その時になったら聞いてみよう」
「何を?」
「何故、私達に手を貸すのかって事を」
子供の様に笑う礼儀。