決戦3
翌日。
日が昇り始める前に、
「うぅをぉぉぉおおお〜……」
雄たけびが陣内に響き渡る。
声の主は、顔を見ずとも分かる。
こんな事をしでかすのは、この遠征軍十万の中でもただ一人。
「蓬樹……」
決して陽動には向かない男。
まだ靄がかかった頭を、冷たい水に浸して靄を払う。
「よし」
ぱん、と顔を叩いて気合を入れて幕舎を出る。
夕べのうちに整えて置く様にと通達しておいてので、二時間で全隊の出撃準備は整った。
「各員の無事を期待する。出撃っ!」
蓬樹を筆頭に出撃開始。
戦場は昨日よりも園典に近い。
蓬樹の隊は敵をまさになぎ払う、と言った表現が相応しい戦い方を行っている。
俺の隊はその後方から援護と討ち漏らした楽兵と戦っている。
こう言っては相手に失礼だが、物足りない。
相手に不足だな。そう考えた俺は情勢を眺める為にもう少し後方に下がる。
前線では蓬樹が昨日の二人を探して奮戦している事だろう。
何人目か分からない楽兵を倒す。
何処にいる?
昨日将軍と戦った相手は?
前に戦った二人は?
寄せてくる楽兵が煩わしい。
斧槍を振り回し、赤く染まる道を作る。
「見ぃつけたぁ!!」
声を張り上げ攻めて行く。
最初に見つけたのは女。
顔と雰囲気は変わらずに、綺麗な見惚れてしまいそうな槍裁き。
見間違うはずも無い。
「この状況でっ」
向こうも俺の事を覚えていてくれた。
その事が妙に嬉しい。
「状況で戦う相手を決められたらなんの苦労も無いわな!!」
「全くだ!]
勝気な瞳。
風の様に軽やかに舞う槍。
綺麗。
その言葉しか浮かばない。
「せいっ」
払いを受け止め、攻撃に入る。
上から打ち下ろし、切り上げてなぎ払う。
それらを止める事無く受け流す。
位置を変え突いて払う。
剣戟が響かない。聞こえるのは小刻みなアクセルワークとタイヤの軋む音。
戦いにくい。
ガンガン打ち合うのが俺のスタイルだが、パワーでの勝負は避けられる。
技での勝負なら俺に分が無い。
それを上回るパワーがあれば良いが、向こうの技の方が上手だろうな。
無理に攻めれば向こうの思う壺。
どうしたものか。
背を向けるのはポリシーに反するし、良い案も浮かばない。
相手は俺の動きに併せて動いている。
真似てみるか……?
右に突き出せば、俺は左に。
回り込めば回り込む。
次第に手数が減ってきて、一騎討ちらしくない一騎討ちになった。
じりじりと焦れてきた隊の連中。
兵達も自分達の役割を思い出してきて、乱戦になった。
こうなったら一騎討ち所では無い。
お互いの兵が敵将に群がる。
「決着は次の機会に」
そう言い残して去っていく女士官。
まったく……こうなったら何か手柄を立てないと陣に帰れないな。
嬉しそうに笑っている将軍の顔が頭に浮かぶ。
こうなったらもう一人の方を探すか。
将軍に怪我させられたとか言ってたけど。
はぁ、手負いを討つのもポリシーに反する。
だんだん引き上げたくなってきたが……出来る訳が無い。
自分の役割を果たす事に集中しよう。
……はぁ……。