決戦9
……。
「どうするよ? あの大将は」
笑い顔で言葉が途切れる。
「そう言うな。佳乃の様な将が稀だ。俺達にとって有能な将であるかなんて関係ない」
必要なのは言いなりになるか、だ。
その一点においては制羽という男は佳乃を上回る。
佳乃は有能だった。仙具を扱えるほどに。
しかし、あの男は小心で野心家、というこちらの思った通りの人材だ。
佳乃に蒼空乃極を与えたのは、国を滅ぼさせ様と思ったのだが、意外な敵を呼び寄せてしまった。
しかし蒼空乃極を引き換えに敵は去った。
残っているのは警戒はするがどうという事はない仙士二人。
それと、わざわざ冥仙から来た歩来。
その他にも仙士がいるだろうが、向こうから仕掛けてきたら戦うがこちらから仕掛ける必要は無い。
「お前が怪我してなければこんな無駄な時間を使う必要も無かったのだがな」
「うるさい。今度は真剣に戦うさ」
「いつもそうして欲しいものだ」
目を戦場に向ける。
「さて、礼儀に会いに行こうかな」
「おい。螢送にはあの三人がいるんだろう?」
「障害は早い段階で取り除いておきたい。相手が歩来なら尚更だ」
制羽は戻ってきた兵に怒鳴り散らし、自陣に戻っていったらしい。
「呆れた司令官だな」
思わず声に出てしまう。
「将軍が指揮を執れば勝てた戦いでした」
残っていた白亜が意地悪そうに呟く。
「おい。分かっているとは思うが」
「ここ以外では言いませんよ。この街のいたる所に制羽将軍の息の掛かった連中がいますから」
「ならいいが」
白亜に限って外で言う事はないだろう。
それより気になる言葉が、
「今、制羽の部隊が街に居るだと?」
「はい。治安維持の名目で武装して巡回してますが」
「いつからだ?」
「さぁ……私には……どうしました?」
白亜は俺と共に園典からこっちに来たんだから何時からなんて分かるはずが無い。
「将軍」
制羽はタイミングを計っているのか?
「将軍?」
となると、あの二人に会っておいた方がいいか……。
「お。おぉ、どうした?」
何時の間にか白亜が目の前に立っていた。
「将軍こそどうしました、何か気になる事でも?」
「まぁな。俺は少し散歩してくる」
後で白亜が何か言っているが、任せておけばいいだろう。
今日の敗戦のせいだろう。
街の空気が思い。通りに人通りは無く通りに沿った店にも明かりは無い。
市民全員がいつここに楽兵が押し寄せてくるのかを不安に思い、過ごしている。
遠くから足音が聞こえる。それは近づいてきて俺に気付くと敬礼をして去っていく。
それを見送って人気の無い通り、街灯に照らされた石畳の歩道を歩いていく。
それからもいくつかの部隊と会った。
その部隊は全てが制羽の部隊章を付けていた。白亜の言葉の裏が取れた。
治安維持にしては物々しいな。
これは本当にタイミングを狙っているのかも知れない。
確実な時とは何時だ?
いつしか頭の中はその事だけで一杯になっていた。
「はぁ〜」
「何よ?」
「や、別に」
「そう」
螢送の郊外、といってもキャンプ場にテントを張って生活してはや三日。
日に三度必ずやって来るご飯タイム。
食料は街で仕入れてくる。テントで寝るのもそんなに嫌ではない。
「さて、食べましょうか」
理緒もなんとなく箸の動きが鈍い。
「いただきます」
「「いただきます」」
歩来に続いて端を動かす。
そう、気が重いのは歩来の作る食事。
マズイ訳じゃない。
ただ、味付けがこう……違うというか、ズレているというか。
ここが違う、とはっきり言えないが確実に間違っている味付け。
風仙界にいた頃はボクが食事当番だったのだが、その修行が足りなかった。
もっと真剣にやっていれば……。
後悔は常に後からやって来る。
「どうしたの?」
歩来の満足げな顔を見ると何も言えない。
「き、今日も、美味しいね、史紀ちゃん?」
一瞬の間がなんとも言えない気遣いを表している事を知っているのはボクだけだ。
「お、おう。そうだな」
毎度の事だが、勢い良くご飯をかきこむ。
これがいけなかった。
「良く食べるね。じゃ明日も今日よりも多めに作るね」
……。
お茶碗を持ったまま、横目で理緒と目が合う。
その目には薄っすらと涙が見える。
ボクは体勢を崩さずに、ゴメン、と思いの乗せて理緒を見る。
今日も頭上には輝く月と星。
流れ星に願いを乗せたいと本気で思う今日この頃。
「明日は何にしようかな〜」
歩来の嬉しそうな声が夜風に流れる。