決戦4
楽軍の陣。
朝方に出陣した直後に攻め立てて今は陣内での乱戦となっている。
陣門に立ち陣前を眺めると、退いてきた兵の上げる土煙が見えた。
「仁都大尉、どうしますか?」
この状況でも慌てない士官を頼もしく見て、
「程地の隊に任せよう。伝令を出せ。こっちはやるべき事を成すだけだ」
指揮系統は乱れつつある。
何か物足りないが……。
「仁都大尉からの伝言です」
「なんだ」
一枚の紙に書かれていたのは、
「任せた」
とだけ書かれていた。
しかし、粉塵が思ったよりも少ない。
「蓬樹が大半を討った後だからな」
手負いは怖いか。
「全隊、敵を甘く見るなよ!!」
自分にもそう言い聞かせて敵を迎えに行く。
一人の女士官に会った。
将軍や蓬樹が言っていた士官だと一目で分かった。
あの二人が言う位だからかなり強いのだろう。
俺はあの二人ほど強くないのでこっちから仕掛ける事は無かったが倒される自分の部下を見ているだけってのも気に入らない。
「おい、調子に乗るなよ」
勝てる気がしない一騎討ち仕掛けた。
こっちから仕掛けておいてなんだが、攻める事が出来ない。
防戦で手一杯だ。
それもかなり厳しい。
相手を見る事すら出来ない。
くそ、美人だって聞いてたのに顔すらよく見えないとは。
ちらちらと視界には入るが、なんとなく物足りない。
くそくそ。もっと槍の鍛錬をしておけば良かった。
今、後悔しても後の祭り。
陣の手前、と言ってもそれなりに一キロほど距離がある。
陣は落ちた。敵将を捕らえる事は無かったがここを取る事を目的にした戦闘だから目的は達した。
「誰か、伝令を」
戦っている程地にその事を知らせ、その後方から迫ってくる蓬樹にも同様の伝令を出す。
「皆ご苦労だった」
楽陣に入り、戦闘の疲れを労う為の酒宴を開く。
「仁都、一番乗りだったんだろ」
「将軍の策通りにやればそうなるじゃないですか」
蓬樹は面白くなさそうに杯を煽っている。
一番乗りを果たした仁都が酒宴に相応しくない顔で、
「何か誘っている様な印象を受けたのですが」
「だろうな」
蓬樹に習ってぐいっと俺も煽る。
「これは罠という事ですか?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える」
「何が言いたいんですか? 酔いましたか?」
「この程度では酔わないさ。この陣には未麻中佐が居なかっただろう」
「そういえば。何処に」
「おそらくは」
俺が指差す先は、
「そっちはわれ等の本営がありますが、……まさか!?」
「いや、本営を落とすにはここの兵力だけでは足りない」
「その先は、夕音!?」
「その先だ」
更に一杯。
「螢送!!!」
「そうだ。おそらく姫辰も行っているだろう」
「それなら螢送に辿り着く前に園典を落とsのですか?」
「ここに俺たちを引き付けるのが楽の策。乗ってやる必要は無い」
「いつ頃出撃したのでしょうか?」
「俺達が陣を築いている時だろう。全く攻めて来なかっただろう、下手につついて本隊に気付かれたくなかったんだろう」
「それを分かっていて何故戦いました?」
「篭っている敵を討つのは時間と労力が途方も無い上に敵将が姫辰では勝機が無い。しかし出てしまえばこちらにも戦い様がある」
それは半分の理由。。
後の半分は制羽を動かす事。
遠く離れた夜空の下には俺とは違う考えを持った同士が居る。
「全軍に通達。今夜の酒宴が終わったら螢送に向かう」
驚く将兵を眺めつつ杯を開ける。