夕音会談
歩来と名乗る女の追求に戸惑う。
「さぁ。手掛かりって何?」
「えっと」
答えたくは無い。
しかし事態はボクの味方じゃない……いや、味方だった。
「なんで蒼空乃極の事を知ってる」
咄嗟に気付いた。
この事は風仙界の出来事。
それを知らせる事など無いはず。そんな事をしたら自分達の失態を宣伝するのだから。
「風仙界からの通報よ。才蔵達の行方を聞いてきたのは。なりふり構ってられなかったんじゃない? 取られた物が物だし」
なるほど。
って……納得してどうする。
「で、冥仙は才蔵を討つ事に決めたの」
「風仙と一緒にか?」
「いえ。そちらは蒼空乃極の回収、こちらは討伐と役割を分けたの」
「なんでさ?」
「こちらが協定を破って蒼空乃極を回収されたら困るからでしょ?」
「なるほど」
って頷いてどうする!
「はっきり言うね」
「誤魔化してもしょうがないし。それにもう意味ないでしょ、蒼空乃極はそちらが回収した。後は才蔵を討つ。それだけ」
「そちらが才蔵を使って戦争しかける可能性も」
「無いわ」
あるんじゃないの、と言い終わる前に否定された。
ちょっと悔しい。
「今の冥仙の評議会に五仙と事を起こす気のある委員はいないわ」
「そう」
となると才蔵の目的は何?
今更だけど気になってきた。
早く理緒と合流しないと。その為にはこの女にどうにかしてこの街から出て行ってもらわないと。出来れば見当違いのところを探索して欲しい。
ボクの邪魔だから。
「何、じっと見て」
「なんでも」
そう、と女は立ち上がり、
「ケータイ教えて?」
「……持ってない」
驚く女。
なんとなく恥ずかしい気持ちになる。
「仙人がケータイで連絡を取り合うのはシュールだろう? だから持たないんだよ。そうしょっちゅう連絡を取り合わなきゃいけない相手もいないし」
「言ってて哀しくならない?」
「……別に」
精一杯の強がりじゃないぞ。
「それに契約の時とか面倒だろう」
「そんなの適当に……」
なんて奴だ。
「じゃ、私の教えとくから分かったら連絡してね」
紙に番号を書いて差し出してくる。
それを受け取る気など無かったんだが、目の前で捨てる勇気も無い。
渋々、受け取って女を見送る。
ふぅー。ようやく理緒を探せるな。
街からは銃声が聞こええる。
私は聞きだした情報を信じて、彼の居る場所を目指して走っている。
確かに陽動は史紀ちゃんにぴったりだ。あたりには兵の姿も無く無駄な戦闘をしなくていい。
第一、仙士が人間と戦って言い訳が無い。
そりゃ身の危険を感じたら戦うけど……。
平和が一番。それを史紀ちゃんに教えるのが年長者としての私の役目ね。
うん。きっとそうだ。それが私の運命なんだ。
なんとなく前途が不安だがきにしたら負け、と思って前を向く。
目の前には大きなビル。
『夕音市役所』
と立派な看板が立っている。
鞭を手に、戦う覚悟を決める。
「人が居ません様に」
決意とは反対の言葉が口から出る。
市役所内は意外に静まり返っていた。
人の気配はするが、向かっては来ない。
わたしとしてはそちらの方が良いが、なんとなく拍子抜けしたのも事実。
とりあえず警戒しつつ階段を登っていく。
二階から三階。そして四階。緊張と警戒が漂う中ゆっくりと足を進めていく。
最上階に辿り着いた。
誰か居る気配はある。
一歩一歩歩を進めていく。最初のドアを抜け、鞭を構える。
綺麗に片付けられていて誰も居ない部屋。奥に続くドアがあるだけ。
警戒しつつドアを開ける。
そこには余裕の顔をした男性が一人。
間違いなくあの夜の男性。
「話があるのだろう」
目の前のソファを指して、
「座ったらどうだ、別に敵対する理由は無いだろう」
私は警戒しつつも前に進む。
「最初に言っておくが、才蔵達との連絡はもう取れなくなっているんだ」
私がここに来た理由も分かっている。
「じゃ、この静かな屋内は貴方の指示?」
「あぁ、これでも跋維党では上位の強さを持っているんだ。その俺が敵わないのだから無駄な負傷者は出したくない」
「じゃ、私がここに来たのも」
「才蔵達の居所は知らない、と言っただろう」
「それを信じろと」
「それはそちらの自由だな。こちらとしては君達を騙しても利益が無い」
嘘を言っている様には見えない。
どうしよう、史紀ちゃん。彼は私達より数段頭が切れるようです。