夕音決断
さて。どうしたものでしょうか?
彼には私達の考えなどお見通しの筈。
その証拠に本人が知らない、と言ってますし。
その上でこちらの聞きたい事を聞き出すなど無理なのでは?
「才蔵達の事は本当に知らない。それが聞きたかったんだろう」
「え。あ、はい」
「だが、やろうとしている事は分かる」
「はぁ」
もうなんだか分かりません。とりあえず相槌を忘れない様にしておくことにしました。
「跋維を二つに割る事だと思う」
「二つに、ですか」
「そうだ。その為の人選はもう終わっているだろう」
「ちょっと待ってください。それが分かっているのなら貴方が何か手を打たないと」
「そのつもりだ。その為には君達の力が必要なんだ」
「……は?」
そこで何故私達が?
「言っておきますがこの国で起きている戦争に加わる気はありませんよ」
「そこに才蔵達が絡んでいれば入るだろう?」
「まぁ、それは」
それが目的だし。
「意地悪い言い方だったな。君達は才蔵を相手にしてくれればいい。それ以外はこっちで引き受ける」
「それならば」
史紀ちゃんも納得してくれる。
事を期待する。
「で、具体的には」
そこが肝心。言いなりになって使われては私が怒られる。
「制羽という男の下に居る筈だ。そして、俺達がここを離れれば奴等は礼儀を狙うだろう」
「礼儀、と言うのは?」
「跋維党の党首。彼の椅子を狙っている奴は多い。その中で野心に溢れ小心なのは制羽一人」
「居所は分かりますか?」
「ここから南に行くと螢送という街がある。そこに」
「なるほど。螢送」
忘れないようにメモッておく。
「君達は螢送に入って礼儀を守って欲しい」
頭を下げる。
「あ、頭を上げて下さい」
「頼めるのは君達しかいないのだ!」
「で、断りきれなかった、と」
「……はい」
消え入りそうな声の理緒。
ボクとしては追っている気は無いのだが。
「で、そこに行けば才蔵達に?」
「十中八九と」
ふむ。現状では悪い話ではないな。
「よし。行くか」
元気良く立ち上がって理緒の手を引っ張って公園を出る。
「あら。どちらへ?」
公園を出ると、ボクの元気は無くなった。
「史紀ちゃん?」
「史紀ちゃん、どうしたの?」
「あ。いや」
迂闊だった。もうこの街を出たと思ってたのに。
「顔青いよ?」
「大丈夫。うん。行こうか」
「何処へ?」
「ご飯食べに」
「あれ、螢、うっ」
喋ろうとする理緒の鳩尾に一撃をプレゼント。
「なんで??」
喋るな、と視線で訴える。
「ご飯なら奢るけど?」
「いや、そんな、初対面の人に奢ってもらう訳には」
「気にしなくていいわよ。情報料だと思ってくれれば」
それが嫌なんだよ。察してくれよ。……察しているからこそだな。
どうする。どうやって逃げる?
理緒は苦しんでるからアテにならない。
誰か頼りになるのはいないのか?
「どうしたの?」
視線だけであたりを確認していたのがバレた。
きょろきょろと辺りを見回している。
チャンス!
ボク達から視線が外れた。その瞬間に理緒の手を引っ張って走り出す。
何処をどう走ったのかは分からないが、どうにか車まで逃げる。
「はぁ、はぁ……疲れた〜」
理緒の手を離し車にもたれ掛かる。
「なんで急に?」
理緒は座り込んで胸を押さえている。
「なんでって」
「あの女はなんとなくヤバイ気がしたんだ」
空を仰ぐ。風がそよいで雲が流れる。乱れた呼吸も徐々に落ち着いてくる。
「なんで走っていったのかなぁ?」
!!!!????!!!
突如として塞がった視界。声にならない驚きが頭の中を走り回る。
その原因となる人物は微笑みながらボクを見下ろしている。
「ん〜、どうしてかな〜、お姉さんに教えて欲しいな〜」
微笑とは逆の雰囲気が怖い……。
「あ。いや」
逃げる事はもう出来ない。
大人しく、彼女に事情を話し、
「それならそうと言ってくれれば良かったのに」
後に乗り込んだ彼女はとぼけた顔で言い放つ。
ハンドルを握る理緒がボクにそっと、
「最初から分かってたと思うんですよ」
「ボクもそう思う」
こそこそと話しているボク達に、
「何を喋っているのかな?」
「なんでもないよ」
「あ。私の事は歩来でいいから。私も呼び捨てで呼ばせて貰うから」
「了解」
車は進む。
螢送の街を目指して。