森の中
男との戦闘の後、少し先にある森の中に入り一休み。
「はぁ、つっかれた〜」
木に凭れかかり、体を伸ばす。
「あの……さっきのは?」
「盗賊のリーダーじゃないの?」
「じゃ、なくてその」
由宇が指差すのはボクの左手。
「あぁ、これ?」
「なんか、不思議な?」
「不思議って」
まぁ、そう見えるだろうけど。
「これは『仙具 箒星』五仙界でも珍しいのよ」
由宇は正座して聞いている。
その姿になんとなく、講義している気になってきた。
「飛盾って言って風仙界が一番使ってるの。射出してからもある程度は軌道を操れるの。当然、修行が必要だけど」
「凄いですね」
「凄いの。間違いなく。もっとランクの高いのになるといくつかの飛盾を扱う事も出来るの」
「へ〜」
由宇の羨望の眼差しが気持ちいい。
「動力はなんですか? 仙具に込められてるんですか?」
「仙具の動力はその使い手の体力なの。状況の応じて威力を変えるが基本ね。一撃必殺で勝負するのは危険だし」
「ここぞ、という時だけですか」
「そうね」
「へ〜。なるほど」
「あ、言っとくけど誰にも言っちゃ駄目よ。ボクが仙士だってのも。面倒な事に巻き込まれるのはヤだし」
「はい。分かりました」
焚き火を囲み、ぼんやりしていると眠くなってきた。
「時計持ってる?」
「はい。持ってます」
「じゃ、ボクは休むから一時間たったら起こして」
「分かりました」
ゆさゆさ、とボクの体が揺れている。
遠くで声が聞こえる。ボクの体内時計によればまだ、一時間経ってない筈。
ゆさゆさからがたがたへと揺れる力が大きくなってきた。
「おい! 起きろ!」
耳元で怒鳴る声。
「おい! 起きっ!」
「うるさいわっ!!」
左手を突き上げる。
見事ヒット。
「あ、おはようございます」
「おはよう……あれ?」
由宇は焚き火の前に座っている。
ボクの横に倒れているのは、
「誰?」
顔を見る。
「あっ!」
さっきの盗賊! とりあえず凭れていた木に縛り付けておく。
で、距離を開けて、
「由宇」
「はい!」
「事情……を説明してくれるかな?」
努めて優しく語り掛ける。
「えっと、五分位前に来て、それで自分は盗賊じゃなく水仙界から来たと」
「水仙?」
縛り付けた男を見る。
「マジで?」
男を見る。
当然、見て分かる訳がない。
「由宇、人を見た目で判断するのは良くない事よ」
「……はぁ」
「じゃ、ここから離れよう。この場所がバレたとなると安心して寝れないし」
荷物を持って立ち去ろうとすると、
「おい! ちょっと待て!!」
男がタイミング良く目を覚ました。
「何?」
縛り付けてあるのでこっちが有利だが、一応距離を取る。
「お前も仙士か?」
「そうだと言ったら?」
「すまなかった。こっちの勘違いで矛を向けてしまった」
縛れたまま、頭を下げる男。
「分かればいいのよ。じゃ」
「ちょちょちょちょ。待て」
「何よ?」
「行くのならこれを解いてから」
「嫌よ。じゃ」
「ちょちょちょちょ。待て……睨むなよ。とりあえず、名乗らせて貰う。私は『久遠水仙界の仙士』だ」
「あ、そ」
「君は?」
「さぁ?」
答える義務など無い。
「史紀様」
「様はやめろ」
「史紀、と言うのか?」
この、
「痛っ」
勝手に答えた由宇の頭を叩く。
「で、水仙の久遠サンが何だって盗賊の仲間になってるのかな?」
「勘違いだと言っただろう」
「だから、アンタが盗賊やってたって事のどこが勘違いなのよ。現にボク達を襲ったじゃない」
「いや、すまなかった。私も君を盗賊と思ったんだ」
「え、ボク?」
頷く男。
「こっちじゃなくて?」
由宇は困った様に微笑んでいる。
「行くよ。由宇」